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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-114 次は連合軍かもしれない


「俺達が簡単に受け入れると思っているんだろうか?」

「ブリガンディ王国の上層部は、案外そう思っているのかもしれませんよ。末端の兵士にまで目が行き届きませんからね。将軍や上級仕官達の報告だけで判断しているのかもしれません」


 ブリガンディ王国からの使者が帰った夜に、皆が指揮所に集まり緊急の防衛委員会が開かれる。

 俺からの報告を聞いて、エルドさん達が疑問に思うのも無理はない。

 俺も少し気になっていたからね。

 姉上から聞いた話では、グラスレイという女性はブリガンディ王国の第2王女ということだ。外交使節として他国に何度も出向いていると教えてくれたから、それなりの地位にいる人間だということになる。

 だけど本人は、獣人族への弾圧を初めて知ったような感じにも受け取れた。獣人族排斥が徐々に進行していったぐらいに思っていたのかもしれない。だとすれば、実行部隊を仕切っているのは誰なんだろう……。


「レオンの話を聞いて帰って行きましたから、再度の交渉は無いでしょう。それにあまり時間を掛けていると、エルドリア王国が知ることになります。さすがに鉱山を有していると分かれば、簡単に譲るとも思えません」

「まったく、困ってしまいますなあ。次は再びブリガンディですか」


「これから冬ですから、さすがに軍を送って来るとは思えません。もう少しで西の尾根に土塁が届きますから、冬でも土塁工事だけは継続すべきでしょう」


 そんな意見に皆が頷いている。

 基本は防衛ということで、俺達の戦い方は変わることは無い。

 

「俺達に出来るのは迎撃戦だけです。それは理解できますが、来るとなればやはり南でしょうか?」

「東は懲りたでしょうね。今回俺達の城壁を目にしています。城壁は工事途中ですけど、彼らが見た場所からなら完成した城壁だけでしょう。あれを見て、攻めようと考えるでしょうか?」


 東は大軍を送れないし魔族を刺激しかねない。かといって南から攻めるなら城攻め並みの損害を受けかねない。

 俺なら諦めるけどなあ……。

 とは言っても、大きな餌をぶら下げたつもりだ。

 砂金に銅鉱石、さらには鉄を生産できるとなれば、貴族達の利権争いが加速するに違いない。

 王命を出して貰い王国軍を動かそうとするだろうな。

 結果は王国軍に多大な損害を出しただけともなると、ブリガンディ王国の存亡に繋がりかねない。

 西の国王のように、使えぬ貴族を王宮から追い出すようなら少しは未来もあるのだろうが……。


「もう1つ考えられるのは、ブリガンディ王国がマーベル共和国の存在をエルドリア王国に知らせることです。俺達の情報をどこまで開示するかは分かりませんが、利権の分配を条件に兵を出して貰うというのもあり得るかと」

「ブリガンディだけでは攻め切れぬと?」


「そういうことです。国内の治安対策に魔族への備え。どう考えても戦力が足りません。出撃可能な軍勢は1個大隊というところでしょう。そこで、俺達の情報を伝えてエルドリア王国との連合軍を作ることぐらいは出来そうです」

「大部隊になりませんか?」


 俺の言葉に、驚いたのはガイネルさんだった。

 いつもは冷静なんだけどなあ……。


「さすがにエルドリア王国に戦力があったとしても、ブリガンディの軍隊と連合するとしたなら同数になるでしょう。戦力差がその後の権益の分配に繋がりかねません。そうなると、多くとも3個大隊というところでしょう」

「我等の産物を分配できると思っているというのであれば、愚かというしかありませんな」


 エルドリア王国単独ならば、さらに軍勢を用意できるだろう。

 だが提案したブリガンディ王国との協調を保とうというのであるなら、全部で3個大隊を越えることは無いはずだ。


「それに彼らには魔族という長年争ってきた相手もいるんです。自国の兵士の消耗をどの程度に考えているか分かりませんが、出せる兵員の数は王国防衛が可能な数で決まります」


 魔族は俺達の味方では無いんだが、敵の敵は味方という言葉もあるぐらいだ。

 魔族の活動が活発であれば、それだけ俺達への圧力が弱まる。


「さすがに冬場は、魔族の動きが沈静化しますよ」

「春には活発になるでしょう。新たに兵を集めても2、3か月で魔族相手を務めるのは難しいかと考えます」


「確かに……」と言って、エルドさんが、パイプに火を点けた。

地図に目を向けているのは、どこまで城壁が伸びたかを今一度確認しているのだろう。

 確かに城壁は伸びてはいるんだよなぁ。できれば東の楼門で戦をしたいところだが、大軍であれば中央に向かうはずだ。斥候を先に出したなら、西の城壁は工事途中であることが分かるだろう。

 西を狙う可能性がありそうだな。


「冬季の部隊配置はいつもの通りで良いでしょう。西の空堀と土塁工事は継続してください」

「現状では、それで問題なさそうです。ところで、トレムさん。西の尾根の先端はどの程度南に下がっているのか分かりますか?」


 レイニーさんに同意したところで、気になってきた西について聞いてみた。

 トレムさんはレンジャーだからなあ。狩で何度か尾根を下がったに違いない。

 

「この先ですか? そうですねぇ……、土塁の合流か所から南に3コルム程度で尾根が切れます。その先は少し起伏のある荒地が続いていますね。鹿の良い狩場でもあります」


 鹿がいるとすれば低木の茂みも多いということになる。

 軍を進めるにはあまり適さない場所だ。魔族が接近したとしても、襲われるまで気付くことがないんじゃないか?


「やはり、この辺りに攻めて来そうですね。フイフイ砲の移動は必要ないでしょうが、カタパルトとバリスタの予備は中央楼門から西に配置しておくべきかと」

「それだけで十分ですか?」

「まだ攻めてくると確定したわけではありませんし、必ずしもここを狙うという確信もありませんが、ここを抜かれるわけにはいきませんからね」


「了解じゃ! 予備はどちらも5台ずつじゃが、尾根に使うカタパルトも出来取るぞ。小型じゃが試験を兼ねても良さそうじゃな」


 ガラハウさんが笑みを浮かべてカップを手に取る。いつの間にかワインを飲んでるんだよなあ。


「もっと面白い武器は無いのか? レオンの考える武器は結構使えそうじゃ」

「後で図面を見てください。たぶんできないとは思うんですが、どの部分を作るのが出来ないか知りたいんです」


「なんじゃと! 直ぐに図面を渡せ!」


 大声で怒鳴り始めた。

 一応これも作戦だから渋々バッグから出すという演技をしたんだが、ガラハウさんに差し出した図面を俺の手から奪い取って眺めはじめた。


「ワシは、これで失礼するぞ。役目がいつもと同じなら問題は無かろう」


 ガラハウさんが、席を立って指揮所を駆け出した。

 呆気に取られて、扉を見ていた面々が、今度は俺に顔を向ける。

 説明しろってことだよな……。


「新しい銃の図面です。今の銃は銃口からカートリッジを棒で押し込むんですが、新しい銃は後ろからカートリッジを押し込むんです」

「あまり違いは無いように思えるんだが?」


「かなり違いますよ。それなら身を低くして弾丸を装填できます。それに銃剣で怪我をする心配がありません」


 エニルには俺の説明である程度理解してくれたようだ。

 確かにそうなんだが、もっと大きな特徴がある。装填時間を短縮できるし、バレル内の掃除の頻度を少なく出来るはずだ。


 皆が帰ったところで、レイニーさんと話し合う。

 ナナちゃんが眠そうな顔をしているから、先に部屋に向かわせた。

 小さなコンロに炭が入っているから、あまり寒くは無いだろう。


「それで勝算はあるんですか?」

「5個大隊程度なら城壁が完成すれば問題は無いんですが、工事中ですからね。それでも土塁と柵があります。3個大隊ならそれほど被害を受けることはないと考えます」


 カタパルトだけでも10台近い数を使えるだろう。

 爆弾をつるべ撃ちできそうだ。

 それに、雪の中でどれだけ早く走れるだろう。最後は土塁の急斜面だ。まともに上ることさえできないだろう。

 

「矢とボルトはたっぷりと用意してあります。銃弾のカートリッジは1人10発程度と聞きましたけど」

「銃兵だけで1個小隊を越えてます。常備させているカートリッジは10発ですが、火薬庫には千発を越える予備がありますよ。銃弾が無くなれば短槍兵として役立ってくれるでしょうし、城門を破ろうとするなら葡萄弾で対処できます。魔族を忘れていないなら、兵士の半数を失う前に帰ってくれるでしょう」


 ワインを1杯飲み終えたところで、俺も席を立つことにした。

 部屋に入ると、ナナちゃんがすでに寝息を立てている。起こさないようにとなりに滑り込んだ。

 ナナちゃんも頑張っているからね。明日も朝から姉上と一緒に空堀を掘ってくれるのだろう。


 翌日からガイネルさん達トラ族の兵士達が、空堀を掘り作りに参加したようだ。

 力のある連中ばかりだから、かなりの進捗しているらしい。

 エルドさん達は土塁の整形と土塁の上の柵を作っている。ヴァイスさん達は……、一応周囲の警戒をしていると、リットンさんが教えてくれた。

 数日が過ぎると、いよいよ空模様が怪しくなってくる。

 だいぶ底冷えがした翌日。指揮所の外に出ると一面の銀世界だった。

 

 俺の隣を駆け出して行ったナナちゃんが、初雪に自分の足跡を付けて遊んでいる。

 楽しそうだけど、体が冷えないか心配になる。

 呼び寄せたところで、厚手のセーターを着せてその上に防寒用の皮のコートを着せることにした。

 後でヴァイスさんがコーディネートしてくれるに違いない。とりあえずは寒くなければ十分だろう。


 顔を洗うついでに、ポットに水を汲んでくると、ナナちゃんが暖炉に火を焚いてくれた。

 お茶が湧くまでしばらく掛かりそうだけど、それまでは一服して我慢しよう。

 まだ食堂は開いていないだろうしね。

 

 お茶が湧いたころには、だいぶ指揮所も暖かくなってきた。

 ナナちゃんがコートを脱いで、俺にお茶を入れてくれる。

 この頃は美味しいお茶を入れられるようになってきたな。これもエクドラさんのおかげなのかもしれない。

 パイプに火を点けて地図を眺めていると、レイニーさんが起きてきた。ちょっと目をこすっているけど、冷たい水で顔を洗えばシャキッとするだろう。


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