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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-012 初陣を終えて


 ポン! と肩を叩かれた。

 思わず後ろに体を向けたから、中隊長がバックステップで槍先を避けている。


「おいおい、そんなに熱くなるな。どうにか去ってくれたぞ!」

「……申し訳ありません。初陣で興奮していたようです」


 槍を放そうとしたんだが、手が開いてくれない。

 何とか槍を離そうと力を入れていると、みかねた中隊長の副官が槍を握った俺の指を1本ずつ開いてくれた。


「たまに聞く話だが、やはり槍を使うのは初めてだったようだな。次は、もう少し動けるだろう。活躍は第1中隊の連中からも聞いているぞ。よくやってくれた」


 もう一度俺の肩を叩いて、副官と一緒に屋根を下りて行った。

 終わったのか……。

 擁壁から下を見ると、ゴブリン達があちこちに倒れている。エルドさん達が手分けして死体を荷馬車に積んでいるんだけど、遠くに捨てに行くのかな?

 近くに置いておくと死臭がするだろうし、何と言っても野犬やカラスが集まって来るに違いない。


 休憩所に歩いて行くと、レイニーさんがワインを入れたカップを渡してくれた。ナナちゃんはどこに行ったのかな?

 周囲を見渡しても姿が見えない。


「ナナちゃんは、矢の回収を手伝ってくれてるわ。とりあえず座って頂戴。疲れたでしょう? レオンにだいぶ助けられたわ」

「まだまだ若輩も良いところだ。今回のような戦いを兄上が見たら、溜息を吐くぐらいじゃ済まないだろうな」


「次は頑張れるようにしないとな!」なんて言いながら訓練してくれるに違いない。それこそ何度倒れても、兄上が満足できるまで訓練してくれるはずだ。

兄上なら長剣だけで、屋根の上を縦横無尽に活躍しただろう。長剣技量S級は、それこそ人外の動きだからなあ。


「重装歩兵の小隊長もやってきたんだけど、レオンが槍を構えて北を睨んでいたから直ぐに戻ってしまったの。お礼を言いたかったのかもしれないわ」

「どちらかと言うと、命令違反を指摘するためかもしれない。咄嗟に矢を放ったが、俺達の守備位置ではないからね」


 叱責は覚悟している。重装歩兵の小隊長も余計なことをするな、と言いたかったのかもしれない。

 パイプに火を点けて咥えていると、指揮官付きの兵士が士官の集合を告げに来た。

 さて、怒られに行くか……。


 レイニーさんと一緒に指揮所に向かう。

 何時もの席に着いたんだが、まだ空席があるようだ。魔族の死体の始末をしているのかもしれないな。


「遅れました!」と言いながら、5人が入って来ると、その後ろから指揮官と中隊長が入ってきた。

 まだ1人の小隊長と2人の副官が来てないのだが、どうやら始めるようだ。


「ご苦労だった。どうにか退けたが犠牲も多かったようだ。軽装歩兵の小隊長と副官が戦死している。重装歩兵の第2小隊の副官は重症だ。砦での勤めはできんだろう。重傷者と一緒に王都に帰還させるしかないだろうな。

 兵士の戦死者は8人に重傷者が6人。都合、17人の損耗になる。秋の刈入れが終われば徴募兵がやってこよう。それまでは残った我等でここを守ることになるぞ」


「やはりオーガに門を破られてしまったからでしょう。屋根の上から放たれた矢でオーガの顔を割ることができたおかげで、それだけの戦死者で収まったようなものです。さすがはオリガン家の身内だと皆で感心した次第」


 重装歩兵の中隊長が俺に向かって賛辞を送ってくれたけど、俺としては恥じ入るばかりだ。


「本来であれば御叱りがあるものと覚悟しております。自ら守るべき場所を仲間に任せての行動ですから……」

「まあ、それはそれだ。逃げたという訳ではなく、同じ砦の仲間を救ってくれたことを私は感謝することはあれ、叱責することは考えていない。

 そうだな……。これからも似たことがあるかもしれん。戦の最中の命令違反を3度まで許そう。指示が無ければ味方の窮地を救えぬというのも問題だ」


 指揮官が笑いを堪えながら話してくれたけど、1度の戦で3回は他の戦闘への介入を許してくれるということだろう。逃げることや隠れることは、さすがに許して貰えそうにない。


「やはり軽装歩兵にも弓を持たせるべきかもしれません。1回戦分の矢を2個分隊が放てるだけでも、門を破られた時には役立つでしょう」

「そうだな。直ぐに手配しよう。それと、レイニーのところにある大弓を譲って貰うと良いだろう。投げ槍ほどの矢を150キュバル先に飛ばせるようだ。南門に3丁も準備すれば、レオンの矢に頼らずに倒すこともできたと考えている」


 さすがは指揮官だけのことはある。確かに効果的だろう。

 1時間程の会議を終えて、帰ろうとしたら重装歩兵の小隊長に呼び止められた。


「これを貰ってくれ。お前のおかげで部下の犠牲を最小限にできた」


 ワインのボトルを2本、バッグから取り出して俺の手に渡してくれた。


「咄嗟の事で、こちらこそ恥じ入るばかりです。ありがたく頂きます」

 

 重装歩兵の小隊長に頭を下げてバッグに入れる。今夜の集まりで皆と飲んでしまおう。

 指揮所を出ると、再び屋根の上の休憩所に戻ることにした。

 良い風が吹くから涼しいんだよね。

 

 屋根の上ではヴァイスさんとナナちゃんが集めてきた矢を分類している。鏃が取れたりシャフトが折れたりしているから、直ぐ使えるものだけを選んでいるんだろう。


「朝食をエルドが取りに行ったにゃ。魔族の始末をしている連中も、もう直ぐ帰って来るにゃ」

「今回はこれで終わりだろうけど、かなり犠牲者が出ているみたい。補充は3カ月ほど先になりそうね」


 その間に襲ってくることは無いのだろうか?

 かなり不安になってきたぞ。

 元々2個中隊の8個小隊の筈だが、実態は6個小隊。軍属の小母さん達を含めても300人に届かなかった部隊だ。

 先ほどの戦で20人近く減っているし、矢の数も半数を少し超えた状態になっている。

 次に戦が起これば、今度は倍以上の犠牲者が出るかもしれない。


「レオンは何かあるかしら?」

「矢を早めに準備する必要があるな。2回戦分以上欲しいところだ。それと、槍を少し改良したいんだが?」


「曲がってなければ十分にゃ!」

「それも使い道はありそうだけど、槍の穂先の根元に小指ほどの鉄の棒を横に付ければ、ハシゴを引き倒せると思うんだ」


「引っ掛けて、横に引けば良いのかにゃ?」

「そんな感じでハシゴを倒せると思うんだけどね。指揮所にあった槍を使ってみたけど、ちょっとした出っ張りでも上手くハシゴを倒せたよ」


 うんうんとエルドさんが頷いているのは、俺の動きを見ていたのかもしれない。


「私が数本頼んでおきましょう。親指の長さほどで十分だと思います」

「お願いするわ。そうなると……、ヴァイスとリットンは矢の方を頼んだわよ」


 3人の分隊長が頷いて席を立った。

 これで数日分の仕事が出来たんじゃないかな。


「やはり槍は石垣を上がって来る魔族に効果がある。自分用の槍を作ろうと思うんだが、どうすれば良いのかな?」

「自費になるけど、簡単な絵を描けばドワーフ族のお爺さんが作ってくれるわ。やはり私達用の槍は使い辛いのかしら」


 軽く頷いた。

 長さは今のままでも良いんだが、柄の太さがもう少し欲しいところだ。それに突くだけではもったいない気もする。

 叩き斬ることも視野に入れて、厚みと穂先の長さが欲しい。ナナちゃんが背負っている短剣2本を合わせたぐらいの厚みが良さそうだ。


「ナナちゃんも頑張ったわね。魔族8体を倒すなんて、一般兵士並よ」

「ナナちゃんだと、どうして分かるんですか?」

「矢が指3本分短いの。全てゴブリンの喉元に刺さってたわ」


 隣のナナちゃんの頭をぐりぐりと撫でてあげた。ちゃんと俺を守ってくれたみたいだ。

 ナナちゃんの矢筒の矢が、残り2本だったのはそんな理由があったんだな。

                ・

                ・

                ・

 何事も無かったような平穏な日々が続いている。

 少し朝晩が涼しく感じられるようになってきたから、夏も終わろうとしているに違いない。

 町で購入したナナちゃんの衣服をヴァイスさんに見て貰い、冬支度をすることになったのだが、砦の冬はかなり厳しいようだ。綿ではなく毛織物の上下を2着ずつ購入することになった。


「行商人がやってきた時に買えば良いにゃ。ブーツも中にウサギの毛皮を張ったものが良いにゃ」

 

 俺の給与は1か月銀貨3枚になるようだ。ナナちゃんには衣食住だけなんだけど、砦が用意する衣服とは鎧の事らしい。

 4か月分の12枚の銀貨で、2人分の冬用衣服を揃えても、銀貨4枚を使うことは無い。

 銀貨2枚で安いワインを8本買い込み、分隊ごとに2本ずつ提供する。残りの2本は下士官室で飲むことにしよう。

 ナナちゃんもヴァイスさん達と行商人の荷馬車に向かい、お菓子や飴玉を買い込んだようだ。まだ残っていると言っていたけど、銅貨を何枚かナナちゃんに渡しておく。


 ドワーフの爺さんに頼んだ槍もどうにか仕上がったようだ。ヴァイスさん達の使う槍より少し長めだがこれなら色々と使い道がありそうだ。穂先の短剣の片面にはのこぎりのようなギザギザが付いている。革を編んで作ったロープでもこれなら切ることが出来そうだ。


「銀貨10枚と聞きましたが、確かに我等の槍より鋭そうですね」

「穂先が短剣だからね。突くよりもこれで殴るつもりだよ」


【ドーパ】の効果で、身体機能が上がった状態で使うなら殴る方が効果的だろう。とにかく相手の数が多いんだからなあ。深く突いたら、引き抜くのに苦労してしまう。その間に次の奴が向かってきたことが何度もあった。


「矢も2回戦分以上手に入れたわ。どうにか備えができたということかしら」

「もう1つ残ってるにゃ。そろそろ焚き木を集めないと冬を越せなくなるにゃ」


 ん? 何のことだろう。思わずヴァイスさんに顔を向けてしまった。


「レオンは初めてだな。見ての通りの砦だから、冬はかなり厳しい寒さになるんだ。暖房用の焚き木を集めておかないと、寝ることもできなくなるぞ」


 ワインをチビチビ飲んでいたエルドさんが教えてくれた。

そういうことか。商人から焚き木を買うのでは、かなりの量を運ばなければならないのだろう。鍛冶場や厨房の炭と焚き木ぐらいは何とかできるのだろうが、それ以外は自分達で集めるということらしい。


「小隊規模で集めなければならないわ。荷車1台ごとに焚き木2束を指揮所に納めるのよ」


 税金みたいだけど、指揮官達が自ら行くのは少し考えてしまうな。荷車は自分達で曳いていくようだ。

 焚き木を取る場所は魔族が集結していた森らしいけど、戦を終えると魔族はずっと北に引き揚げていくらしい。

 とはいえ、斥候ぐらいは残っているかもしれないから武装しての焚き木取りになるとのことだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なんと言うか・・・周りが良い人ばかりで戦いばかりなのにとても和みます。 長距離メインで物珍しい感じがあるんですがとても読み易く面白いです。
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