表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
106/384

E-105 上級土魔法


 魔族の脅威は相変わらずだけど、サドリナス王国が再度俺達に軍を向けるのは少なくともしばらくは無さそうだ。

 その間に南の城壁を完成させたいところだが、まだまだ先は長そうだな。


 雪の中で新年を迎え、3つの食堂に住民が集まり祝杯を挙げる。

 皆が笑みを浮かべているのは、もう1つの楽しみである村の名前の投票箱の開票結果が楽しみなんだろう。

 結果発表時に、もう1度祝杯をあげるのかな? まだ蓋を開けていない樽が2つあるようだ。


「あれ? レオンは一緒に楽しまないのですか?」

「皆で決めるんだから、レイニーさんがいれば問題ないでしょう。ナナちゃんは皆と一緒にいるようですから、俺は母上と会ってきます」


 あまり会わないからなぁ。たまには顔を出さないといけないだろう。

 もっとも分家の身である以上、王国内で暮らしていたなら年に1度ぐらいしか本家を訪問することは無かったはずだ。

 ひっそりと暮らしているのかと思ったら、姉上は子供達に魔法を指導しているようだし、母上とマリアンも礼拝所の維持に色々と気を配っているらしい。

 人間族に虐げられた住民も、不思議と母上達には頭を下げているんだよなぁ。あれって人徳ということなのかな? 母上達がここで暮らしていることを特に不思議がる様子も無いんだよなぁ。


 トントンと扉を叩くと、扉を開けてくれたのはマリアンだった。

 それほど広くないリビングのテーブルに母上達が座っている。俺に気が付いて直ぐに小さな暖炉傍の席を用意してくれた。


「寒かったでしょう? レオンが来たということは新年の挨拶かしら?」


 お茶の用意をしながら、俺に顔を向けて母上が笑みを浮かべる。


「はあ、たまに顔を出さないと兄上に怒られそうです。分家の身ですから、新年のご挨拶ならとやってきました」


 名目が大事だからね。住民の中には家族がバラバラになった人達もいるのだ。その点俺は恵まれているからなぁ。あまり出入りするのも考えてしまう。


「今日は、ナナちゃんと一緒じゃないの?」

「ナナちゃんは皆と一緒に開票を楽しんでますよ。この村と西に作った開拓村、それに次に作る村の名前を一般募集したんです」


「相変わらずレオン様は色々と考えておられるんですねぇ。それにしても西に開拓村ですか……。もう直ぐオリガン領ほどの大きさになりそうですね」


 テーブルの上に乗せられたクッキーを摘まみながらお茶を頂く。

 姉上やマリアン達と俺の会話を母上は笑みを浮かべて聞いている。知りたいと思うことは姉上達が質問攻めをしている中に入っているんだろう。


「レオン殿、1つお聞きしてよろしいですか?」

 

 姉上達が少し満足してお茶を飲み始めたところで、姉上の従者と前に紹介してもらった女性魔導士が口を開いた。

 フードを取った彼女は端正な顔をしている。長髪で耳を隠しているのは……、ひょっとしてハーフエルフなのかもしれないな。


「昨年の秋分には今までになく商人達が大勢訪れました。行商人の荷馬車以外にも10台を越える荷車は今までになかったことです。去年は不作だったのでしょうか?」


 改めて彼女を見る。

 姉上の従者を自認するだけあって聡明な目をしているな。

 少なくとも観察眼は優れているが、その結果を基に周囲の状況を思い浮かべるまでには至っていないようだ。

 だが農産物の収穫量なら、開拓民に聞けばすぐに分かることだと思うんだけどね。推測が最初の段階で止まってしまったようだな。


「不作に備えて、多品種を育ててます。昨年はどの作物も予定収穫量を越えてますから豊作ということになるんでしょう。とはいえ、マーベル共和国への住民流入は毎年300人を越えています。まだまだ自給自足には足らない状況と言えるでしょう」

「豊作だけど、住民を食べさせるには足りないってこと? でも開拓は進めているんでしょう?」

「開拓すれば直ぐに良い畑になるわけでは無いんです。畑の土作りには10年以上掛かると思いますよ。開拓した畑に灰や肥料を鋤き込んでソバや豆を作ってます。3年目の畑でようやくジャガイモを作っているところですよ。ライムギを撒いたのはつい最近ですからね」


 姉上がテーブルのクッキーを1つ摘まんで、しげしげと眺めている。


「これはかなりの贅沢品なのね」

「小麦粉は贅沢品も良いところです。クッキーモドキを住民はソバ粉で作ってますよ」


「話を戻しますが、そうなるとこの国は大量の食料を備蓄していることになります。その上でさらに食料を買い込む理由は何なのでしょう?」


 再度従者に顔を向ける。

 

「この国には4半期ごとに商人がやってくる。最初に沿う約束してくれたのを通じつに守ってくれる商人に巡り合えたことを神に感謝したいぐらいだ。その商人があえて2倍の量の荷を運んでくれた。俺達の要求が無くてもね。理由を聞くと今後の取引が不確定になるからだということだった。……サドリナス王国が割れるだろう。今年で決着が付けば良いのだが、魔族が直ぐ近くにいる状況で内乱とはねぇ……」


 母上達がびっくりして俺に視線を向ける。

 マリアンは持っていたカップを落としたのだろう。慌ててテーブルを拭いている。


「ブリガンディなら分かりますが、サドリナス王国もですか……」

「弱体化した王国であるなら、隣国からの侵略も容易でしょう。ブリガンディはさすがに隣国に手を伸ばすのはどうかと考えます。となるとさらに西の王国ということになるんですが、かなり国王の権力が高いようです。国王の判断次第ではサドリナス王国が飲み込まれるやもしれません」


「レオン様はこの国の宰相的な立場にいるんですから、しっかりと舵取りを頼みますよ」


 マリアンの言葉に苦笑いを浮かべる。

 パイプを取り出すと、母上が小さく頷いてくれたので席を立って暖炉の焚き木で火を点けた。

 マリアンも昔は俺を憐れむ目で見ていたんだよなぁ。それが今ではまるで違う目で見ている。宰相というのは少し買いかぶり過ぎだろう。あくまで皆と協力して国政を何とかしようとしているつもりだ。


「それほど偉くはないよ。大統領の副官なのは、レイニーさんとの長い付き合いだからだろうし、中隊を率いていると言っても、変わった部隊だから上手く使える人がいないだけです」

「謙遜は大事ですけど、時にはそれをうまく使うことも大切ですよ。国政は獣人族が行っていることは私にも良く分かりますが、長期的な目でマーベル国を導いているのはレオン様であることは誰もが知っていることです」


 マリアンの言葉に首を傾げてしまった。

 それは少し考えないといけないことだ。あくまでこの国は獣人族による獣人族の為の国だからね。


「そうなると春から忙しくなりそうね。私も空堀作りを手伝おうかしら?」

「さすがに姉上にスコップを持たせるのはどうかと……」

「魔法を使えば良いのよ。土をブロック状に切り出せるわ。……そうねぇ、1ユーデ四方の土を切り出して、圧縮すればそのまま重ねて使えるわよ」


 ひょっとしてレンガ並みに出来るってことか?

 それならかなり進められそうだけど、姉上の話を聞くと1日辺り十数個が限界らしい。

 道理でと今まで誰もそんなことをしなかったわけだ。

 だが魔導士部隊を持つ軍隊なら、それで素早い防壁作りも可能なのだろう。


「ナナちゃんに手伝ってもらえるなら、30個はできるわよ」

「可能なんですか?」

「上級土魔法になるんだけど、ナナちゃんの練習にもなるはずよ。ブリガンディ王国でさえ、上級土魔法を使える魔導士は片手で数えられる程しかいないの」


 防壁作りは無理ってことかな?

 まあ、時間があればそれなりの壁を作れるんだろうけどね。

 とはいえ、良いことを聞いた。

 帰ったなら、レイニーさんやナナちゃんと相談だな。


 数日後。

 空堀作りにナナちゃんと姉上が加わる。

 最初は中々ブロック状に土を切り出すことが出来なかったナナちゃんだけど、半日もすると綺麗な形でブロックを切り出し、三分の一ほどの大きさに土を固く固められるようになったようだ。

 固めたブロックを荷車に乗せて運び、土累を西へと伸ばしていく。

 以前の倍の速度で土塁が伸びていくと、エルドさんが感心しているぐらいだ。

 この方法が西の尾根で使えたなら、良かったんだが生憎と半ば完成しているからねぇ。

 石積みもこの方法が取れたら良かったんだけど、切り出した後の運搬方法が難しいと直ぐに気が付いてしまった。

 案外ガラハウさん達はこの魔法が使えるんじゃないかな?

 坑道を広げて自分達の住居や工房を作っているぐらいだからね。


「さすがはブリガンディの魔導師ですね。ナナちゃんも色々と教えて貰っているようです」

「あまり俺と比較しないでくださいね。俺の自慢の兄上、姉上ですが、俺は足元にも及びませんから」


 俺の言葉にレイニーさんが笑みを浮かべる。


「レオンさんにはレオンさんの良さがありますよ。このまま行けば、今年中には土塁が出来そうに思えるんですが?」

「そうなると西の尾根の石垣との接続が出てきますね。楼門は作らなくても良さそうですけど、見張り台は欲しいところです。まだまだ西の石垣を南に伸ばすのは先になるでしょうけどね」

 

 南の城壁の石積みの速度が問題になりそうだが、それなりに進んでいることは確かだ。

 城壁が出来なくとも土塁の南側はかなりの急斜面だからなぁ。それなりの防衛が出来そうだ。

 サドリナス王国の内戦が一段落する頃には、石垣もかなり西に延びるに違いない。

 春になれば新たな住民も増えるだろう。民兵をさらに増やせるのも俺達には有利となる。

 ガラハウさん達がクロスボウをさらに増産してくれているし、ボルトも冬の間に数を増やせるだろう。

 矢はさすがに兵士達で作ることができないが、木工職人達が頑張ってくれているらしい。


「やはり飛び道具というのは、回収して再び使うのは難しいですねぇ」

「そうですね。サドリナス王国と戦をしたときでも、相手の放った矢を合わせても使える矢は放った数の半分にもならなかったですからね。魔族相手の戦では、回収してもそのまま使える矢は1割にも満たないでしょう。ボルトにしてもそうですし、銃弾は回収など最初から頭にないでしょう?」


 銃弾は撃ち放しが基本だろうな。おかげでカートリッジの数を揃えるのに苦労してしまう。火薬は作れるけど、火薬と鉛の球を紙に包んで丸めるのは、ガラハウさん達の仕事の合間で作っているようなものだ。


「1人10発を持たせることが出来るようになりましたし、火薬庫には千発近く集めています。数回の戦なら問題はありませんよ。それに銃弾が無くなれば槍兵として活躍できるよう訓練もしてますし……」


 ライフルと銃剣の組み合わせは、梯子を上ってくる敵に都合が良い。

 片手剣も装備しているようだけど、それを使う時は共和国の存亡に関わるような戦に違いない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] レオンは「獣人たちの国」と事あることに言ってますが、これは獣人を排斥して「人間たちの国」にしている周辺王国の裏返しなことに気づかないと危なそうです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ