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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-111 サドリナス王国の滅亡


 秋分がもうすぐやってくるという時期に、オビールさん達がやって来た。

 不定期と言ってたが、かなり間が空く感じだな。

 次は初冬辺りになるのかもしれない。

 レンジャーの人数が10人を越えているようだし、避難民も100人近い数だ。荷車を3台曳いてきたらしいけど、荷車の荷物は避難民たちの財産に違いない。


 指揮所にオビールさんを招くといつものように状況を確認する。

 まだ秋の初めだから結構暑いんだよなぁ。冷たく冷やしたお茶をレイニーさんから受け取って美味しそうに飲み始めた。


「サドリナス王国は無くなったぞ。ブリガンディ王国とエルドリア王国の交渉が纏まったのだろうな。東西からので同時侵攻では、疲弊したサドリナス王国はなすすべもない。王都ですら町を守らずに城を守るような具合だったらしい。最後は降伏も認められずに滅んだとのことだ」

「そうなると2つの王国の線引きが気になりますね」

「それなんだが……」


 サドリナス領に攻め入ったブリガンディ王国はすでに軍を引き上げたらしい。

 そうなるとサドリナス領は全てエルドリア王国に編入されてしまう。ブルガンディ王国は旨味を得られなかったということになってしまうんじゃないか?

 エルドリア王国がさらに東へ軍を進めることを匂わしたとしても、ブリガンディ王国は長年魔族と争ってきた経緯がある。それなりに戦力はあるはずなんだが……。


「俺も不思議に思って、知り合いの町役に聞いてみたんだ。どうやら上納金で手を打ったらしいな」

「一時金では、その時だけですよ。領地なら税を永続して徴収できると思いますが」


 オビールさんの話してくれた上納金とは、サドリナス王都の東から集められた税金の半額をブリガンディ王国が得られるということらしい。

 それなら軍を派遣しなくとも、数人の役人を派遣すれば事足りるだろう。

 もっとも、何時までそれが続くのかはわからないけどね。エルドリアとしてはサドリナス領の全体を手に入れるべく戦力を整えるんじゃないかな。

 当座の足掛かりとして現状を維持するつもりなんだろう。

 ブリガンディとしても、得られた増収で戦力を充実させる腹積もりはあるに違いない。その矛先がオリガン領に向かうことが無いよう祈るばかりだ。


「エルドリアでは獣人族の排斥など起きてはいないようだ。エルドリアから施政官一行がやって来たようだから、来春にはサドリナスがどうなるか少しは分かってくるだろう」

「出来れば敵対したくはありませんね。魔族相手の友軍ぐらいに考えてくれれば良いんですが」

「だがいずれはやってくるぞ。この地に鉱山があり、金や銅が算出するんだからな」


 オビールさんの話に俺とレイニーさんが笑みを浮かべる。

 不思議な顔をして俺達を見ていたオビールさんだったが、突然何か閃いたようだ。

 俺に過去を向けて問いかけてきた。


「また何か掘り当てたのか?」

「掘り当てたわけではないんですが、これを作れるようになりました」


 オビールさんがやって来たなら、エディンさんに値を付けて貰おうと思って準備しておいた鉄の塊を、指揮所の棚から運んでテーブルに載せる。


「鉄か! 重さは前に運んできたものと一緒だろう。だが、製鉄はかなり大きな工房がいると聞いたぞ。それに使う炭の量が鉄の10倍以上必要だとも……」

「そこは工夫ということで。開拓を進めるには農具が欠かせませんからね。何とかしようと思って作ってみたんです」


 普通なら商人に、何とかしてくれと頼むに違いない。

 

「呆れた話だが、鉄の需要はそれなりだ。これをエディン殿に渡して値を付けて貰えば良いんだな?」

「今のところは俺達で消費していますが、将来はある程度売りに出そうかと考えてます」

「このままでも、工房なら銀貨を積んでくれるに違いない。とりあえず了解したぞ」


 ワインを飲みながら雑談をする。

 パイプを取り出すと、思い出したようにタバコの包みを渡してくれた。笑みを浮かべて受け取るのを呆れた表情でレイニーさんが見てるんだよなぁ。


「少しは行商人が動き出したらしい。もっとも街道から南だけのようだがね」

「北は物騒ということですか? となると残党が盗賊に成ったと」

「エルドリア進駐軍の半数は騎馬隊と聞いたぞ。かなり広範囲に盗賊を狩り始めたそうだ」


 さすがにサドリナス王国の復興なんて考えてはいないだろう。

 掴まって処刑を逃れるために逃亡し、飢えを満たすための盗賊行為ということになるんだろうが、北は魔族、南はエルドリア軍という狭間で生きていくのは難しいだろうな。それほど間を置かずに滅んでしまうに違いない。

 

「トレムさんからエルドリアはかなり大きな王国だと聞いてますが、軍以外に住民がサドリナス領内に移住してくることは考えられるのでしょうか?」

「どうだろう……。案外このままかもしれんな。もっとも商人達は喜んでいるようだ。商人達は途中に関所が無くなったから税金を取られずに済む。行商人達も自ら荷車を引かずに馬車を使って行き来するかもしれんな」


 商業活動の活発化が起きるということなんだろう。となれば特産物を作ることで俺達も収入を得られる可能性もあるってことか。


「次ぎに来る頃には少しは分かるだろう」と言って、オビールさんが指揮所を出て行った。

 サドリナス領内の各町や村に布告を出すにしても、まだ先ということなんだろう。それによる取り締まりの様子も知らせてくれるとありがたいところだ。


「サドリナス領内は獣人族への迫害が無くなるんでしょうか?」

「様子を見ないといけませんね。エルドリア王国内の施政をそのままサドリナス領に適用するのか、それともかつてのサドリナス王国の施政をある程度踏襲するのか……。直ぐには分からないでしょうが、上手く行けば避難してくる獣人族が減るんじゃないでしょうか? マーベル共和国より出ていくという住民についても考えないといけなくなりますね」


 出ていくな! とは言えないだろうな。元々が迫害を逃れてきた人達だ。迫害が無くなるならサドリナス領内に戻るということもあり得るだろう。

 かつての住いで、同じ職に付いて暮らして行けるなら問題は無いのだが……。


 その夜。集まってきた連中とワインを飲みながら、オビールさんから得た状況説明をする。

 場合によってはマーベル共和国より住人が出ていく可能性があることを継げたのだが……。


「そうですねぇ……。状況は掲示板に張り出しておきましょう。次にオビール殿がやってきたら、さらに状況が見えてくると思います。でも、この国を出る住民はいないと思いますよ」

「あまりお金を渡すことも出来ていませんが?」


「それでも安心して暮らせますし、何より飢えることが無い。開拓は飢えとの戦いでもあるんです。開墾は重労働ですが、開墾した畑で採れるものは極僅かですからねぇ」

「この地で開拓をした方が良いと?」

「それが大方の意見だと思いますよ。町で暮らしていた住人の中にも職人がおりますから、衣服や靴等は自前で何とかしているようですね。彼らにしても衣食住に困らず季節ごとに給金を頂けるんですからこちらで暮らした方が王都で暮らすよりも遥かに楽でしょうね。それに、何といっても自分で食事の支度をしないで済むというのも大きいものがあります」


 マクランさんの話では、かつての開拓村での暮らしより遥かにマシだということらしい。一言で言えば、暮らしやすいということなんだろう。

 なるべく無駄が出ないようにと、今でも食堂でまとめて作っているからなぁ。だけど、このまま食堂を使っていると、その内に料理が出来ない娘さんが出てきそうだ。

 それも嫁に行くときに問題になるんじゃないかな。


「そんなに考え込んでないで、皆で考えれば良いにゃ」


 俺がマクランさんの話を上の空で聞いていたのが分かったんだろうか? ヴァイスさんが俺に話しかけてきた。


「実は……」


 正直に話した途端、皆の顔が呆れた表情になる。

 そんな目で見ないで欲しいんだけど……。


「呆れた話にゃ。料理なんて結局は煮るか焼くかにゃ。じっくり煮込めば、どんなに不味くとも食べることが出来るにゃ」

「それはヴァイス殿ぐらいですよ。でも、ナナちゃんだって焼き魚は作れますよ。貰う方だって料理の腕を気に入って貰う者は少ないんじゃないですか?」


 エルドさんの話だと、少しはいるってことじゃないか。

 でも、良く煮るならお腹を壊すことは無いだろう。


「レオンさんの心配は私も少し悩んだことがありますよ。確かに料理のできない娘さんが増えかねません。どうでしょう。交代で食堂を手伝ってもらうことにしては?」

「家族分を作るか大勢作るかの違いはあるだろうけど、味付けや火加減は同じってことかな? ならそうした方が良いだろうな。今年も何組か縁組があったはずだ」


 エクドラさんの話にエルドさんも賛成しているようだ。ガラハウさんも頷いているけど、ドワーフ族の娘さんはいるんだろうか? 見たことが無いんだよね。


急に皆の意見が活発になってきて、誰を何時頃という話が出てくる。

 エクドラさんの話では軍属の小母さん達と開拓民の小母さん達が、3つの食堂を切り盛りしているらしい。

 縁組が決まった娘さん達を優先に、数人ずつ派遣することで話が決まったようだ。


「私の順番も回ってくるのかにゃ?」

「ヴァイスは1か月ほど手伝ってきなさい。そうでもしないと料理を誰にも褒めて貰えないわよ」


 リットンさんは辛口だなあ。もう少し遠回しに言っても良さそうだけど、そうしたら ヴァイスさんは気にもしないんだろうな。

 レイニーさんまで頷いているってことは、やはり弓の腕はあっても料理は……、ということに違いない。


「話がだいぶズレてしまいましたが、そうなるとサドリナス領内が治まってもマーベル共和国から出ていこうとする住民はそれほどいないということですね」

「現状ではそうなるでしょう。ですが、いないわけではありません。元商人であるなら手広い商いは彼らの望むところです」


 そんな避難民もいるだろうな。だが、広く商売をしても、この地を本拠地にして欲しいところだ。


 食堂の掲示板に、サドリナス王国の状況が数行で書かれた紙が張り出された。

 それだけで、大勢が掲示板に群がるんだからなぁ。やはりかなり気にしていたんだろう。情報は隠すと碌なことにならない。住民に関りがありそうなことはこれからも積極的に掲示していこう。


「お前んところの娘が俺達の食事を作るのか? 食べても大丈夫なんだよな」

「俺が生きてるぐらいだから問題は無ぇぞ。婆様連中も孫可愛さに手伝うと言ってたからなあ」


 いや、まったく別の張り紙を見ていたようだ。

 娘さん達の料理修行はかなり先行きが怪しそうだな。ものすごく不味い物だったら士気にも影響しそうだけど……。あんな話をしない方が良かったかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 急にホノボノして、ほっくりしました。 世代交代もしくは、窮余を乗り越えたんですねぇ。 良かった良かった。
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