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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-108 内乱は終息しているようだけど


 晩秋が過ぎていく。結構朝晩は冷えてきた感じだ。もう直ぐ初雪が降るに違いない。

 サドリナス王国や魔族の姿が見えないから、今年は城壁工事が捗っている。姉上やナナちゃんの働きもあり土塁だけは西の尾根にもう直ぐ接続するようだ。

 西の尾根と同じように簡単な柵を土塁の上に設けようとエルドさん達が頑張ってくれている。

 雪が降る前までに、ということで俺は石垣を作る意思を崖近くで荷車に積み込む作業を継続していたのだが、ひょっとしてということでサイコキネシスを使って石を持ち上げられないか試してみた。

 最初は少し軽くなったかな? と思えるほどだったが1か月も続けていると、手を添えるだけで頭ほどの石を動かせるほどになり、近ごろは手を触れずとも見守るだけで移動できるまでになった。

 周りの開拓民が驚いていたけど、そんな芸当が出来るのも10個程度がせいぜいなんだよなあ。毎日続けていればもう少し能力が上がるのかもしれないから、ちょっと楽しみではあるんだけどね。


「石を自由に動かせると聞きましたが?」

「この手裏剣を自由に動かせるでしょう。物は試しとやってみたんですけど、俺の頭ぐらいの石を荷車に乗せるのがどうにかですね。それも10個程度ですからお恥ずかしい限りです」


 訓練は続けているけど、この頃限界が見えてきた感じもしないではない。

 自分を浮かすことが出来るかもしれないと、一時はわくわくしていたんだが体重の半分が限界に思えてきた。

まあ、それだけでも高く飛び上がれるし、飛び降りる時だって2階ぐらいの高さなら足を挫くことも無い。

 なんか記憶にある忍者になれそうだ。マリアンに頼んで革の上下を黒に染めて貰っているから夜の戦で頑張れるんじゃないかな。


「魔法が使えないということでしたが、それって魔法だと思いますよ」

「そうでしょうか? 姉上に相談してみましたが、そんな魔法は聞いたこともないと言われてしまいました。でも、自分の身を守るには使えそうですから、悪い話ではありませんよ」


 ちょっと呆れた表情をレイニーさんが見せてくれる。

 本人も気にしているんだから、あまり深掘りしないで欲しいな。

 パイプに火を点けたところで話題を変えてみた。


「ところで、かなり開墾が進んでいるとマクランさんが言っていましたが?」

「だいぶ広げたみたいです。南の森が西に進むと無くなりますからね。伐採や切り株を退けることが無いだけ進むのが早いようですけど、結構石が多いとぼやいてました」


 石なら使えるんじゃないか?

 俺達も石を運び出しているけど、開墾場所からも運んでいるんだろうか?


「その石は?」

「城壁に使ってるようです。城壁作りには、いくら石があっても困らないと言ってました」


 それでこの頃俺達のところにやってくる荷車の数が減ったのかな?

 午前中と午後で2台ずつだからなぁ。

 トラ族1個小隊は西の尾根で石垣作りをしているけど、もう1個小隊は城壁造りで活躍してくれている。ともすれば石が間に合わないぐらいの速さで積んでいるぐらいだ。

 石を固定するための簡易セメントは石灰石をエディンさんがたっぷりと運んでくれたからなあ。たまに石灰石を焼いているのを見掛ける時がある。風のない日を選んで焼いているようだ。

 今後の工事に支障が出ないよう、オビールさん達が数袋の石灰石を届けてくれるのもありがたい話だな。

 

「雪が降っても、石があるだけ石積みをするそうですよ」

「それじゃあ、頑張って集めねばなりませんね。雪が積もるまでは頑張りますよ」


 今年は城壁造りで終わった感じだな。

 後2年ほど掛ければ、南の城壁は完成するんじゃないか。

 城壁の中なら、避難してきた連中も安心して暮らせるに違いない。

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 今夜にでも初雪が降るんじゃないかと、どんよりとした空を見上げていた時だった。

 オビールさんが数人のレンジャーと共に荷を運んできてくれた。

 避難民は? と後ろを見ると10人ほどが籠を背負って続いている。若者達ばかりのようだ。さすがに少し物騒になってきたからなあ……。


「ご苦労様でした」

「だいぶ空があやしいなあ。降る前について良かったよ」


 挨拶を交わしたところで、いつものようにオビールさんを指揮所に招き入れる。

 気になるサドリナス王国の様子が少しは分かるだろう。


 指揮所に入ると、暖炉傍のベンチに座って貰い、小さなテーブル越しのベンチにレイニーさんと並んで座る。

 暖炉傍に置いたポットから、レイニーさんが熱いお茶をカップに注いで渡してくれた。

 やはり温かな飲み物がこの季節では一番だ。


「それで、どんな具合なんでしょうか?」

「内乱は終息しつつあるが、結果は最悪だな。王族で生き残ったのは第2王子だけだ。残りは初期に毒殺、第4王子は首を刎ねられたそうだ」


 第2王子の天下ということのようだが、どうもそうでは無いらしい。

 やはり神輿代わりに使われたようだ。

 となると、担いでいる筆頭貴族が施政を牛耳るということになるのだろうか。


「降伏した貴族を追放ではなく根絶やしにしたらしい。まったく貴族連中は情けということを知らんのだろうな。神殿の神官でさえ王宮前の広場で首を刎ねたと聞いている」

「王国軍の戦力がそのままで士気があるのでしたら、当座はしのげそうですけど?」


「王国軍の中も粛清の嵐だったと聞いている。士気はどん底だろうな。第4王子側に着いた下士官までは全員処刑されたようだ。さすがに兵士達には1日1食という処罰らしい。しかもこの季節になっても暖炉に火を焚かせないということだ」

「凍え死ぬ前に動くかもしれませんよ」


 どう考えてもこの冬に一騒動起きるだろう。

 西の王国の間者がその様子をどう伝えるか……。動くとすればいつか……。


「現状の王国軍は通常の三分の二ほどだが、反乱を起こせばさらに減るだろうな。周辺の町や村は見捨てて、とりあえず王都の安全を考えているみたいだが、大きな問題に気付いたようだ」

「物流ですね? エディンさんも海を渡ったようですし」

「そういうことだ」と言って苦笑いを浮かべる。

 王都に店はあっても商人がいないのでは品物は手に入れられない。商品を店には残していないだろうし……。

 まさか!


「略奪が起きかねませんよ?」

「すでに1度あったようだ。裕福な民家に押し入って食料を徴発したらしい。警備所に届けた翌日、届出人が堀に浮かんでいたそうだ」


 治安はどん底のようだな。

 そうなると、王都の民衆達の動きも気になるところだ。


「目を掛けていた商人を呼び寄せようとしているようだが、さて戻って来るかどうか」

「次の騒動が見えてますからねぇ。戻って来るとしても来春以降になるでしょう」

「そういうことだ。俺達はどうにか食っていけるが、レンジャーの中には早めに西へ向かったものもいるようだ」


 ワンマンな国王らしいけど、それなりに治政を行っているならサドリナス王国よりもマシだろう。

 少し税率が高くとも、治安が良いに越したことは無いからなあ。


「さて、これはいつもの奴だ。エディンさんがこれを渡して欲しいと頼まれたのがこっちになる」


 タバコの包みが2個とワインが2本。それとは別に小さな包みを渡してくれた。直ぐ開けてみたんだが……、これは!


「良く手に入りましたね。これで食糧難が少しは緩和されます」

「知っているか? どうやって料理するのだろうとエディン殿が言っていたが」

「子供時代は本を良く読んでいましたからね。採れたてを煮ても良いですし、この状態にしたところで粉にすればパンの代用になります。問題は、同じ畑を使えないことなんですが、それは何とでもなります」


 袋に入っていたトウモロコシの種は20粒ほどだ。先ずは種を増やして、来年はパン作りをしてみるか。

 それにしても外国との取引ともなれば、いろいろな品が手に入るんだな。

 変わった物を見付けたなら、手に入れて貰っても良いかもしれない。

 再びエディンさん達がやってくるようになったら頼んでみるか。


 オビールさんが指揮所を出ると、レイニーさんと顔を見慌て溜息を吐く。

 情けないというか、サドリナス王国はとんでもない王国だな。

 国民を何だと思っているんだろう?

 ブリガンディも酷い国だが、サドリナスはそれ以上だ。さっさと西の王国に吸収された方が民衆も幸せなんじゃないか。


「先ほど「商人が戻ってくるのは春以降」と言っていましたが、その時期なら西の王国が攻め入るのではないですか?」

「ですから春以降だと言いました。雪解け前に攻め入るはずですよ。素早く王都を襲撃して立ち去るでしょう。傀儡政権を作ってね」


「サドリナス王国は名目として残すと?」

「ブリガンディとはことを構えたくはないでしょう。ブリガンディはまだ王宮の威光がありますから、貴族内の対立を一時棚上げしてことに当たることも可能でしょう。戦は長く続きます。俺達との顔合わせもあるかもしれませんよ。向こうにしてみれば変な国なんでしょうが、この地に俺達がいることをどのように考えるかで対応が変わるかもしれません」


 鉱山を持つ国、魔族との最前線として認知するか、それとも俺達を滅ぼしてここに砦を築くか。

 どちらにしても、西の王国軍が軍を派遣する前には城壁を完成したいところだ。


 年が明けると、共和国の3周年目に入る。

 食堂で祝いのワインを飲んで、いつもよりちょっと贅沢な料理を味わう。

 2杯目のワインが入ったカップを持って、食堂の外にあるベンチで降りしきる雪を眺めながらチビチビと味わっていると、エルドさんが俺の隣に腰を下ろした。


「獣人族を迫害した天罰なんでしょうかねぇ……」

「それならブリガンディに天罰を与えて欲しいところですね。まだ燻っているようですが、それは魔族の脅威が持続しているからでしょう」

「確かにサドリナス王国は文官貴族の権力が強かったようですからねぇ……」


 魔族が王国に攻め入る頻度はサドリナス王国の方がかなり低いようだ。

 それだけ身内の争いをしている暇があるってことになるんだが……。


「一応爆裂矢は千本近くにまで数を伸ばしましたよ。フイフイ砲やカタパルトで打ち出す爆弾の数も増やしてますから、早々攻め入られるようなことにはならないと思います。それに、場合によっては西のエルドリア王国とまともな交渉が出来るようにも思えます」


「爆弾は使えますね。あれがあるなら攻城兵器も役立つことは無いでしょう。それに魔族相手なら一方的かもしれません」


 そう単純でも無いんだけどなあ。

 操作にどうしても人数を必要とするのが問題だ。それにフイフイ砲の移動は困難だ。向きをある程度変えられるから、楼門近くに据え置くしかないんだよねぇ。


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