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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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Eー123 互いの夢がぶつかると面倒だ


 それにしてもいろんな店があるんだな。

 雑貨屋だけで十分かと思っていたんだが、どうやら品数を多くするとなると専門店ということになるらしい。

 食堂の掲示板にマーベル協和国に欲しい店を占拠で決めると張り出すと、あちこちで欲しい店について話す声が聞こえてくる。

 宿屋兼食堂兼酒場では、1杯のワインカップを手に持って男達が熱い議論を戦わせているらしいが、結局はワインを2杯まで飲ませてくれる酒場が欲しいということのようだ。

 女性達は洋品店ということらしいが、古着でも良いとエクドラさんが言っていた。お仕着せではなく、自分の気に入った服が欲しいということらしい。

 ナナちゃんにどんな服が良いのか聞いてみたら、このままで良いと言っていたから年頃を過ぎるとそんな嗜好が出てくるのかもしれないな。

 マクランさん達開拓民の人達は、種を扱う店があると便利だと言ってくれたけど、農業用品をまとめて取り扱う店ということになるのかな。

 

「賑わってますね。酒場でもその話でもちきりでしたよ」


 しばらくぶりに指揮所に顔を出したトレムさんは、この騒ぎを面白がっているようだ。


「ギルドの支店が出来るなら、確かに便利ですね。俺達の仲間もやってくるでしょうし、この辺りには獲物も豊富です。とはいえ、西は少し動きがあるようです……」


 トレムさんの話によると、西に2つほど離れた辺りで煙がたまに上がるらしい。

 魔族の斥候部隊が動き出したということかな?


「まあ、西の尾根には常時1個小隊が張り付いていますし、何かあれば〇〇村からクロスボウ部隊が1個小隊増援できるでしょう。斥候部隊による威力偵察には十分かと思いますよ」

「西の尾根に魔族が終結する気配があれば知らせてください。1個中隊なら即応できるでしょう」


 雪が消えれば魔族の脅威が高まる。

 それぐらいはエクドラル王国にも理解できるだろうから、しばらくは大軍を南に展開することは無さそうだ。


「やはり南西の狩場は難しそうだね」

「魔族の脅威をどれほどレンジャーが理解できているかによりますね。オビールさん達なら安心できますが、レベルの低いレンジャーには少し荷が重すぎるでしょう。南西は中堅クラスに限定したほうが間違いは無さそうです」


 ギルドはレンジャー達の仕事の斡旋所であるとともに報酬を得る場だけだと思っていたんだが、レンジャー達に情報を提供する場でもあるらしい。依頼のある獲物の生息地を獲物を持ち込んだレンジャーから聞き取り、その情報をレンジャー達がギルドのカウンターにいる職員から教えて貰うとのことだ。


「若い娘さんが多いですから、若者達が群がるんですけどね。連中がどこまで彼女たちの話を聞いているのかと思うと……」

「なんか年寄くさいですよ。トレムさんだって、そうなんじゃありませんか?」


 互いに顔を見合わせて笑い声をあげたから、暖炉そばでナナちゃんと編み物をしていたレイニーさんが俺達を呆れた表情で見ているんだよなぁ。


「話を戻すと、トレムさんとしては俺の言った店で十分だということですか?」

「鍛冶屋は武器屋とも言えますが、俺達なら少し入手に時間が掛るともガラハウさんに頼みますよ。町の武器屋よりも良い品を手に入れられますからね」


 その辺りの競合が問題かもしれないな。

 もっとも、住民や開拓民が多いから、生活用品や農具を作ればそれなりに売れるとは思うんだが……。


「西の監視をよろしくお願いします」との俺の頼みに頷くと、トレムさは指揮所を出て行った。

 やはり動き出したか……。

 1個中隊の即応体制は輪番を組めば良いだろう。それに、今年は南の城壁作りで先行している土塁が西の尾根に到達する。

 大きな見張り台を作ることになるから、見張り台作りを兼ねることもできそうだ。


 テーブルの地図を睨みながらどのように作ろうかと考えていると、ナナちゃんが俺にお茶のカップを渡してくれた。

 レイニーさんも編み物を中断して、一休みするらしい。


「今度は西ですか……」

「現状では、それほど脅威ではありませんが準備はしておきませんと。それに土塁が尾根に達しますからね。接合部分に楼門規模の見張り台を作れば、南西方向の防衛はかなり楽になります」


「エクドラル王国が住民の平等を唱えることで、マーベル協和国の住民の増加は緩やかになりますよ」

「まだブリガンディはそのままですよ。今年も住民の流入は続くでしょう。民兵の数が増えますが、武器を持たせれば兵士に慣れる訳ではありませんからねぇ」


 俺の言葉に、レイニーさんが頷いている。

 少なくとも第一線に配置することは出来ないだろう。せいぜいが第一線を抜けてきた敵兵ぐらいなものだ。

 数人が槍を持つなら何とかなる。もっとも、そんな場面を見てきたエルドさんの話では、槍で囲んで動きが鈍った敵兵をクロスボウで仕留めていたようだ。

 それでも敵を倒せるなら、民兵としては十分ということになるだろう。

 できれば弓を使って欲しいところだが、弓は練習量がクロスボウに比べてはるかに多くなるからなぁ。

 開墾をしながらの練習では、どっちつかずになってしまいそうだ。

 

 10日後の夕食後に、集会状で開票が行われた。

 賑やかなのはあまり好きじゃないから、指揮所でパイプを楽しんでいたんだが、レイニーさんはナナちゃんと一緒に出掛けてしまった。

 集会場の外にまで人が溢れているんだからなぁ。中はさぞかし賑やか、いや騒々しいに違いないと思うんだけど……。


 トントンと扉が叩かれ、エルドさんが入ってきた。

 ワインのボトルを俺に見せてくれたから、ここで一緒に飲もうということかな?

 その後ろからダレルさんも姿を現した。

 やはり騒々しさから逃れてきたらしい。

 

 暖炉傍のベンチに腰を下ろすと、バッグからカップをそれぞれが取り出す。エルドさんがボトルの封を切ってワインを注いでくれた。

 食堂で飲む安物では無いらしい。良い香りが指揮所に漂う。

 3つのカップが中央に集まり、カチン! と音を立てる。

 先ずは一口……。ほのかな甘さが口に広がる。


「だいぶ良いワインじゃないですか! ご馳走さまです」

「たまには、良いワインも飲みたいですからね。でも次はありませんよ」

「俺が用意しときますよ」


 そんな会話が出来るのも、長い付き合いがあるからだろう。

 2杯目を注いでくれたところで、エルドさんが話題を変えた。

 どうやら、エクドラル王国とは今後とも戦になるのかを聞きたかったらしい。

 即答は出来ないんだよなぁ。

 俺達は、あくまで受け身であることが問題でもある。

 エクドラル王国にはブリガンディのような選民思想が無いようだから、かつてのブリガンディ王国と同じように皆が平等に暮らしているはずだ。

 現に俺達を攻めて来た兵士の中には、イヌ族の人達がいたぐらいだからね。


「エクドラル王国がどのような王国であるかがまだ良く分かりません。エディンさん達の話ではブリガンディ王国のような選民思想を持っていないことまでは分かるんですが、海沿いの諸王国を統一しようなんて野望を持っているとなると、少し厄介な存在となるでしょう。サドリナス王国を併合して満足してくれれば良いのですが……」

「沿岸に覇を唱えるってことか? それが出来ないから、王国がたくさんあると聞いたことがあるぞ」

「他の王国を征服するだけなら容易だと思いますよ。問題はその後です……」


 相手の軍隊を蹂躙して、王宮を略奪することが征服ではない。

 征服した王国を自国と同じような治政を行うことが出来て初めてその地を征服したと言えるだろう。

 その時に問題になるのは、征服した領地を治める連中だ。

 自国の貴族に領地を与えるのか、征服した旧王国の貴族を抜擢するのか……。

 彼らの行う領地経営いかんでは、民衆が反乱を起こしかねない。

 

「サドリナス王国との戦で失った戦費をサドリナス王宮の宝物庫から回収できればそれほどひどいことにはならないと思いますが、内乱が続いてましたからね。その戦費で宝物庫が~ということにでもなれば……」

「民衆からの回収ということか?」


 住民に重税を課すということになるのだろう。

 エディンさんに聞いた話だと、税が軽くなっているようだから少しは安心できるんだが、それがいつまで続くかということも考えないといけないだろう。

 さらに、住民感情も問題になる。

 戦で親兄弟を失ったとなれば、エクドラル王国の治政に反感を持つだろうし、ましてや旧貴族がエクドラル王国の為に働くともなれば裏切り者に見えるだろう。

 上手く治政を行わないと、住民のわだかまりがいつまでも続くことになるだろう。それはちょっとしたことで暴走する可能性もあるのだ。


「中央との距離が離れれば、それだけその領地の自由裁量権が得られるでしょう。それも問題になるんです」

「群雄割拠になりかねないと?」

「辺境ならば、敵の攻撃を跳ね返せるだけの軍を常備することになるでしょう。それが逆に王国の首を絞めることになりかねません」


 王国はこじんまりとした領地が一番じゃないかな?

 辺境の異変を察知した時に、早馬を使ってその日の内に王宮に届くなら、国王の指示でいくらでも対処できそうに思える。

 早馬で数日かかるようでは、王宮の判断を仰ぐ前に相手に攻め込まれてしまうだろう。


「広大な領地を持つ大王の治める王国は、長くは続かないということですか」

「3代は続かないと思いますよ。後継争いもし烈でしょうからね。初代の苦労を知る王子であるならそれなりに対処できそうですが、3代目ともなれば有力貴族の御神輿ですよ」

「それもなぁ……。それを知っていても大王国を作るというのが良く分からんな」

「案外、夢を追っているのかもしれませんよ。男ならそんな野望を持つこともあるでしょう。ましてや国王ならばね」


 俺の言葉に、皆が苦笑いを浮かべる。

 男の夢ということが理解できたのかな?

 俺だって少年時代には何時かは分家を大きくして……、何て考えていたからね。


「なら、エクドラル国王に乾杯だ! 彼の野望がどこまで行きつくか見たいものだし、俺達にぶつかって来るなら全力で阻止してやろう。マーベル共和国は俺達の夢でもあるんだからな」

「そうですね。獣人族だけの国ですから、これも俺達の夢と言えます。現実となった今なら俺達を排除しようとする動きには全力で当たりませんと」


 今度はマーデル共和国に乾杯だ。

 だいぶ酔って来た感じだな。だけど、俺達は相手が強国であっても屈服することは無い。

 そろそろ、オビールさんがやってくるだろうから、エクドラル王国の使者がいつやって来るかも分かるんじゃないかな。


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[気になる点] 「まあ、西の尾根には常時1個小隊が張り付いていますし、何かあれば〇〇村からクロスボウ部隊が1個小隊増援できるでしょう。斥候部隊による威力偵察には十分かと思いますよ」 村の名前が入力さ…
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