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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-126 エクドラル王国からの使者


 西の尾根の南に作る砦は、迎撃目的ではあるのだが真の狙いは、そこに砦があると魔族に知らしめることにある。

 好戦的な魔族の事だから、砦の攻略に専念するだろうがやってくるのが分かっているなら、それだけ頑丈な砦を作れば良いだけだ。

 西の尾根の南に作る見張り台を利用することで、魔族の動きを事前に知ることも出来るだろう。

 魔族の襲来が分かるなら、事前に援軍を要請することも出来る。


「出城というわけでは無いんですね。旧サドリナス王国の作った砦を修理して、その北に新たな砦となれば、既存の砦の出城だとばかり思っていましたが」


 レイニーさんの言葉に皆が頷いている。

 出城ではあるんだが、その出城に対して北に俺達の王国があるということがこの場合は生きてくる。


「他の砦の北に出城を作れば、それはかつての俺達と同じになります。砦の被害を少なくするための被害担当になってしまいますからね。でも、これなら大軍を使っての攻撃でもそれなりに対応できると思いますよ。南北にそれそれ砦があるようなものですからね。魔族としては俺達の存在を無視できないはずです。下手に砦を抜いて南東方向に軍を進めたなら、後方が閉じられかねませんからね」

「砦を作ることで、魔族の東への侵入を阻止できると? 確かに、南北に砦が3つ並ぶと手は出し辛くなるでしょうね。やって来たとしても威力偵察というところでしょう」


 その威力偵察だって数百体の魔族だからなぁ……。

 だが本隊に比べれば確かに少人数なんだけどね。


「その結果として、貿易港からこのマーベル共和国までの土地が魔族の脅威から解放されるということですな。開拓民が大挙して北を目指しますぞ」

「それでも、渡河地点まで開拓するようなことにはならないと思うよ。あの地点から南の村までは2日もあるらしいからね。でも開拓する土地を領民に与えることでエクドラル王国は住民の不満をある程度解消できるし、豊かな穀倉地帯を得ることだってできるはずだ」


 レンジャー達にはマーベル共和国までの狩場で満足してくれるだろう。北でレンジャー達が活動しているなら、開拓者達が獣に襲われる可能性も低くなるはずだ。


「かなりエクドラル王国に利があるような提案だが、その見返りに何を要求するのだ?」

「マーデル共和国の認知。それだけです」


 指揮所にどよめきが起こる。

 もっと要求しても良いという者やすでに俺達は国なんだという者もいるんだけど、他国による俺達の国の認知が国を作る上では一番重要になる。

 他国に認められないなら、俺達は何時まで経っても不法占拠者もしくは逃亡者の集団ということになってしまう。


「国として認めさせると良いことがあるんでしょうか?」

「裏ではどう考えているか分からなくとも、表だって俺達の国を認めるなら結構利がありますよ。他国の人間が俺達の国で犯罪を犯したなら、俺達の法で裁けます。それに、ブリガンディ王国も軍を進めることに躊躇することになるでしょうね。そんなことをすれば他国への侵略とみなされて、エクドラル王国軍が行動する口実を与えかねません」


「レオン殿が建国に拘ったのは、そういうことですか……」

「後は、エクドラル王国の使者次第ということですね?」


 エルドさんの問いに、大きく頷いた。

 どんな人物が来るのか、ちょっと楽しみではある。

 随行する連中も1代貴族ということだから、それなりの能力のある連中に違いない。

               ・

               ・

               ・

 エクドラル王国の使者一行がマーベル共和国を訪れたのは、夏至の10日後の昼過ぎだった。

 知らせを受けてエルドさんと一緒に東の楼門から眺めていたのだが、豪華な馬車が3台に荷馬車が5台。騎兵が1個小隊というのはちょっと気後れしてしまいそうだ。

 


「案内人はエニル殿でしたな。銃兵1個分隊で十分だったのでしょうか?」

「広場の北にヴァイスさん達が待機しているし、クロスボウ兵も中央広場まで待機してるんだからあまり心配はないと思うんだけどね。相変わらずレイニーさんは心配性だからなぁ」


 城壁沿いの道の両側に兵を配置するんだから困ったものだ。少なくとも、北側に配置した兵は家並みに隠れて待機させてはいるんだけど、ちょっと過剰に思えるんだよなぁ。


「馬の飼葉は無かったんじゃないかな?」

「エディン殿が届けてくれました。かなり運んでくれましたから、残ったらロバの餌にするとエクドラ殿が言ってましたよ」

「向こう側で準備したということだね。さて、そろそろ挨拶ということかな?」


 300ユーデ程に近づいてきたところで一行が止まると、騎馬隊から3騎が抜け出してこちらにやってくる。

 俺達に気が付いたのだろう。

 2騎が旗を掲げた中、1騎が1馬分程前に進み出る。

 顔を上げると綺麗に騎士の礼をしたところで、大声で口上を述べる。


「エクドラル王国第2王子、サドリナス総督のアドリナス殿がエクドラル国王陛下より交渉の全権を受けて訪れた。開門願いたい!」

「お待ちしておりました。門の出口に案内人を置いております。滞在場所までご案内いたします」

「ご配慮感謝する。我等一同武器を持っているが、構わぬか?」

「そのままで問題ありません。ですが、不用意に剣を抜くことが無いようにお願いします」


 楼門の下から扉を開く音が聞こえてきた。

 3つの扉があるからなぁ。普段は外側だけの扉を閉じているけど、鉄格子のような扉がトンネルのような門の中から引き出せるし、内側にも木製の門がある。

 

 門が開いたのを確認したのだろう。

 騎士が、俺に向かって再度騎士の礼を取ると、馬車に向かって馬を返していく。


「フイフイ砲やカタパルトは布でくるむか、丸太を立てて偽装していますから気付かれることは無いですよね?」

「大きさが分かっても仕組みが分からなければ真似をすることは出来ないよ。せいぜいが大型バリスタというところだろうね。それだって飛距離を稼ぐための方法までは理解できないんじゃないかな」

「なら、大丈夫ですね」


 見ただけで分かるとも思えない。フイフイ砲の動作原理は位置エネルギーの開放なんだが、石を詰める籠を外したなら、単なる物見台にしか見えないだろう。カタパルトは獣皮で作ったロープの捻じれを利用している。そんな使い方があるとは思わないだろうな。核心部分はさらに布で覆っているから、外側の布をめくったところで、直ぐに原理が理解できるとも思えない。


 再び馬車が動きだした。

 迎賓館にはレイニーさんとエクドラさんがいるし、護衛にはガイネルさんが1個小隊を派遣しているらしい。

 その場で戦になったとしても、遅れをとることは無いだろう。


 エルドさんと一緒に、使者の一行が門に入るのを眺める。さすがに窓から顔を出して俺達を見るようなことはしないな。

 騎兵達は、不安げな表情を浮かべて俺達を見ながら門に入って行くけど、武器を俺達に向けない限り、俺達は攻撃しないことをあらかじめ申し合わせている。

 万が一武器を向けたのなら、南西に小さく見える塚の隣に新たな塚が作られることになるだろう。


「とりあえず顔を合わせてきます。なるべく問題を持ち込んで来ないことを期待してはいるんですが……」

「一度矢を合わせていますからねぇ……。ですが、退けたことは確かですから、自信を持って臨んでください」


 エルドさんに笑みを返したところで、楼門を下りる。

 階段を下りて広場に出ると、西に向かう通りの奥に馬が見えた。騎乗しているわけでは無いから、馬小屋に連れて行くところらしい。

 元は羊や山羊を淹れる小屋を開放したらしいけど、その羊達はどこに移動したのだろう? ちょっと気になるところだけど、その辺りはマクランさんがきちんと行ってくれているに違いない。


 トラ族の軽装歩兵1個分隊が玄関の左右に並んでいる。残りの連中は裏で待機しているのだろう。玄関に近づいていくと、直ぐにエニルがやって来た。

 小声で状況を教えてくれたけど、大会議室には使者である第2王子とその妻である王女、随行の貴族が3人に警護の騎士が5人いるということだ。

 随行を含めて5人と言ったんだが、王子ともなれば警護の騎士を外すことは出来なかったか。


「まあ、来てくれたなら問題は無いだろう。レイニーさん達は?」

「奥の小会議室です。こちらも兵士を準備しなくても良いんでしょうか?」

「レイニーさん達を逃がす時間は何とかするよ。一応、拳銃は持っているんだろう?」


 俺の問いに、エニルさんが上着を開いて、ベルトのホルダーに拳銃が2丁収まっているのを見せてくれた。

 レイニーさんも持っているし、俺も持っているからね。銃声が起こったなら外にいる軽装歩兵が飛び込んでくれるだろう。


 エニルの案内で小会議室に向かうと、ナナちゃんも一緒だった。

 こちらも5人だから、問題は無いだろう。ナナちゃんだって姉上が指導しているくらいだから、何かあった時には魔法で俺達の援護をしてくれるに違いない。


「王子ともなると、中々立派な馬車で来るんですね。感心してエルドさんと見ていました」

「大会議室でくつろいでもらっているところです。あまり待たせるわけにもいきませんから、そろそろ出かけましょうか」


 ちょっと不安そうな表情なんだけど、大丈夫かな?


「最初の挨拶は、レイニーさんにお願いします。その後は、俺が引き継ぎます」

「そうしてください。自分の名を告げるぐらいなら何とかなりそうです」


 俺の言葉に、レイニーさんが振り返ると俺の手をガッチリと握りながら呟いた。

 そんなに緊張しなくても良いと思うんだけどなぁ。

 相手が王子だから自分よりも地位が高いと思っているだろうけど、レイニーさんは共和国の初代大統領だから、国家元首そのものなんだよね。

 もっと堂々としていてくれるとありがたいところだ。


大会議室の前に着いたところで、コンコンと扉を叩く。

 一呼吸おいて扉を開けると、全員がテーブルの傍に立っていた。

 礼儀は分かる人物のようだ。横柄に椅子に腰を掛けていたならそれなりの対応が出来ると思っていたんだけどね。


「遠路、ご足労頂きありがとうございました。先ずはお掛けください。直ぐにお帰りになるようなことは無いでしょうから、ゆっくりと話をしたいと考えています」

「こちらこそ、ご無理を言って申し訳ないところです」


 相手が応じてくれたところで、全員が俺の動作に合わせて椅子に腰を下ろしてくれた。

 先に座ってくれても良かったんだが、交渉の席ではちょっとしたことが後々に問題になるらしい。向こうも気を使ってくれているようだから、少しは安心できそうだ。


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