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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-116 敵の陣が3つある


 夕食後に、中央楼門に上って敵の様子を眺める。

 満点の星空の下、南にいくつもの焚火が見える。テントの内側でも携帯コンロを使って暖を取っているに違いない。かなり冷えているからなぁ。

 よくもこんな時期に攻めて来たものだと感心してしまう。


「やはり昼に見た数より、焚火が増えているようです。後続が到着したということですかな」

「3個大隊よりも多いようです。さて、明日は何を言ってくるでしょう。楽しみですよ」


 城を総力戦で落とすのに最初から総力戦を考えるような将軍では国王の信認は得られないだろう。

 戦は最後の手段というのが戦略の基本でもある。

 これだけの戦力を背景に、先ずは開城を迫るんじゃないかな。

 場合によっては、投降後の待遇についても口にするだろう。だが、投降した後にその言葉を覚えている者はいないはずだ。

 それでも開城しない場合には、住民の虐殺を迫る場合もあるだろう。

 死ぬよりは……、と相手の言葉に従うことが、過去には何度もあった様だ。

 だが、それすら守られなかった例がかなりあると書斎にあった軍記には書かれていたんだよなあ。

 要するに、相手を信用してはいけないということだ。

 自分と同じ考えを相手が持っている、そんな考えをしてはいけないということなんだろう。

 相手は自分とは異なる行動原理で動いていると、最初から考えておけば問題は無いはずだ。


「テントの集団が、3つあるように思えるんですが?」

「そうかい?」


 エルドさんの言葉に、望遠鏡を取り出して南を眺める。

 最初は分からなかったけど、直ぐにテントの作りに違いがあることに気が付いた。

 指揮所のような大きなテントも2つある。さらに後方にもう1つのテントの群れがあるが、さすがにテントの作りまでは分からないな。


「よく気が付きましたね。たぶんブリガンディ軍とエルドリア軍の違いでしょう。気になるのはその後ろのテント群です。かなり離れてますよね。それに前方のテント群にある焚火より焚火の数が少ない気もします」


 連合軍として1つに纏まっているかと思っていたが、どうやらそこまで協力できる状況では無いようだ。

 さらに後方のテント群は輜重兵とも思えない。輜重兵なら夜でも忙しく働いているだろうが、テント周辺の動きは無かった。

 まったく別の、もう1つの軍ということになるんだろうか?

 ちょっと考えないといけないなあ……。


「連中の陣を見ると、狙いは東の楼門から中央楼門を狙いそうですね」

「斥候部隊の動きに注意してください。西が工事途中と知れば、西に部隊を移動する可能性もあります」


「了解です!」というエルドさんの言葉を聞いて、楼門を下りる。

 迎賓館や集会場に明かりが灯っているから、すでに小隊規模で待機を始めたんだろう。まだ『警戒レベル1』の状態なんだけどなあ。


 指揮所に戻ると、テーブルの上の駒を3つに分けて見比べる。

 旗印はあったけど、夜だから確認できなかった。明日には分かるだろうが、それにしてもこの後ろの軍が気になるな。

 前に出してくるなら、旧サドリナス軍の死兵にも思えるのだが……。


「サドリナス軍との一戦ではかなり近くに布陣しましたが、今回は距離がありますね。明日はさらに近くまで動くのでしょうか?」

「確かに距離が開き過ぎてます。雪の中を1コルムも進めばそれだけで兵士達の体力が落ちてしまいますからね。どこまで近づくのかも興味があるんですけど、それよりはこの軍の存在が気になっているんです」

 

「3つの軍がいるということですか?」

「テントの作りが2つあるのは、ブリガンディとエルドリア王国の軍隊の違糸言うkとなんですが、それでは、少し離れたこの位置にテント群を作る意味が分かりません。悩むところです……」


 ワインを飲みながらしばらく考えたんだけど、やはり分からないことは分からない。

 明日の引っ越しの準備を済ませて、早々に眠ることにした。

 

 翌日は伝令の少年達にも手伝って貰って、荷物を迎賓館に運ぶ。

 宿泊室の1つを貰って、寝泊まりすることにした。仮の作戦指揮所は大きな会議室を使用する。出入りする連中が多いからなぁ。ここなら本来の指揮所よりも二回りほど大きいから小隊長達も同席できるだろう。

 伝令の少年達も玄関傍の小部屋で寝起きするようだ。

 少年達とナナちゃんが暖炉に薪を入れて部屋を暖かくしてくれる。

 朝食から戻ってくるころには、お茶も沸いているに違いない。


 朝食を終えて仮設指揮所に戻る前に、楼門に上がって敵情を眺める。

 あわただしく兵士達が動いているのは、やはり陣をもう少し前に押し出すつもりなのだろう。

 総攻撃をするなら、200ユーデほどまで前進させたいところだろう。

 この季節だから凍えてしまわないように、かなりの数の焚火を作ることも必要だ。

 それを考えると、最悪の状況下で敵は戦いを挑んでくることになるのだが……。


「敵の前進位置が分かったなら、仮設指揮所に伝えてくれないかな?」


 監視を続けるイヌ族の若者に伝えたところで楼門を下りる。

 さて、気の早い連中が集まってるんじゃないかな。

 まだまだ戦は先なんだけどね。


 仮設指揮所に入ると、結構人が集まっている。

 すでに戦支度の連中ばかりなんだけど、本人はそれで良いとしても部下達にはまだゆっくりさせて欲しいところだ。


「どうですか?」

「動くみたいです。でも、陣を前に進めるだけでしょう。いくら何でも1コルムは遠すぎます。300ユーデほどに近づけるでしょうから、カタパルトの位置はそれを見極めてから修正しましょう」

「まだまだ、始まらないのかにゃ? 爆裂矢も全員に配っているにゃ」


 ヴァイスさんは、相変わらずだなぁ。

 早くても今日だとは思っていたけど、陣を移動するようだし2つの王国軍の協調性もあまりないようだ。さらに後ろの軍もいるから、動きが鈍いんだよねぇ……。


「どうも予想より展開が遅いですね。俺達は攻めて来るなら迎撃という立場ですから、のんびり待つしかありません」

「前と同じように、敵の兵站を少し突いてみようか?」


 トレムさんの言葉に、皆がトレムさんとレイニーさんの顔を交互に見ている。その2人は俺に視線を向けているんだよなぁ。

 俺の意見も聞きたいということなんだろう。


「出来れば2つのパーティで探って頂きたい。攻撃は出来る範囲でお願いします。結構雪が深いですし、攻撃をした後の追跡も容易な状況ですからね」

「2つというのは?」


 ちょっと嬉しそうな顔をテレムさんが俺に向けてきた。


「敵の東と西の両方向です。東は5コラムほどで十分です。この後ろにいる連中の正体が知りたいのと、軍の規模ですね。西は敵の兵站輸送の規模を知りたいところです」


 テーブルの地図で、2つのパーティの目的を明確に伝える。

 攻撃は余禄で十分だ。足元の良くない状況で敵に接近する危険はあまりおかしたくないところだ。


「爆裂矢を頂きましたが、使ってもよろしいですか?」

「使うのは数本だけにしといてください。あまり多用するのも問題です」


 トレムさん達の使う爆裂矢は爆発よりも火災を起こすための代物だ。火薬の配合を少し変えて大きな炎が出るようにしてある。火矢を撃ちこむよりは効果的だろう。


「そんなに気になりますか?」

「普通なら後ろの軍は魔導士部隊や工兵部隊になるんだけど……、焚火の数が前のテントに比べると格段に少ない。どちらかと言うと冷遇している感じもするんだが、それなら前に持ってくると思うんです」


「旧サドリナス軍……。それが一番考えられますが、かなりの軍勢ですよ」

「かなりの数が投降したということか? 2個大隊程に減っていたはずだし、その上王都防衛戦をしたはずだが……」


 貴族達の争いごとにいつまでも付き合っていられなかったということかな?

 とはいえ、あまり重視されないだろうから、総攻撃時に真っ先に飛び込んでくるんだろうな。それなりの活躍を見せれば、待遇も良くなるのだろう。


 ならば俺達相手にではなく、魔族相手に戦って欲しいところだ。

 人間同士で争そうのを見て、魔族の指揮官達はほくそ笑んでいるに違いない。


「可能性は高いと思うんですが、やはり思い込みをするような戦をするわけにはいきません」

「了解しました。たぶん報告は明日になると思いますが、今日中に戦が始まるようなことはありませんよね?」

「今日戦うなら、俺達の大勝利で終わるんですけどねぇ……。向こうの都合で始めることになります。まだ時間があると思いますよ」


 俺の言葉に苦笑いを浮かべると、トレムさんが席を立った。レイニーさんに軽く頭を下げて出て行ったから、明日の報告を楽しみに待っていよう。


「ワシ等は何も戦で良いのか? 皆の準備は出来取るのじゃぞ」

「のんびり待っていてください。とは言っても、あまりワインを飲まないように、何時始まるかは予想が付かない状況ですので」

「しょうが無いから、鏃でも研いで時間を潰すにゃ」


 ヴァイスさんが、誰もが信じられないようことを言いながら席を立って出て行った。

 今夜は吹雪になるんじゃないかと、皆が窓の外を見ているのも問題だな。


「確かにヴァイスの言う通りです。鏃が鋭ければそれだけ深く鏃が食い込むでしょう。支給された矢やボルトを今の内に研いでおいてください。『警戒態勢2』に移行します」

「部隊の集合まででしたね。集会場を使わせて貰いますよ。しばらく短槍も研いでいませんでしたから、皆で武器を研ぐことにしますよ」


 レイニーさんの言葉に、エルドさんが皆に聞こえるような声で答えている。

 警戒態勢の意味合いを改めて皆に教えてくれたことに感謝だな。

 これで少しは、暇つぶしが出来るだろう。

 だけど……、ヴァイスさん達は1時間ほど持つかな? 後でナナちゃんに様子を見て来て貰おう。


 皆が指揮所を出て行くと、俺達3人だけが残ってしまう。

 暖炉の傍に場所を移し、パイプを楽しみながら、銃兵の配置を考えることにした。

 銃兵の人数も増えて、現在は5個分隊に増えてはいるんだが、ライフルと読んでいる長銃は3個分隊に配備しただけだ。残りは短銃だからなぁ。とは言っても1人2丁渡しているから、2発を短時間で発射できる。

 エニルにライフル部隊を纏めて指揮して貰おう。大砲の扱いも分かっているはずだから、南の楼門を担当して貰えば良いだろう。

中央楼門は俺が指揮すればいい。2個分隊だけど、そうそう門を破ることなどできないからね。

破壊槌を運ぶ兵士達を、積極的狩ることになりそうだな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 真面目におふざけなしで書いているところ [気になる点] 誤字が目立つところ 主人公の感情表現や人間関係が見えてこないところ [一言] 後ろにいるのはオリガン家と獣人たちかな?
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