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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-124 レンジャーギルドのレイラさん


 春の種蒔きを終えて、マクランさん達の表情が和らいでいる。

 今年の豊作を期待したいところだな。

 干ばつに備えるための水路作りも、結構進んでいるらしい。畑までかなり長いから途中に水場をいくつか作ると言っていた。

 将来は食堂ではなく、個人に家で食事を作るための布石でもあるんだろう。

 それが早くやってくることを期待したいところだけど、その前に開拓した畑の分配について考えなくてはならないだろう。

 マクランさんは農家をいくつかのグループに分けて払い下げるようなことを考えているようだけど、果たしてどんな形態になるのかは現在議論している最中とのことだ。

 農業について口出しすることは控えておこう。

 開拓は手伝うことが出来ても、農業の事は農家に任せるべきだろうからね。


 いつものように、城壁作りの石を荷車に積み込んでいると、伝令の少年が俺を探しにやって来た。

 それほど急いでいる様子は無いから、魔族が現れたわけでは無いのだろう。


「どうしたんだい? 町で何かあったのかな」

「オビール殿が訪れました。移住者を30人程連れて来てます」


 旧サドリナス領の獣人族は、エクドラル王国の治世を見守っているはずだから、やって来たのはブリガンディ王国からの移住者だろう。

 ここで安心して暮らして貰おう。

 一緒に石を積み込んでいたイヌ族の若者に、先に戻ることを告げると伝令の少年の後について指揮所へと足を運ぶ。


 指揮所に入ると、オビールさんの隣に女性が座っている。

 首を傾げながら、レイニーさんの隣に腰を下ろして、2人に挨拶をする。


「移住者の警護、ご苦労様でした。ところで、隣の女性は?」

「レイラと申します。ギルド支店立ち上げのために先行してきました」


 丁寧に頭を下げてくれたけど、レイラさんはリットンさんと同じオコジョ族らしい。小さな丸い耳が髪からぴょんと出ているんだよね。

 それにしても動きが早いな。

 まだ支店を作ることを許可していないはずなんだが。


「マーデル共和国にギルドはかなり関心を持っているようだ。ちょっと乱暴だが、許可は後でも良いから先に何とかしろと言ってたな」

「内諾はしていましたから、それはしょうがありませんね。それについての約束もありましたよね」


「店ということだろう? ギルドに宿屋、それに鍛冶屋と肉屋だったはずだ。その他に要求があるならギルドの方で対処してくれるとのことだ」

「3つあるんです。古着屋に乾物屋、最後に問屋です」


「前2つは俺にも理解できるが、最後の問屋とは?」

「現在はエクドラさん達が行っている対外交易を一括して行うお店ですね。エディンさん達商人は問屋を介して物品の売り買いを行います。いくつも店が出来たならそれを統括する店があった方が良いでしょう」


「ギルドに獲物を納品するのではなく問屋に納めれば良いわけですね? 確かに便利ですね。ギルドからも人材を出せそうです」

「ギルドの納品所が問屋ってことか! 問屋で依頼書に確認印を押して貰えば良いんだな」


 どうやら問屋の利便性を理解してくれたようだ。

 だけど、問屋が投票で上位に来るとは思わなかったんだよなぁ。てっきり酒場が一番だと思っていたんだが……。

 あの選挙結果で賭けの番狂わせが起きたらしい。

 開票の後で酒場が賑わっていたというのは、悔しさを紛らわせるためだったのかもしれないな。


「レオン様の要求はその3つでよろしいのでしょうか?」

「とりあえず、それで行こうと思っています。暮らしの利便性を考えるならさらに店が増えるのでしょうが、現状でそれほど不便を感じたこともありませんので……」


「了解しました」と言ってレイラさんが頭を下げてくれた。


「とはいえ、1つ、条件があります。店ということであるなら、この国に定住することもあり得るでしょう。店の従業員は全て獣人族ということを御理解ください。ただし、レンジャーについてはこの限りではありません。レンジャーは1人で行動しないように聞いています。何人かでチームを作って狩りをしているようですから、その中に人間族が混じるのは仕方のないことでしょう。そこで、レンジャーがこの国に逗留するのは春分から冬至の一か月前までとします。この辺りは雪深い地ですから冬の狩りにあまり期待できないと思います」


「春分過ぎなら残雪の中で狩りが出来るだろうし、冬至手前ならそれほど雪が深くないということだな。確かにこの国で冬越しするのは問題だろう。レオン殿がそこまで譲歩してくれたことを感謝したいところだ」

「ギルドとしては5パーティを送りたいとの事でしたが……」

「先ずは3パーティ。その様子を見て増やすことにしたいですね。新たに1つ宿を作ればなんとかなりそうです」


 パーティ数は少し議論になってしまった。

 初期とはいえ、さすがにそれでは少ないとのことだから、薬草採取を行う少人数のパーティを含めることで何とか手を握る。

 3人以内で3パーティなら、薬草がかなり集まるんじゃないかな。


「今のところエクドラル王国によるギルドへの干渉は無いようだ。とはいえ、王都にかなりの数の貴族がやって来たらしい。商業ギルドの連中と会合を開いているらしいから、その内にこの地をどのように統治していくのかが分かるだろう」


「サドリナス王国の貴族はどうなったのでしょう?」

「エクドラル王国との戦を主導した連中の関りの深さで、何名かが首を落とされたらしい。残りは辺境の修道院から出ることは無いだろう。子供も含めての措置だと聞いている」


 栄枯盛衰は何時の世でもあるんだろうな。

 これでサドリナス王国は、完全に歴史の中に埋没していくのだろう。

 とりあえず住民に被害が及ばなければ問題は無いだろうが、降服したサドリナス王国軍の兵士を戦で磨り潰すんだから困った連中だ。

 遺族にしこりが残るのが分からないんだろうか?


「そうなると、王都の貴族は全てエクドラル王国の貴族ということですか?」

「一応そうなるんだが、少し面白いところもある。やって来た連中が全て1代貴族の連中だ。この地でさらに功績を積むことで永代貴族となれるってことだな」

 

 必ずしも民衆にとって良いことではないかもしれないな。貴族というよりは優秀な管理者ということになるはずだ。

 自分の能力を認めて貰うために、無理な徴税を行うようにならなければ良いのだが……。


「ところで、ギルド支店はどこに作れば良いのでしょう?」


 レイラさんが俺達の話が終わったところで、問いかけてきた。

 そういえば言ってなかったな。


「中央楼門を入ったところに大きな広場を作りました。その一角に作ろうと考えています。ログハウスですから、それほど大きくは出来ませんが、この部屋ほどのホールにカウンターを付けて、奥に事務所、2階にギルド職員の部屋を3つ程作ろうと考えています」

「まさか、レオン様達が作ろうと考えているのでしょうか?」

「支店を出してくれるんですから、それぐらいはするつもりですよ。他の店についても俺達で店を作ります。素人集団が作りますから気に入らないところもあるでしょうが、それは店の方で手直しをして貰えるとありがたいですね」


「さすがにそれではギルドの矜持が保てません。商会ギルドに評価をして貰い、その金額をお支払いいたします。他の店については賃貸ということにして頂けると助かります」


 思わずレイニーさんに顔を向けてしまった。

 俺達がやり過ぎるってことかな?


「マーベル共和国の住人はおよそ5千というところです。必ずしも儲かるとは思えません。ギルドはそれなりの収益があるかもしれませんが、店については店開きをした年は賃貸料を取らないということにしたいと思います」


 レイニーさんの言葉に、レイラさんが笑みを浮かべている。

 それだけ店を開こうとする者達の負担が減るからだろうな。


「ところで、やはり南西は難しいか?」

「トレムさんに話では、獲物は多いということですが、魔族の上げる煙をたまに見ることがあるそうです。レンジャーは自己責任ということではありますが、あえて危険を冒す必要はないかと」


 西の尾根に設けたトレムさん達の監視所から、さらに西に終えを2つも超えたなら、そこは魔族の版図と言えるだろう。

 獲物を追いかけてそんな場所に迷い込んでしまったなら、生きて帰ることは不可能に違いない。


「そういう事なら仕方がないな。トレムの話を聞いて出掛けて見たかったんだが」

「南東も危険ですよ。川の東にかつて俺達は砦を守っていたんですが、魔族との戦をしていますからね。ブリガンディ王国軍の戦力が低下していますから、川を渡ることが無いようにしてください」

「了解だ。せいぜい川で泳ぐぐらいにしておくよ」


 そんなことをしたら、川の東から矢を浴びせられそうだ。

 苦笑いを浮かべると、オビールさんが小さく頷いた。危険性を分かってくれたかな。


 話が済んだところで、レイニーさんがナナちゃんを連れてレイラさんにギルドの建設予定地を案内することになった。

 オビールさんが残ったので、暖炉傍に場所を移してカップにワインを注ぐ。


「それにしてもレンジャーギルドは対応が早いですね」

「それだけ、上から依頼が来ているってことだな。近くの狩場には獲物が少なくなったからなぁ」


「獣人族だけで暮らすことが、どこまでできるかは分かりません。ですが、迫害を逃れてきた者達ばかりですからねぇ。しばらくは人間族が混じらないようにして頂ければありがたいです」

「その辺りはギルドでも分かってくれるさ。内定している連中は全て獣人族だからな」


 俺が心配するほどのことは無かったか。ギルドもその辺りの事は十分に考えていたのだろう。


 人間には色々な連中がいるからなぁ。

 オビールさんやエディンさん達のような連中なら問題は無いんだが……。


「そうそう、忘れるところだった。これがエクドラル王国からの親書になる。返事は口頭でも良いということなんだが……」

 

 雑談を終えて席を立とうとした、オビールさんがバッグから出したのは腰に下げるナイフほどの長さの筒だった。

 青銅の筒に丸めた書類を淹れて開口部を蝋で封印している。その封印に紋章が押されているところを見ると、正式な書類ということになるのだろう。

 先に読ませて貰おうか……。

 筒を捩じるようにして封を開ける。中に入っていたのは1枚の書状だ。

 これが正式な訪問に関わる書類ということなのかな?

 季節の挨拶とエクドラル王国からの使者の訪問を許可したことへのお礼が書かれ、最後にやってくる使者の名前が書かれている。

 5人の使者だな。警護には1個小隊と書かれているから、集会場を警護の兵士に開放してあげれば何とかなうだろう。

 やってくるのは……、夏至の10日後ということだ。

 迎賓館はそのまま使えるし、問題は無いな。歓待することは出来ないけど、それは向こうだって期待していないだろう。


「口頭で御伝えください。お待ちしておりますと。ただし、このような場所ですから歓待は出来かねますと付け加えて頂きたい」

「そうなるだろうな。向こうとしてはこの場所を見ておきたいということだろうから、あまり構えずにいることだな。それじゃあ、俺から日時と規模について了承を得たと答えておくよ」


 およそ2か月後になりそうだ。

 歓待は出来なくとも、少しはまともな料理を出したいところだけどね。



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