表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
128/384

E-127 書状の中身


「ようこそ、我等がマーベル共和国へ。私が共和国大統領レイニーです。左は副官のレオニード・デラ・オリガンとその従者であるナナ。右手は外交を統括しているエクドラ、それにエニルです」

「私はエクドラル王国の第2王子、アドリナス・シルバン・エクード。エクドラル王国にサドリナス領が出来たことから、総督を務めることになりました。隣は伴侶であるイザベル。右が、財務官のオルト・デル・クライム、護民官のマヌエル・デル・ヨーデルそして私の護衛を務めるバクレム・デラ・ゾネアスです。後ろの5人は彼の部下です。申し訳ありませんが、壁に立たせておいてください」


 紹介されるたびに頭を下げたから、互いにどんな連中なのかは理解できたに違いない。

 アドリナス王子はおとぎ話の王子そのものだな。金髪を首にまで伸ばした美男子そのものだ。奥さんのイザベルさんも美人だからお似合いの夫婦に見える。ずっと、俺の隣にチョコンと座ったナナちゃんに笑みを向けている。

 財務官のオルトさんは少し恰幅の良い中年の男性だ。きっと宮殿の奥で事務ばかりをしているのだろう。少しは運動をした方が良いと感じてしまう。

 護民官のマヌエルさんはイザベルさんよりも年上のようだが、小母さんという感じには見えないな。丸顔でふくよかな姿は、どんな者にも好印象を与えるに違いない。

 バクレムさんは、生粋の軍人家系なのだろう。無駄な筋肉が無いことが軍服の上からでも良く分かる。中々の美男子だが、王子の近くではかすんでしまうに違いない。

 それにしても、いつでも長剣を抜いて俺に斬りかかれる感じが伝わってくる。

 交渉に来たのであって、暗殺に来たわけでは無いと思うんだけどねぇ。


 レイニーさんが俺に視線を向けて来たので、小さく頷くことでこの後を引き継ぐことにした。


「さて、我等に興味があったので来られたように思っております。見ての通り人間族は住んでおりません。ブリガンディ王国で虐げられた者達がこの地に国を興したと思って頂けたなら幸いです」


 俺の言葉が、終わるのを待っていたように、ネコ族のお姉さんがワインの入ったカップをそれぞれの席の前にそっと置いてくれた。

 いつもの安いワインじゃないだろうな?

 事前に確認した方が良かったかもしれない。


「せっかくですから、これからの交渉が上手くまとまるように乾杯しませんか?」

「良いですね。それでは、マーデル共和国に!」

「エクドラル王国に! ……「「乾杯」」」


「先の戦では惨敗致しました。オリガン家の人物が指揮を執っていると知ったなら、我等も軍を動かさずにいたでしょう。ですが……、オリガン家は人間族であったはず?」

「オリガン家と言っても次男ですからねぇ。任官を受けに砦に向かう際に、ちょっとした依頼を受けてしまいました。その代償ということで、今ではハーフエルフです」


 さすがは騎士だけのことはある。オリガン家について少しは知っているようだ。

 だけど次男の噂はどうなんだろう? 噂はかなりの速さで伝わるらしいけど、さすがにエクドラル王国にまでは伝わっていないだろうな。


「神の恩寵ということになるのでしょうね。となれば、その依頼が気になるところですが、この国を作ったのはそれに関わるものなのでしょうか?」

「どちらかといえば、俺達にはこれしか方法が無かったということになります。砦の北に出城を築いて獣人族だけを送り込み、俺達を磨り潰そうと考えていたようです。その間に砦の南にあった獣人族の開拓村から住民を追い出し、逆らえば斬り殺すようなことをしていたようです。一応、命を受けての出城務めでしたが、最後には食料さえ送ってこない始末。砦に食料を送って貰えるよう部下を送りましたが、砦は破壊されておりました」

「悲惨な話ですね……。話には聞きましたが、そこまで獣人族を迫害していたのですか」

「エクドラル王国は獣人族への迫害については聞いておりませんが、いきなり先端を開くというのもいかがなものかと……」


 俺と王子の会話に、騎士の顔が険しくなる。

 後ろの騎士達の表情も変わったようだ。さて、長剣を抜くのかな……。

 右手だけをテーブルから膝に下ろすようにして、籠手に着けた太い釘をサイコキネシスの力だけで引き抜く。テーブル板の底に張り付けたところで、右手を戻す。

 片手だけだからなぁ。それほど不自然には思われないだろう。

 だが、これでいつでも彼らを無力化できる。


「あれは上手くブリガンディに乗せられてしまいました。父王に経緯の書状を送ったところ、私が直々にここに来ることになった次第。この通り、重ねてお詫びいたします」


 王子達が全員立ち上がると、俺達に深々と頭を下げた。

 一国の王子が頭を下げるというのは、中々あることではないと思うんだけどなぁ。

次に書状をオリガン家に送るときには、兄上に教えてあげよう。


「どうぞ、お座りください。そこまでしていただけるとどのような交渉になるのか、こちらが不安になってしまいます」


 使者達が再び席に着いたところで、護民官のマヌエルさんが席を立ってテーブルを回りこみ、書状をエニルさんに差し出した。

 エニルさんが席を立って書状を押し頂くと、レイニーさんに書状を渡す。中を改めたところで俺に書状を渡してくれたけど、右手の人差し指が左右に振られていた。問題があるということだろう。

 さて、どんな内容なんだ?


 書状は俺達に対する要求事項の羅列だな。

 3つほどあるようだ。

 1つ目は、エクドラル王国への帰属。

 2つ目は、砦へのエクドラル王国軍の駐屯。

 3つ目は、砦の管理に関わる代官の派遣。

 美辞麗句で飾られてはいるが、これではブリガンディ王国と大差ないな。


「なるほど、これが我らに対するエクドラル王国の要求ということですか……」

「大王国の地方都市として発展すると思います。優秀な代官を派遣いたしますし、その者達が不正を働くとは思えません。それに魔族の対応を考えるなら王国軍の派遣は必然と言えるでしょう。最低でも2個中隊を考えています。それにエクドラル王国に帰属することで王国内のどの土地に行くことも可能です。ここで暮らすよりは穏やかな南方で新たな土地を耕すこともできるでしょう。その土地の斡旋も我等で行うことができます」


 マヌエルさんが条件の説明をしてくれた。書状に書かれた内容を知っているということなのだろう。

これでは、ここから追い出したいってことかな?

 旨い話をしているが、口約束なら誰でもできるし、いつでも覆せる。

 さて、どのように交渉をしていくかだな……。


「この文面ですと、かつてブリガンディ王国が我等に要求してきた内容と変わりませんね。交渉を蹴って戦となった経緯があります。先の戦に参加したエクドラル王国軍の士官にどのような戦の展開であったかを良く聞いてみることです。2個大隊なら余裕で相手ができますよ。俺達は魔族軍と戦えるように、マーベル共和国の防衛を整備したつもりです」

「大エクドラル王国軍と正面切って戦うつもりか!」


 椅子を蹴るように立ち上がった騎士が大声を上げた。

 案外単純な人物のようだ。怒りに任せて長剣を抜きかねないな。


「大エクドラル王国軍……、なるほど凄い軍のようですね。規模は8個大隊というところですか……、多くても10個大隊には達しないはずです。

 いつでもお相手できますよ。この地に展開するとすれば多くて3個大隊が良いところです。さすがに半数をこの地に展開するとなれば、エクドラル王国への魔族軍に蹂躙が始まりかねないでしょう。大国の戦力は大きい。それは自国の国境線がそれだけ長くなるからです。大軍を擁することは、必ずしも大軍を動員できることに繋がりません」


 俺の話を表情も変えずに聞いていた王子が、片手で岸に座るように指示を出した。

 王子は冷静なようだ。少しは戦略が分かるということだろう。


「おっしゃる通りです。4つ目を追加したいところですね。レオン殿には私の副官を務めて頂きたいと考えるしだいです」

「私の風評はご存じだと思います。ブリガンディから笑いものにされるだけでしょうから、王子の御威光を損ねかねません。はっきりと辞退させて頂きます」

「風評と現実の違いに、私の方が驚いていますよ。ブリガンディ王国のオリガン家についてはエクドラル王国でもそれなりに評価されていますし、ブリガンディ王国と戦をするべからずと、はっきりと父王陛下にも命を受けているぐらいですからね。王族だけの席で父王陛下がたまに嘆いている時があります。『オリガン家の分家でも良いから、この地に足を運んで欲しいものだ』とね」


 建国以来の長い歴史の中で、オリガン家はかなり活躍しているということなんだろうな。閉ざされた分家の数が多いとも聞いている。現に、俺が家を出る時には分家は全くない状態だった。俺が唯一の分家になるんだろうが、しばらくは兄上を助けることは出来そうもない。


「オリガン家は俺の誇りでもありますが、兄上や姉上の足元にも届かぬ武芸の持ち主ですからねぇ。一応、分家としての届を出していますからオリガン家を名乗ってはいますが、評判を落としかねない人物です」

「そこまで謙遜しなくとも……。私としては是非とも受けて欲しかったところです。もちろんお飾りとしてではありませんよ。

 さて、それでは話を元に戻しましょう。エクドラル王国としてはマーベル共和国を認めることができない。これが基本です」


 なるほど、根本的に対立しているってことか。

 認めることができなければ、いつまでもこの状態が続くことになる。食料の自給率はかなり上がったが、それでも十分ではないし、必需品である塩はこの国で産出しないからな。

 交易を全面的に止められたら、やがては軍門に下るしかない。

 だが、かなりの貯えがあるようだから、オビールさん達の助けがあればかなり長期に耐えることも可能だろう。


「残念ですね。少しは譲歩していただけると思っていましたが、根本はそうであるなら対立することになるでしょう。

 とはいえ、少しは協力できますよ。この地を攻めようなどと考えないことです。せめての半数は亡くなるでしょう。2、3度行えば魔族相手の防衛線ができなくなりかねません。サドリナス王国はそれが原因で滅んだようなものです」


「交易の全面停止……。これでどうですか? 街道沿いに軍を1個大隊ほど展開すれば可能に思えるのですが?」

「裏口がいくつもありますよ。それにブリガンディ王国を通れば良いだけですからね。幸いにもサドリナスの西を流れる川沿いには魔族が姿を現していないようです」


「だが、じり貧は避けられんだろう。数年後には根を上げることになるぞ」

「数年先に交易を閉じる軍が存在するか怪しいですね。俺達が何もせずに城壁の内側に閉じこもっていると考えているようでは、エクドラル国王陛下がさぞや嘆くことでしょう」


 魔族をエクドラル軍に誘導してやれば良い。釣りだすぐらいはヴァイスさん達が喜んでやってくれるだろう。


 王子が笑みを浮かべたと思ったら、だんだんと顔が崩れていく。

 とうとう、声を上げて笑い出す始末だ。

 思わずレイニーさんと顔を見合わせてしまった。


「ハハハ……。ほら、言った通りだろう? ブリガンディから流れてきた難民だと君達は考えているらしいけど、父王陛下は違った目で見ていたよ。私は父王陛下の様に先を見通すことは出来なかったけど、君達よりはマシだったかな……。

 申し訳ない。先の書状は貴族達が考えたものだ。こちらがエクドラル国王陛下直筆の書状になる。改めて、内容を確認していただきたい」


 イザベルさんが王子が腰の小さなバッグから取り出した書状を受け取って、エニルさんに改めて手渡してくれた。

 王子の妻なら王女ということになるんだろうな。

 エニルさんも緊張しているようで、受け取った手が震えているようだ。

 再び受けとった書状を読んだレイニーさんが、驚いたような表情で俺に顔を向け来た。

 先ほどと、それほど異なる内容なのか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 王族の血が入っていない限り王子の妻は王女とは呼びませんね。 王子の妻であれば〇〇王子妃、省略して〇〇妃と呼ばれます。
[気になる点] 王子の妻は王子妃であって王女ではありませんよ。
[一言] 「再び受けとった書状を読んだレイニーさんが、驚いたような表情で俺に顔を向け来た。先ほどと、それほど異なる内容なのか?」 相手の出方を見て。違う外交文書を提示するって、失礼に当たらないのかな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ