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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-119 敵の大型バリスタ


 ドォン! 攻城槌が門にぶつかる。

 そのたびに楼門の石組みが揺れて、小さな砂が落ちて来るんだが、ドワーフ族の作る石組みがそう簡単に崩れることは無い。

 分厚い門も丁番がそのたびにガシャンと音を立てるけど、この感じでは壊れることなど不可能に思えてしまう。

 カリンがの右腕の動きに合わせて、銃兵達が拳銃弾を浴びせる。

 十数発の弾丸がそのたびに敵兵を刈り取っていく。

 俺がいなくても、何とかなるんじゃないかな?

 ソリを使って城門を破るというのはアイデアとしては良いのだが、いかんせん衝撃力が無さすぎる。

 もっと大きな攻城槌を用意しないと無理だろうな。


 耳栓をしても、トンネル状のこの場所は音が大きく聞こえる。

 俺の革の上着の裾が引かれたので、下を見るとナナちゃんが城門の出口を指差している。

 なんだろう?

 とりあえず外に出てみると、フイフイ砲の発射準備を兵士と避難民達が行っていた。

 あれで爆弾を纏めて飛ばそうってことか?

 

「レイニー姉さんが呼んでたにゃ!」


思わず楼門の上を見る。激戦ということなんだろうか?


「分かった。ナナちゃんは此処で門を守ってくれよ!」


 一番安全な場所じゃないかな。それでも、自分に役目が与えられたということが嬉しいのか笑みを浮かべて頷いてくれた。

 楼門の階段を上って、上の広場に向かう。

 なるほど、たまに上がって来るのか。でも、軽装歩兵達が槍で突き落としているんだよなぁ。

 小屋近くに立てた盾の隙間からも、民兵がボルトを放っている。



「何かありましたか?」

「来てくれましたか……。あれが現れました」


 レイニーさんが腕を伸ばして教えてくれた先に目を向ける。


「大型のバリスタ!」

「攻撃する兵士と攻城櫓に気を取られていましたが、あれの飛距離によってはかなり脅威になります」


 ちょっと驚いてしまった。

 移動は……、やはりソリを使うのか。

 雪があればこその兵器だな。人が歩くほどの動きでこちらに近づいて来る。


「フイフイ砲を使います。あのバリスタがどれほどの飛距離なのか分かりませんが、200ユーデ近く飛ぶんじゃないでしょうか?」

「フイフイ砲は300ユーデを越えるんでしたね。ここで見ていても大丈夫でしょうか?」


 さすがに下がっていた方が安心だろうな。

 下の待機所辺りなら、安全だろう。

 ここは俺が残ることにして、レイニーさんに、ナナちゃんを連れて待機所に向かってもらうことにした。


「フイフイ砲を準備している連中に、敵のバリスタ攻撃の指示を出してください。爆弾を使えと言えば、喜んで準備してくれると思います」


 すでにカタパルトを使っているんだが、あれで打ち出す爆弾は小型だからね。フイフイ砲なら1度に3つは飛ばせるし、それより大きな爆弾だって飛ばすことが出来る。


「あれを使うのか?」

「あんなバリスタでボルトを打ち込まれたくないですからね。小屋には爆裂矢や爆弾はありませんよね?」

「ああ、すでに爆裂矢は配り終えているし、爆弾は小隊長達に1個ずつ渡しておいた。残りは階段傍の石垣の中に作った保管庫に置いてあるぞ」



 さすがに危機管理は出来ているようだ。小屋がログハウスだからなぁ。やはり南側だけでも石を積んでおくべきだったかもしれない。

 そんな思いは、直ぐに無駄なことだと分かった。あのバリスタのボルトならばちょっとした丸太が飛んでくる感じだろう。

 そんな物体が当たったなら、石を積み上げたぐらいでは簡単に崩されてしまうに違いない。

 さすがに城壁はそう簡単に崩せるとは思わないけどね。城壁が出来たところで、楼門全体の作りも同じようにしないといけないな。

 

「こっちを狙ってますよ!」

「全員、退避しろ! 俺とエルドさんだけが残る。見張り台もだ!!」


 小屋の壁に立て掛けてあった槍を掴んで、前方を見据える。

 確かにこっちにバリスタを向けようとしているな。

 大きいから苦労しているようだ。ソリに搭載しているから前後に動かすのは容易なのだろうが左右に動かすのはかなり面倒そうだ。


「残ってくれたのか?」

「レオン殿達だけを残すわけにもいきませんからね。だいぶ上ってくる敵兵が減っていますが、あれを撃ってから押し寄せようというんでしょうか?」

「そんなところだろう。矢とバリスタを見ているから、上がってくる連中を頼んだぞ!」


 トラ族の連中が1個分隊程残ってくれた。

 ありがたく後ろに下がって、状況を見守ることにする。槍は持ったままだ。上がってくる敵兵がいつ増えるか分かったものじゃないからね。

 エルドさんは槍先に根元にある突起を使って、ハシゴを横倒しにしている。

 再びハシゴを掛けるには数人の手がいるからな。ハシゴを掛けるのも矢が飛んでくる中での作業だから敵兵も尻込みするに違いない。


「下の銃声が止みましたね」

「攻城槌を使う連中を倒したってことかな? 今は左右の狭間から矢を射っているようだね」


 どうやら中盤戦という感じがするな。

 4個大隊近くで俺達を攻めても、城壁を越えた敵兵はいないんじゃないか?

 それだけ雪の影響は大きいということになる。

 空堀も上手く機能してくれた感じだ。攻城櫓が接近できないんだからね。


「来るぞ! 擁壁から離れて敵のボルトを見るんだ」


 バリスタに装填されたボルトの先端に火が点けられた。

 布を幾重にも巻いて油を掛けたに違いない。大きな火矢という感じだが、やはり狙いはこの楼門のようだ。

 楼門の上は10ユーデ四方ほどの広さがある。10人ほどがいるだけだから、ボルトの軌道をよく見れば避けられるだろう。


 敵のバリスタから人が離れていく。

 残った1人が止め金を外すと、まるで流星のように大きな弧を描いてこちらに飛んでくる。

 ジッとボルトの軌道を見据えて着弾地点を考える……。


「東だ。東に移動しろ!」

 

 俺の声に一斉に兵達が動く出した時、ドン! という振動が足元から伝わって来た。


「足りませんでしたね……」

「15ユーデ程足りないですね。連中、急いで動かし始めましたよ」


 ほっと胸を撫でおろしながら軽口を吐く。

 トラ族の連中は苦笑いを浮かべながら、ハシゴを登って北敵兵を槍で突き落としていた。


 ギュタン! 木が擦れる大きな音が聞こえると、俺達の頭の上をいくつかの物体が飛んで行った。

 再び、ギュタン! と音がする。

 最初から2基で攻撃するのか?


 成り行きを見守っていると、バリスタの近くで爆発が起こる。

 一か所だけでなく、数か所で爆発したから小型の爆弾をまとめて飛ばしたんだろう。

 あれで破壊出来たら良いんだが……。

 望遠鏡を取り出して、状況を見る。

 

 爆炎が収まると周囲に散った兵がバリスタに集まり、再び発射準備が始まった。

 どうやら近くには落ちなかったようだな。

 城壁から状況を眺めているドワーフ族の若者がいるから、すぐに次弾が放たれるだろう。さて、どちらが先になるのか……。


「あれで破壊できたと思ったんですが……」

「合計6発だからねぇ。俺もそう思ったけど、上手く行かなかったみたいだ。でも、バリスタの周囲で爆発してるから次で破壊できそうだ」


「矢が来るぞ!」


 エルドさんの大声で、俺達は急いで盾に隠れる。

 全く盾が無かったらとんでもない被害を受けただろう。簡単な防御策だけど、効果は絶大だ。

 タン、タン……。今度は矢の数が多いな。

 楼門は城壁から10ユーデ以上張り出しているから、城壁に取り付く敵兵を側面攻撃することができる。

 城壁を上る敵兵の邪魔になると思っているに違いない。


「弓兵がこちらを狙ってきますね」

「カタパルト部隊に弓兵への攻撃を伝えてくれませんか?」

「了解です。矢の監視をお願いしますよ!」


 エルドさんが素早く後ろに下がっていく。下には伝令の少年が待機しているだろうから、すぐに弓兵への攻撃が始まるだろう。

 ジッと南を見ていると、バリスタのボルトの先端が炎に包まれた。


「バリスタが撃ってくるぞ! 下がってどこに来るか見定めろ!」


 俺の声に、トラ族の兵士達が後ろに下がる。

 次の瞬間、大空に炎のボルトが放たれた。

 高く上がった炎を纏ったボルトがこちらに飛んでくる。

 

「西に動け!」


 誰かが大声を出した。

 次の瞬間、楼門の小屋にボルトが突き刺さる。

 数人の兵士が桶で水を掛けているが、火の周りは早いようだ。

 雪は積もっているのだが、空気は案外乾いている。


「楼門から降りて階段を守れ!」

 

 小屋が燃えているなら、それも防衛上の障壁として使える。

 降り口を固めれば、楼門を占拠されても困ることはない。


 燃え盛る小屋を尻目に楼門上の広場から撤退すると、階段の降り口を移動式の柵で塞ぐ。

 盾が並べられ、弓兵とクロスボウ兵が盾の後ろにやって来た。

 

「やられましたね!」

「木造だからねぇ。だけど、ここで踏ん張れば何ら問題はないよ」

 

 南の階段にはレイニーさん達が守りに着いたとエルドさんが教えてくれた。

 だけど楼門の上をどうやって見るかが問題だな。

 城壁より高いから、状況が分からない。


「下火になったら、兵を突入させるしかなさそうですね」

「俺が行ってみるよ。敵がいたら斬り伏せれば良いし、数が多ければ飛び降りる」

「レオン殿を行かせるわけには……」

「いや、俺の方が良い。それぐらいの判断はできるよ」


 エルドさんの心配は分かるんだけど、さすがに敵が大勢いるかもしれない場所に兵を向かわせるわけにもいかない。

 俺なら、手裏剣をあらかじめ放っておくことで、不意を突かれても対処することができるはずだ。それに楼門から飛び降りても、サイコキネシスで体重軽減を行うことができる。半分とはいかないが足を折るようなことにはならないだろう。


 エルドさんにこの場を任せて、楼門に入ってカリンたちの様子を見に行く。

 楼門の中では半数が後ろに下がってバレル内の掃除をしていた。

 盛んに矢を放っているのは左右の狭間に着いた弓兵達だ。1個分隊が来てくれたみたいだな。


「今のところ城門は無事です。敵が運んできた攻城槌はそのままですが、攻城槌に取り着こうとする敵兵は銃撃で倒しています」

「もう少しだ。頑張ってくれよ。ところでカートリッジはまだあるのか?」

「4発残しています。今はまばらにやってきますから、火薬と弾丸を詰めて放っています」

 

 城門を目指す敵兵が少ないってことか……。

 ハシゴを上ろうとする敵兵を銃撃することはないはずだから、銃弾の数は足りそうだな。


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