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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-113 良い獲物と思わせよう


護衛兵1個小隊を城壁の外に待機させて、ブリガンディ王国からの使者を乗せた馬車2台がマーベル共和国の城門を潜り抜ける。

 さすがに、兵士達をそのままにしておくのも可哀そうだということで、エニールの部下達が薪を運びいくつかの焚火を作ると、兵士達がお茶のポットを乗せているようだ。

 さすがに寒くなってきたからね。


 迎賓館は中央の楼門の内側に作ったから、将来は南の道を移動しなければならないが、それは先の話だ。使者達を乗せた馬車はエニール達の案内で城門の内側にある広場から西に延びる道を進んでいる。

 さて、俺もそろそろ出かけるか。

 後をエルドさんに任せて楼門を降りると迎賓館へと足を速めた。


 中央楼門の広場はかなり大きい。直径だけで100ユーデを越えている。東西南北に5ユーデの幅を持つ道が伸びているから、将来は一番賑わう場所になるだろう。

 だが、現在は2つの大きな建物があるだけだ。

 1つは迎賓館でもう1つが集会場になる。食堂も作ろうかという話はあったんだが、少し北に向かえば食堂があるからねぇ。さらに住人が増えてからでも十分だとエクドラさんが話してくれた。


 馬車が迎賓館前で止まっているところを見ると、すでに使者達を招き入れたに違いない。

 さらに足を速めて、迎賓館に入って行った。

 エニールが会談の間の外に立っている。どうやら俺が来るのを待っていたらしい。

 

「使者達5人は中に案内しました。レイニー殿を呼んできます」

「そうしてくれ。あまり待たせるのも良くないだろう。エクドラさんも一緒だろうね?」

「奥の間で待機しています。同席ということですか?」

「外交の責任者はエクドラさんだよ。その上がレイニーさんで、俺は単なる補佐官だからね。エニールも俺の隣にいてくれ。向こうは5人だから、こっちもナナちゃんを含めて5人になる」


 とはいえ向こうには岸が2人付いているし、使者が女性だということはお付きの女性もそれなりの武芸者である可能性がありそうだ。

 レイニーさん達もそれなりに戦えるけど、基本は弓だからなあ。万が一の場合は、エニールの銃撃で相手がひるんだ隙に逃がす時間ぐらいは俺が作れるだろう。


「やってきましたね。立ち合いはしますけど、レオンに任せますよ」


 レイニーさんの言葉に小さく頷いた。

 ナナちゃんも一緒だけど、さすがに弓は持っていないな。

 見かけは少女になりたての女の子だからね。姉上がだいぶ鍛えてくれたようだから、すでに一人前の魔導士と言っても良いだろう。


 トントンと扉を叩き、一呼吸おいて扉を開く。

 長方形のテーブルの傍に使者達が立って俺達に軽く頭を下げるのは、最低限の礼儀ということになるのかな。

 同じように軽く俺達も頭を下げると、テーブル越しの上座に座った。真ん中はレイニーさんで右にエクドラさんとエニール、左手に俺とナナちゃんだ。

 席に着くと、扉が開きネコ族の兵士がワインの入ったカップを運んできた。


「遠路ご苦労様です。辺境の国ですから歓迎はできませんが、話を聞くことは出来ます。一戦した後の和平会談は行っておりません。現状ではブルガンディ王国と我がマーベル協和国は戦争状態が継続したままです。今回はどのようなご用向きで?」


 使者の女性は姉上より少し年上に見える。

 どこぞの有名貴族の御婦人というところかな? だが身なりはドレス姿だが、俺を見る目に隙が無い。美人であることは確かだけど、軍人なのかもしれないな。姉上なら知っているかもしれないな。


「お初にお目にかかります。私はグラスレイ……・バラネス。右手の2人が護衛騎士であるオリアンとマクベル。左は私の部下になります」

「ご丁寧に……。私の右手がマーベル共和国最高責任者であるレイニー大統領、その隣が外交を担当するエクドラです。左手が俺の侍従であるナナ、それと部下のエニールになります。俺個人はレイニー大統領の補佐という立場です」


「新たな王国を作ったと聞きましたが、初代国王はオリガン家からということではないのですか?」

「兄上達ならそれも可能でしょう。それだけの実力もありますが、俺は次男ですからねぇ……」

 

 隣の若い騎士が「落ちこぼれが……」とつぶやいている。

 事実だから、ここは笑って見逃してあげよう。その一言で戦を始めても良いぐらいの非礼だとは思うんだけどね。


「ということは、まさしく獣人族による建国であると?」

「そういうことです。何事にも獣人族に劣る人間族が獣人族を排斥、いや蹂躙するような王国なら早々に国を見捨てたほうが良いですからね」


「王宮にはそのような話は伝わっておりませんが?」

「見た目は人間族ですけど、どうも俺は先祖がえりをしたようで人間族とも言えない体になっています。とはいえ俺が軍を見捨てたのは……」


 かつての出城について話すことになってしまった。


「そうですか。砦を去ったというよりも戻ることが叶わなかったということになるのでしょう。そこで開拓村を追いだされた獣人族を保護して現在に至ると……」

「まあ、そんな身の上です。ブリガンディ王国の王宮内にどんな動きがあったのか知りませんが、現実は今話した通り。人間族が軍隊を使って獣人族を虐殺していることには変わりません」


「この砦をブリガンディ王国に帰属させようとやって来たのですが……」


 グラスレイさんの言葉に、俺達は笑い声を上げる。

 はっきりと言ってくれたものだ。まあ、遠回しに言われるよりは遥かに良い。


「どのように考えればそのような話になるのか、俺達には理解できかねます。はっきり言って、そのような指示を貴方に下した当人の頭の中は いつでも花畑に蝶が飛んでいるのかもしれませんね。実におめでたい人間だと感心します」

 

 ガタン! 椅子が倒れる音に顔を向けると、若い騎士が長剣に手を掛けて立ち上がっていた。


「貴様! そこまで国王陛下を侮辱するのか!!」


 顔を真っ赤にして粋がっているけど、隣の騎士が片手で長剣を抜こうとする腕を押さえつけている。


「あまり挑発しないで頂きたい。さすがにこの場で長剣を抜くことは出来んが、場合によってはそれも考えねばなるまい」

「ご忠告頂きありがたく思います。とはいえ、たかが騎士2人。兄上ほどの実力はありませんが何とかできるとは思いますよ」


 もう1人の騎士は、大きな目を俺に向けて俺の力量を計っているようだ。

 見た目は貧弱だし、いまだに長剣検定は2級のままだからなぁ。

 俺が交渉を有利にしようと強がっているように見えたのだろう。苦笑いを浮かべると、肩でだけで立ったままだった騎士を無理やり座れた。


「先ほど砦と言いましたが、ここは1つの国として独立しています。帰属というのもおかしな話に思いますが?」

「新たな王国ということでしょうが、いずれサドリナス王国のように周辺諸国に飲み込まれてしまうでしょう。先ずは好条件での帰属ということでは満足できませんか?」


 好条件と来たか!

 連れ出したところで、一網打尽というところかな? 後は此処に国王の息の掛かった貴族を差し向けるつもりだろうな。


「生憎と、条件を飲むことはありません。砂金に銅鉱石、先ごろ鉄を作ることも出来ましたから、ここで俺達は暮らそうと思っています」

「鉄だと!」


 若い騎士が驚いたような声を上げる。


「それなりの苦労はしていますよ。額に汗をかいて自分達の暮らしの底上げを図っています。おかげで飢える者はおりませんし、今のところは税金もありませんからね。もっともこの国には税金を浪費する貴族はおりませんから、将来税を取る段階になってもあまり民衆の負担になることはないと思いますよ」

「理想郷に思えますけど?」


「まだそこまではいきませんよ。何といってもブリガンディと戦争状態ですし、エルドリア王国とはどのような付き合いになるかも分かりません。さらに西の尾根の先には魔族ですからね」


「防衛軍の派遣を条件に、帰属を考えて頂くわけにはいきませんか?」

「似た話をかつてのサドリナス王国が打診してきました。交渉決裂と同時に戦になったのですが、あの戦が無ければ案外サドリナス王国は存在していたかもしれません。それに、防衛は俺達だけで十分です。新たな兵器を考案しましたから、魔族相手でも戦死者は出していませんよ」


「困りましたね……。できれば穏便に帰属を考えて頂けたならと思っていましたが」

「サドリナスの利権で満足なのでは? 何時まで続くかは分かりませんが当座はかなりの税金がブリガンディに上納されると思うのですが」


 俺の言葉に笑みを浮かべている。

 その分配で王宮内がもめているのかな? 更なる利権ということで俺達の国を手に入れようと考えているようだけど、あまり背伸びはしない方が良いんじゃないかな。


「確か。オリガン家の分家でしたね?」

「一応『デラ』を持つ身ですが、報酬は皆無ですよ。たぶん貴族籍を失っているでしょう。もっとも実家とブリガンディ王国にも大きな溝があるようですね。国力を磨り潰す愚かな行為だと嘆くばかりです。サドリナス王国の国力低下は王位継承者を担ぎ上げた文官貴族の政争から発展したようですが、内乱になるとは思いませんでした。長く魔族との戦をしていなかったことから文官貴族が国政を牛耳っていた弊害とも考えます。

 それに比べれば、ブリガンディは長く魔族との争いを続けた経緯を持っています。簡単には滅びることは無いでしょうが、あまり王国軍を使った獣人狩りを続けていると、戦力が先細りになりかねませんよ」


「なら、なぜ国王陛下に直訴しないのですか?」

「父上を遠ざけ、さらに姉上の顔に一生残る傷を付けたのは誰の指示なのですか? たとえそれが先を見ぬ愚かな者達の仕業だとしても、それを裁可したのは国王でしょう。俺達はブリガンディ王国の軍門に下ることは考えておりません」


「どうしても戦で決着を付けると?」

「こちらから攻めることは、今は考えておりませんよ。そちらが軍を送って来たなら戦うまでです。魔族3個大隊を相手に出来るだけの実力はあるつもりですから、それなりの軍を送ってください。そうでもしないとエルドリア王国との交渉結果を覆すことは出来ませんよ」


「どうしてもダメですか……」

「ダメというより、俺達の要求を飲むことが貴方達には出来ないでしょう。ブリガンディ王国内での獣人蔑視政策を始めた者達、開拓民達を虐殺した者達、さらには獣人族を迫害した者達、全てを引き渡していただきたい。十分に時間を掛けて殺したなら少しは交渉する気持ちになれるかもしれません」

「王国軍の士官達を引き渡せと?」


「まさか! 貴族とその家族も一緒にですよ。もちろん神官も含めてです。それぐらいしないとブリガンディを変えることは出来ないでしょう。現に護衛として連れてきた中に獣人族は1人もおりませんね。それぐらい獣人族を追いやったんです。ただ追い払うのではなく虐殺しながらね……」


「交渉はできぬと……、そこまでやっていたとは思いませんでした」

「同じ人間ですよ。魔族でさえそこまではしません。それをやったんですから、俺達の国が大きくなった時が、ブリガンディの最後になるでしょね」


「なら、早めに潰すに限るな」


 若い騎士が声を荒げた。


「どうぞ、いつでも相手になりますよ。この場でも構いません。長剣を抜いた時が最後になるでしょう」


「待て!」


いきり立つ若い騎士を再度抑えながら、もう1人の騎士が俺をじっと見る。


「ここで王宮内の噂を話すのも問題ではあるが、オリガン家の次男はいくら指導しても長剣検定2級を越えられなかったと聞いたことがある。オリアンは長剣検定1級の実力者であり、今年はその上を目指そうと頑張っている男なのだが……。それでも勝てるのか?」


 オリガン家の落ちこぼれの噂は、王宮内でも有名だったようだな。

 とはいえその確認をこの場で言われるとは思わなかったぞ。


「その話は本当ですよ。兄上の指導で、どうにか長剣検定2級を得ました。それに魔法は姉上や母上の指導があっても生活魔法すら使うことが出来ませんでしたからね。でも、隣の騎士を今すぐ殺すぐらいの事はできますよ」

「嘘ではなさそうだな。剣でもなく魔法でもないとすれば銃ということになるのだが、1発では私に首を切られかねないぞ」


 苦笑いを浮かべると、俺を睨んでいた騎士が小さく頷いて表情を和らげた。勝手に解釈しているけど、教える義理は無いからね。


「それでは、交渉は失敗ということになりますね。早々に帰ることにしましょう」

「何も得る物が無かったことを残念に思いますが、それはそちらが始めたむくいと考えてください。とはいえお土産ぐらいは用意しました。さすがに砂金は渡せませんが、銅鉱石を5袋に鉄の塊を5個ということで……。港で売り払い兵士達にワインを飲ませて頂ければ幸いです」


「ご厚意に、感謝します」


グラスレイさんが席を立つと、4人が一呼吸おいて席を立つ。

 俺達も席を立って、その場で彼女達が部屋を出るのを見送ることにした。

 直ぐに南に向かうに違いない。

 この会談がどんな影響を及ぼすのかを、これから考えないといけないな。


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