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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-118 攻城戦は弓兵が主体


「空堀を越えようとする連中を倒してくれよ」

「了解です。すでに銃弾は込めてありますから、近づいたところで2連射を浴びせます」


 副小隊長のカリンさんが答えてくれた。

 ナナちゃんはトンネルのような一角にある、鉄格子の格納場所で身を潜めている。

 前に盾が2つ並んでいるから、矢が飛び込んできても心配はないだろうし、数人の軽装歩兵がナナちゃんと一緒に小さなコンロを囲んでいる。

 この場所を守る守備兵の休憩所を兼ねている感じだ。


「レオン殿は上の助成ですか?」

「矢筒の矢を射込んでから戻ってくるよ。なるべく楼門前を狙うからね」


 12本の矢で倒せるだけだけどね。それでも俺の弓の腕を知っているから、笑みを浮かべてくれる。

 エルドさんが軽装歩兵を率いて楼門の左手に移動したから、楼門の上はレイニーさんとヴァイスさんが2個分隊の弓兵を率いている。

 状況を見ながら下に下りてこよう。


 ナナちゃんを連れて、楼門に上ると擁壁に沿って盾が並べられていた。

 盾の間が握り拳ほど開いているのは、矢を射る狭間ということなんだろう。

 盾が斜めだから、敵の矢が降ってきたときには擁壁に身を寄せれば十分に防げるはずだ。

 さて、レイニーさんは?

 どうやら、小屋の中にいるみたいだな。

 あまり外に出ずに指揮をしてくれれば十分だ。小屋の中からでも擁壁から身を乗り出すような敵に矢を射ることぐらいはできるだろう。


「まだ動ないんだね?」

「少しは動いたにゃ。東に移動してるにゃ」


 そうかな? 改めて敵陣を見ると、確かに東に偏っているようにも見える。それでもテント群からは大きくずれていないから、攻撃に合わせて東に広がったということになるんだろう。

 望遠鏡で敵を眺めると、ソリに太い丸太を乗せているのが見えた。

 あれを滑らせて門を破ろうというのだろうか?

 冬ならばの攻撃方法だけど、ガラハウさんが監修した門は鉄の板で補強したものだからなぁ。そう簡単に破られることはないだろう。


「小屋にいるよ。動いたら教えてくれないか?」

「了解にゃ。でも動いたらヴァイス隊長が連絡すると思うにゃ」


 弓兵がそう言って見張り台の上を指差した。

 あそこにいるってことか?

 確かに眺めは良いだろうけど、寒がりのヴァイスさんがよくもあんな場所にいるものだ。

 ちょっと感心しながら、ナナちゃんを連れて小屋に入る。ストーブがあるから結構暖かいな。

 弓兵達も交替しながら暖を取っているのだろう。


「動きません……。どうせ戦うなら、早く攻撃してくれば良いと思うのですが」

「向こうにも都合があるんでしょう。ですが攻撃配置についているところを見ると、そろそろやってきますよ」


 吹き曝しの雪原で立たされた兵士は、たまったものではないだろう。

 手袋をしているとはいえ、手が凍えてくれば剣を強く握ることさえできなくなる。

 2つの王国軍がいるのだから、互いに軍をどのように使うかを見ているはずだ。将来は雌雄を決することになるかもしれないからね。

 

 パイプを取り出して一服をしていると、丸々とした格好のヴァイスさんが入ってきてストーブの前に座り込んだ。


「動いてるにゃ。ゆっくりと近づいて来たにゃ」


 ヴァイスさんの言葉に思わずレイニーさんと顔を見合わせた。

 小屋の扉が開き弓兵が大声を上げる。


「移動を始めました。足元を確かめるような歩みでこちらに近づいてきます」

「了解にゃ。100ユーデで攻撃を開始するにゃ。とりあえずは通常矢にゃ」


 座り込んだままヴァイスさんが弓兵に伝えると、本人も立ち上がってコートを脱いだんだけど、その下にもコートを着ていた。

 小屋の片隅に置いてあった矢筒をベルトに下げて弓を手にする。


「まだ休んでいてもだいじょうぶにゃ。下の連中にも指示を出しているのかにゃ?」

「伝えてますよ。矢筒の矢が無くなったら下に下ります。楼門前の敵は俺の獲物だと思ってるんですけど?」

「少し残してあげるにゃ」


 笑みを浮かべて外に出て行った。

 ナナちゃんにレイニーさんの護衛を頼んで、俺もコートの襟を立てながら席を立った。


「早くいかないと、俺の役目が無くなりそうですからね。2人はここで状況を見守ってください。楼門に上がってくるようなら援護にやってきます」


 ナナちゃんに手を振って、小屋を出る。

 さて、ヴァイスさんはどこだ?


楼門の上にもコンロを置いて小さな焚火を作っている。火矢用ということなんだろうけど、風上に盾を置いてあるからちょっとした寒さしのぎができるようだ。

その1つに、ヴァイスさんを見つけて、近づいていく。

 2ユーデ先に擁壁があるから、木箱の上に立つだけで、ヴァイスさんでも敵の様子が見えるようだ。

 

「どのぐらい近づきましたか?」

「まだ200ユーデほどにゃ。もっと速く歩けないのかにゃ?」


 じれったそうな声で文句を言ってるけど、近くの弓兵達も頷いているんだよなあ。

 まあ、それだけ体力を温存しながらということなんだろう。

 俺も擁壁に近づいて敵軍を眺めてみた。

 一番知りたかったのは敵の用意したハシゴだ。どれぐらいの長さの物を要したんだろう。


 数人で梯子を持っている。長さは6ユーで程はありそうだが……数がかなり多そうだな。前の部隊はハシゴを持っているが、後ろの部隊は持たないようだ。後ろの前列が弓兵だ。2段に並んでいるけど、2個小隊ほどいるんじゃないかな。最後に攻城櫓が押し出されてきている。数は5つだから、あれが前に押し出されてきたときにカタパルトで爆弾を降らせれば良いだろう。


「距離150ユーデ!」


 見張り台から声が聞こえてきた。楼門の裏手から復唱の声が聞こえてくる。

 弓兵やカタパルト部隊からは敵軍が見えないからなぁ。見張り台には彼らの部隊から何人かが昇っているのだろう。


 まだ走りださない。

 足元が気になるようだな。一歩ずつ足元を確認するように歩いて来るけど、落とし穴はもう少し手前なんだよね。


「落とし穴にはまった奴がいるにゃ。でも片足だけだから、怪我はしてないにゃ」

「突進を防ぐ目的だから、あの歩みではねぇ……。そろそろかな?」


 どうやら事前の挨拶は無しのようだ。

 どうせ互いに罵り合うだけだし、自分達に義が無いことを知っているんだろう。

 勝てばどんな理屈を立てても正当性を得ることが出来る。負けた方は口を閉ざすしかない。


「狙え! ……放つにゃ!!」


 見張り台からヴァイスさんが大声で指示を出す。

 20本近い矢が一斉に放たれ、やや遅れて城壁の後ろから矢が放たれる。

 100ユーデ近くに迫っていたってことか!

 矢の雨を見た敵兵が、片腕に通した小さな丸い立を頭上にかざしながら一斉に駆け出した。

 出遅れた兵士に矢が降り注ぐ。

 倒れた兵士は数人だが、次々に矢が降り注ぐ。

 城壁からの投石加わって、敵軍が少し混乱しているようだ。

 それでも大声で自分を叱咤しながら数人ずつ突っ込んでくる。

 空堀に迫ったところで、矢を取り出し城門に迫ろうとする敵兵めがけて放つ。

 首に深々と矢が突き立ちその場で倒れた兵士の背中を踏みつけて敵兵が城門に押し寄せる。

 ハシゴが城壁に掛かると、ハシゴを登る敵兵に矢が集中している。

 矢を数本放った頃に、城門の下から銃声が聞こえてきた。

 数人がまとめて倒れるけど、その屍を乗り越えて城門に迫ってくる。

 敵兵の南から丸太を乗せソリが滑るように移動してきた。あれはあれで脅威だな。

 丸太を押している敵兵に向かって矢を放つ。

 残り1本になった時、「はいにゃ!」と言ってナナちゃんが俺専用の矢を矢筒に入れてくれた。


「ありがとう。でも後ろにいてくれよ。ここは俺だけでだいじょうぶだ」

「後ろの盾にいるにゃ。レイニーさんは右手にいるにゃ」


 レイニーさんも出て来たのか。

 まだ楼門の上に顔を出してくる敵兵はいないけど、第2梯団の連中が直ぐ傍までやってきている。


「攻城櫓の上で火矢の準備が始まったにゃ!」

「こっちも火矢を撃ちこむにゃ。バリスタで狙うにゃ!」


 ヴァイスさんの声が大きく聞こえてくる。

 互いに火矢の打ち合いか……。


「矢が来るにゃ!」


 ヴァイスさんの声に、近くの盾の裏に身を屈める。

 タン! と乾いた音が立ち、盾の裏に鏃が突き出して来た。

 1枚だけだからなぁ。2枚あれば裏に鏃が出ることは無いんだけど……。

 矢が治まったところで、弓兵に向かって矢を放つ。

 今度は向こうが矢を受ける番だ。こっちには盾があるけど、敵の弓兵には遮蔽物が無いからなぁ。気の毒だが、俺達にとっては一番の脅威だ。早めに潰すに限る。


「ガラハウ殿が爆弾の使用許可を求めています!」

「レイニーさんの判断で良いぞ! 狙いはあの攻城櫓だろうが、潰し終えたら、敵の2段目にいくつか落としてくれ」

「了解です。レイニー殿に確認します!」


 伝令の少年が俺が指さした方向に向かった。

 レイニーさんなら使用を許可するに違いない。

 これで状況が変わるだろう。

 

 一際大きな音が聞こえてきた。東の楼門で大砲を放ったんだろう。

 次発に時間が掛かるけど、今の砲撃で門を攻撃していた敵兵がまとめて排除されたに違いない。


 今度はこっちで爆弾の炸裂する音が聞こえてきた。

 攻城櫓周辺で炸裂したのだろう。櫓に火の手が上がり、工場櫓周辺の敵兵が懸命に雪を掛けて消火しているようだ。


「目標は攻城櫓にゃ!」


 ヴァイスさんが弓兵から攻城櫓周辺の敵兵に目標を変更したようだ。

 なら楼門に迫る敵兵は俺の担当だな。

 矢が無くなるまで敵兵に向かって矢を放つ。


 矢が尽きる頃には、5つの攻城櫓が大きな篝火のようになって燃えていた。 

 敵の第2梯団も前団と合流したようで、空堀に敵兵が溢れている。

 いくつものハシゴが掛けられているけど、上り始めればクロスボウのボルトの良い的になっているようだ。

 空堀に向かって次々と投石が行われているから、敵兵の多くが小さな盾を城壁に向かってかざしている。

 少年達が投げる投石なら防げるだろうが、カタパルトで放たれる石は3倍程大きい。盾を割られたり、投石の衝撃でそのまま倒れる連中も結構いるようだ。


「ヴァイスさん。後は任せましたよ!」

「了解にゃ。まだまだ矢はたくさんあるにゃ。下に行っても、することはなさそうにゃ」


 さて城門の方はどうなってるかな。

 ナナちゃんに声を掛けて、急いで楼門を下りる。




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