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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-013 冬越しの準備


 第2小隊全員で荷車を5台曳いて森へ向かう。

 朝食を早めに食べてお弁当を持って行くから、何となく遠足気分だけど全員が武装しているのは魔族に備えての事だろう。

 ナナちゃんは荷車の上でご機嫌だ。とりあえず弓矢を持たせてあるし、背中に短剣を背負わせておいた。

 

 2時間も掛からずに森に到着すると広葉樹の立木をノコギリで切り倒して行く。抱えられる大きさの束にして荷車に乗せる。

 なるべく太い木が良いようだけど、かなり重くなるんだよななぁ。

 こっそりと【ドーパ】の魔法を掛けて身体機能を向上させる。


 ナナちゃんとレイニーさんが弓を持って周囲を警戒しているから、不意を突かれることは無いだろう。


 2台の荷車に焚き木が山積みになったところで焚き火を作り昼食をとる。

 ハムサンドにお茶という簡単な昼食だけど、疲れた体には美味しく感じる。


「たくさんキノコを見付けたにゃ!」


 見張りから帰って来たヴァイスさんが、カゴに一杯のキノコを見せてくれた。そのカゴをリットンさんが受け取ると、エルドさんと一緒に別のカゴにポイポイとキノコを入れ始めた。


「食べられるのは三分の一ですね。今回はかなり多いですよ」

「そっちが食べられるキノコってことか?」


 唖然として見ていたんだけど、食べられないキノコってことは毒キノコってことだよな? どういう感性でキノコを採取してきたのだろう、と考えてしまう。


 エルドさんが近くに穴を掘って、排除したキノコを埋めてしまった。

 来年はその穴から生えて来るかもしれないと思うと、ちょっと怖くなってしまう。


「それだけあれば行商人も喜んでくれるんじゃないかしら? 次も頼むわね」


 レイニーさんが褒めてるところをみると、キノコ狩りも焚き木集めと同様に重要な仕事のようだ。

 詳しく聞いてみると、冬の兵舎で過ごすためのおやつ代ということらしい。

 雪に埋もれた砦なら訓練もろくにできないということで、食料の節約の為に昼食が無いとのことだ。

 お腹がすくから、そのためのおやつを小隊単位で行商人から買い入れると教えてくれた。。


「さすがに3カ月分にはならないわ。不足分は私と分隊長で分担して出すの」

「今年は俺も出せますから少しは量を増やせるかもしれませんね」


 おやつと言っても色々あると思うんだが、何を買うんだろう?

 雪が降るまで楽しみにしていよう。


 昼食が終わると、再び焚き木を集める。

 残り3台の荷車に焚き木が積まれると、俺達は砦に向かって荷車を押して行った。

 

 砦に到着すると指揮所の横に10束の焚き木を下ろして、残りは兵舎の軒下に積み上げる。

 まだ数十束が残っているのは、昨年の冬に集めた焚き木の残りなんだろう。

 冬が来る前に、もう2回ほど焚き木を運ばないといけないらしい。


 3回目の焚き木を運び終えた時だった。

 荷車5台分の荷降しをしたのは1台分だけで、4台分はそのまま荷台に乗せている。

 不思議に思ってレイニーさんに訊ねてみると、砦の外で炭作りをするらしい。

 何度かそんな光景を屋根の上で見ていたんだけど、ずっと疑問だったのがこれで判明した。


「暖炉や素焼きのストーブはあるんだけど、睡眠時にはコンロを使うの。コンロ用の炭は部隊で作らないといけないのよ」

「蹴飛ばしたら火事になりそうですね」

「簡単にはひっくり返らないわ。それに部屋ごとに水桶を置いておくのよ」


 どうにか炭も作られると、もう1度2台の荷車で炭焼き用の焚き木を取りに行った。

 少しでも温かく過ごしたいということなんだろうな。


 砦の仲間が交代で焚き木を集め終わるころには、朝晩がかなり冷え込んでくる。

 荷馬車を連ねた行商人が何度も砦を訪れるのは、冬越しの食料や嗜好品を兵士達に売り込むためなんだろう。

 ワインを数本、タバコの包を2つ買い込むと、ナナちゃんもおやつをたっぷりと買い込んでいる。

 ついでに編み棒と毛糸を買っていたけど、誰かに習うんだろうか?

 小隊の仲間を思い浮かべても、そんな趣味を持っている人物が思い浮かばないんだよなぁ。


 下士官室の暖炉に1日中火を焚くようになって何日か過ぎたころ、ようやくその人物が分かった。リットンさんが教えてくれるらしい。ナナちゃんと一緒に暖炉の前に陣取って編み棒を動かしていた。


「リットンさんは器用なんですねぇ」

「私の村では皆できるの。冬は仕事が無いから……」


 どこの村の暮らしも楽ではないということらしい。

 エルドさんは焚き木をナイフで削ってスプーンを作っているし、ヴァイスさんは革細工をしていた。

 何もしていないのは俺とレイニーさんだけだ。さすがに小隊長が内職をするのは問題だろう。


「今朝はだいぶ冷え込んだし空は灰色だったから、北風が強くなれば今夜から降るんじゃないかしら」

「雪が降ると、砦はどうなるんですか?」


「雪掻きをしないといけないの。私達の範囲は屋根の上だから、かなり寒いわよ」

「休憩所の焚き火でスープでも作りながらやりましょう。トウガラシを手に入れたから、スープに入れれば温まるよ」


 毎日とはいかないだろうけど、たまになら良いんじゃないかな。

 お湯に入れればスープができるという品をいくつか手に入れたし、トウガラシも良く干された実を20本以上手に入れることができたからね。


 翌日。ナナちゃんにバンバン布団を叩かれて目が覚めた。

 身支度をしている俺に、嬉しそうな表情でナナちゃんが教えてくれる。


「雪が降ってるにゃ! 私の膝までにゃ」

「そりゃ、すごいな! 止んだら雪ダルマを作らないとね」


 うんうんとナナちゃんが頷いている。

 シャツの下に毛織物のインナーを1枚追加して寒さに備える。バックスキンのズボン下も綿だから替えた方が良いかもしれないな。

 セーターを着て、革の上着を着る。

 ナナちゃんを見てみると、何時もの格好だ。

 上着を脱がせて俺と同じような格好に着替えさせると、毛糸のミトンを首に掛けてあげた。

 手が冷えたらかわいそうだからね。足も靴下をもう1枚重ねてあげる。


「ほら、これで寒くないだろう? 外に行くときはミトンを着けるんだよ」

「うん、あたたかにゃ……」


 ミトンに手を入れてぱんぱん叩いてる。

 さて、下士官室に出掛けるか。


 下士官室にいたのは、暖炉の火を掻きたてているエルドさんだけだった。


「おや? だいぶ早起きですね。まだ3人は寝ていますよ」

「雪が降ると早起きするんですよ。それだけ子供なんでしょうね」

「少し分かります。私もそうですからね」


 笑い声を上げながら、暖炉に焚き木を放り込んでいる。

 少しずつ部屋が暖かくなってくるのが分かるようだ。

 暖炉近くのベンチにナナちゃんがちょこんと座るのを見て、俺はポットを手に井戸に向かう。井戸は食堂の傍にあるが屋根が付いているから雪に埋もれることはない。

士官室に戻り、ポットを暖炉の鉤に引っ掛けたところで、ナナちゃんの隣に腰を下ろす。

エルドさんは俺達の向かい側に置かれたベンチに座り、パイプを楽しんでいた。


「これだけ降ると、根雪になるかもしれませんね」

「雪掻きがあると、レイニーさんが言ってましたけど?」

「止んでからになるでしょう。とはいえ、一晩で腰まで積もることもあるんですよ。その時には雪の降る中で雪掻きをしました」


 そんなに降るとは思わなかったな。

 

「雪原ではこれが必需品ですよ」

 

 エルドさんがポケットから何やら取り出すと、俺に身を乗り出して渡してくれた。受け取った品をしばらく眺めていたんだが、ようやく用途が理解できた。雪眼鏡だ。

 少し湾曲した革製の品は、横に1本細い溝が開けられた薄い板が張ってある。小さいのはナナちゃん用なんだろう。

 板の両側に紐が付けられ木製の玉を通している。眼鏡を顔に当てて、頭の後ろで紐の長さを木製の玉を使って加減するようだ。普段は首に下げていても邪魔にならないだろう。

 直ぐにナナちゃんの首に下げてあげる。

 ナナちゃんは初めて見るのかな? 興味深々の表情で手に取って見ているようだ。


「ありがとうございます。気が付きませんでした」

「ハハハ……、気にしないでください。南から来た人達は案外忘れているようなんですよ。それはヴァイスの作ったものですしね。礼はヴァイスにしてください」


 だけど、木製の紐止めはエルドさんが作ってくれたんじゃないかな?

 やはり御礼は言うべきだろう。


 ナナちゃんは雪を見に出掛けてしまったけど、俺達2人は沸いたお湯でお茶を飲んでいる。

 暖炉のおかげで冷え切った部屋が暖かくなってきたけど、やはり体を温めるにはお茶が一番だ。

 

 そんな中、ようやく3人が下士官室にやってきた。

 眠そうな目をしている3人だけど、とりあえずベッドから出ていれば問題はないだろう。

 お茶を配りながら、ヴァイスさんに雪眼鏡の礼を言うとワインのお礼だと言ってくれた。

 それはそれだと思うんだけどなぁ。普段は騒がしい人だけど心遣いが案外細かいんだよね。


「今日は雪掻きがあるのかにゃ?」

「指揮所の判断次第。やるとしても昼近くになるでしょうね」


 ネコ族だけあって寒さは苦手ということなんだろうか? エルドさんはイヌ族だから雪が降ると庭を駆けたくなるのかな?

 それで、今朝は早起きしてたのかもしれない。リットンさんはオコジョ族と聞いたけど、オコジョは冬眠する動物だったような気がするぞ。いまだに目がトロンとしてるのは種族の特徴だろうな。


「とりあえず、起きていれば問題は無いわ。食事が終わってもベッドに戻らないでね」


 とても魔族との戦の最前線とは思えないような、レイニーさんのお言葉だ。

 そんな中、扉が開いてナナちゃんが飛び込んできた。

 直ぐに暖炉の前にぺたんと座って体を温めている。


「外は寒いにゃ。今日は私のところでゲームをするにゃ」

「分隊の部屋は暖かいの?」

「ストーブを夜から焚いてるにゃ」


 それなら十分に暖かだろう。

 ナナちゃんが少し首を傾げていたけど、ヴァイスさんに笑みを浮かべて頷いている。


 鐘の鳴る音が聞こえてきた。

 朝食の時間だ。

 温かな朝食を頂けば、ヴァイスさん達も少しは体が動くようになるんじゃないかな。


 朝食を終えると指揮所に向かう。

 これも毎日の日課だ。

 ナナちゃんは食堂に残ってヴァイスさん達とお茶を飲んでいたから、今日1日はヴァイスさんと過ごすんだろうな。

 指揮所での話はナナちゃんには面白味もないだろうから、レイニーさんと俺で十分だろう。

 砦で従者を持つ者は指揮官だけらしい。貴族として同格であるのも指揮を執る上では問題かもしれないな。


「……ということで、王国軍の再編に合わせて、砦の部隊を入れ替えると通告があった。来春にやって来るが、2個小隊増員されるぞ。合わせて昇格を行うから楽しみに冬を過ごせば良いだろう。

 この雪だ。今日はせんでも良いが、明日はそれぞれの配置場所の雪掻きをするように。

 それでは解散!」


 指揮所の会議室から戻ると、下士官室にいたエルドさんにヴァイスさん達を呼んでもらう。

 何時もの顔が揃ったところで指揮所の話をレイニーさんが伝えたんだけど、あまり喜んではいないようだ。


「古参が減って新兵が増えるのですか……。人数が増えても直ぐには役に立たんでしょう」

「犠牲者が増えるにゃ。隠れちゃう兵士も出てきそうにゃ」


 志願兵ではないってことかな?

 イヤイヤながら戦場に来るのでは問題だろう。その辺りのふるい掛けはしていると思うんだが。


「問題は入れ替える部隊よ。私達が移動するとは思えないから、重装歩兵、もしくは軽装歩兵の部隊になるでしょうね」


 場合によっては、オーガを相手にした部隊がいなくなるってことになりそうだ。

 砦を維持できなくなるんじゃないか?

 王国の北に3つ東西に並んだ砦は、魔族侵入を防止する最前線の筈だ。

 戦力の損耗に合わせた補充は考えるだろうけど、編成まで見直すことで砦の防衛体制に一時的な穴が開きかねないと考えているようだ。


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