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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-104 さらに西の王国


 例年より少し遅れて初雪が降った。

 急に寒くなりだしたから、このまま降り続けたなら根雪になるんじゃないかな?

 ナナちゃんが嬉しそうに外の雪を眺めに行くから、そのたびにレイニーさんと暖炉の傍で身を縮こませる。

 やはり子供は寒さに強いのかな? それとも寒さより遊びたい思いが強いってことなんだろうか?

 互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべると、レイニーさんが俺のカップにお茶を注いでくれた。


「私も里で暮らしていたころは、ナナちゃんと同じでしたから……」

「オリガン領はあまり雪が降らないんだ。ちょっとでも降ると皆で雪だるまを作ったけど、土が混じるから白い雪ダルマにならないんだよね」


 それも今では良い思い出だ。

 ここなら真っ白な雪だるまが作れるし、道の雪かきをして出来た小山のような雪に横穴を掘れば、子供達が秘密基地作りを始めるからね。

 養魚場の池も厚い氷が張るから氷滑りを楽しめるし、エルドさん達は子供達の為にソリの斜路を作ってあげるに違いない。

 ナナちゃんのソリも後で油を塗ってあげよう。油を塗るとかなり良く滑るらしい。


「南の城壁作りは雪解けまでお預けですね」

「石積みは無理でも、空堀と土塁は作れます。土塁があるとないとでは石積み作業が段違いだとガラハウさんが言ってましたよ」


 作業工程は同じなんだと思うけどねぇ……。

 そんなことを考えながら、パイプに火を点ける。

 タバコをだいぶ買い込んだので、魔法の袋の中身を整理していたら昔王都で手に入れたタバコの缶を見付けた。

 魔法の袋の中は時間が止まっているらしいからこの間封を切ってみたんだけど、なるほど劣化が全くない。

 これだけでタバコ2袋分ということだからなぁ。しばらくは楽しめるに違いない。


「食料は夏至を過ぎても安心できるということですが、嗜好品はそうもいきませんね」

「無くなれば止めることになりますが、そう簡単に止められないでしょうね。俺の場合はタバコになりますけど、ガラハウさんが酒を止めるなんて想像できませんよ」


 ワインを自給しようということで、取り入れたブドウを使って樽に仕込んだらしい。

 20樽ほどになったらしいから、半数ぐらいワインになれば良いんだけどね。

 エディンさんから買うワインよりも味が悪くたって、地元産のワインだから皆も喜んでくれるんじゃないかな。


「今のところワインはたっぷりとあるんでしょう?」

「20樽ほどあるそうです。1年の消費量は十数樽というところでしょうから、ワインは次の初雪ごろまで楽しめるはずです」


 村の貯蔵庫だけで20樽ということだな。その上に新たに仕込んだ樽が20個。さらにガラハウさん達は、鉱山内の工房兼住居に数樽は買い込んでいるはずだ。

 ガラハウさんの事だから、ワインだけでなく蒸留酒も何本か買い込んでいるに違いない。

 そういえば、ガラハウさんに蒸留器を作って貰ったんだった。

 この冬で試してみるか。安めのワインを消費することになりそうだが、上手く行けば新たな産業をマーベル共和国に作れるからね。


「サドリナス王国もしばらくは此処を攻める暇は無さそうですね」

「攻め込むとなれば、内乱終息後でしょう。王国の財政がどん底のなっているはずです。国民から税を絞れば隣国に逃げ出すかもしれませんし、裕福な商人達は王国を離れて様子を窺っている状況だと思いますよ」


「砂金目当て……、ということですか?」

「しかも住んでいるのが獣人族ともなれば蹂躙しても問題ないと考えるはずです。1度懲りているはずなんですが、背に腹は変えられないかもしれません。何せ自分達の暮らしを落とそうなんて考えは無い連中が王侯貴族ですからね」


 これを機会に質素倹約に心掛けて魔族を撃とうなんて考えるなら、大したものなんだがなぁ。ある所から取ろうとするんだから、盗賊とあまり変わりがないな。


「時期としては来年……、早すぎますか?」

「あり得ますね。でも先ずは自分達の軍の再編に取り掛かるでしょう。再来年には確実かと……。でも、それには他国からの干渉を受けなければ、という条件が付きます。場合によってはブリガンディや西の王国がこれを機会と見て軍を進めるかもしれません」


 サドリナスよりは西の軍の方が怪しく思える。サドリナス王国軍は獣人族を排斥したことで弱体化しているはずだ。魔族との戦で、欲を出すほどの余裕が無いだろう。

 サドリナス王国軍が西に向かう為には、オリガン領へ王国軍が侵攻してオリガン家を滅ぼさない限り難しく思える。内患を抱えた状態で侵略軍を出すほどの度胸が王宮にあるとも思えないからね。


「レイニーさんはサドリナス王国の西にある王国について知っていますか?」


 俺の問いに、恥ずかしそうに首を振る。

 俺達はブリガンディ王国の住人だからなぁ。隣国ならある程度の話を聞くことはあるが、その先の王国なんて何も知らないのが殆どだろう。


 サドリナス王国の西の王国についての情報は、村に食料を取りに来たトレムさんが教えてくれた。

 トレムさんは王都近くで宿屋を営んでいた家族の3男らしい。

 長男は家を継いで、次男は近くの食堂へ婿養子に入ったらしいが、獣人族だからなぁ。早々に店を畳んでこの村にやってきているらしい。


「経験があるということで、村の宿屋と食堂で働いていますよ。客がたまにしか来ないとぼやいてましたけどね。俺の方は早くに家を出ました。さすがに3男ともなれば町を出るのが当たり前ということで、レンジャーギルドに登録し、仲間と各地を転々と巡っていたんです」


 町ともなると人口増加が1つの問題にもなるらしい。周辺の開拓は済んでいるし、それなりの店はすでにあるからね。上手く婿に慣れれば問題も無いが、多くが町を出て食を探すということになるようだ。


「という生い立ちですから、レオン殿の疑問には少し答えられますよ。東西に延びる街道は遠い王国からも商人達が荷馬車を連ねて商いにやってきます。家の手伝いをしながら、そんな商人達から色々と話を聞いていましたからね」


 そんな前置きをしたところで、ワインを一口。

 俺とレイニーさんに西の王国について教えてくれた。


 西の王国は、エルドリア王国という名前で、サドリナス王国よりも一回り大きい。

 大きいというのは、町や村の数での比較らしく、サドリナス王国が100個近い数何大してエルドリア王国は120を超えているからだそうだ。面積で比較したわけでは無いんだが、王国の主要な産業は農業や牧畜だからなぁ。

 町や村の数が多ければそれだけ耕作面積も多いということだから、結果的には3割から5割程国土が大きいということになるんだろう。

 王国が大きいということは、それだけ王侯貴族の数も多いということだから、王国の方針が国王の一存で変わることはないと思っていたのだが、どうやらそうでは無いらしい。


「現在の国王は幼少時に国王になったことで、貴族の横やりにかなり苦労したそうです。成人を過ぎても後見人を自称する貴族が王国内で権力を振るっていたということですからね。そんなことが続く中、ある国王に一言も相談せずに王国軍を動かして敵対貴族の追い出しを計ったそうです。さすがに国王はこれ以上の横暴を見過ごすことが出来なかったんでしょうね。指示を出した貴族と、その指示に従って王国軍を動かした将軍を呼びつけ、謁見の間で釈明させたそうです。だが誰も屁理屈をこねるだけで、王国軍を国王の許可なく動かしたことを詫びる者はいなかったそうです。国王はその場で集めた者達の首を近衛兵に刎ねらせたと聞きました。翌日、騒動を聞きつけた貴族の代表が国王を諫めたらしいのですが、その者達も首を刎ねられたそうです……」


 自分達の権益だと勘違いしていたのかな?

 確かに頭に来るだろうな。さすがに愚王ではいられなかったということか。

 となると、その後は大いに乱れたとなるんだろうが、トレムさんの話ではそうでは無いらしい。


「貴族を1人ずつ呼び出して、彼らに自らの役目を述べさせたそうです。ところがきちんと答えられたものは三分の一にも満たなかったというんだから呆れた話ですね。自分の役目も分からずに税金を使って暮らしているんだからなあ。その後のの国王の話が面白いんだ。貴族を一堂に集めて言ったそうだ。『これから名を呼ぶものは退席せよ』とね。近衛兵が次々と名を呼び上げ、その者達が謁見の間を去ると半数以上の貴族が残ったから、貴族達は名を告げられた者達が降格されるものと思ったようです。ところが、彼らに国王が言った言葉は全く意表を突く言葉でした。『お前達は自らの役目も果たさずここにいるようだ。それなら汗を流して働く者達をこの場に置いた方が私の為になるだろう。2度と私の前に顔を出すな。全員の貴族としての地位を取り上げる』、さて、それからどうなったと思います?」


 内乱になったなら、それなりの話が聞こえてきたはずだ。

 だが、それが起こらなかったということは……。まさかと思うが、全員殺したってことか?


「それだけのことをしたなら貴族が反乱を起こすでしょう。ですがそんな話は聞いたことがありません。でも、貴族としての地位を失えば食事すら窮することになったはずです。むごい王だという評判も聞きません……。そうなると、行動は2つ。国外追放、もしくは毒杯を賜ることぐらいですかね?」

「最初に近いですね。残った貴族達を全員修道院に送ったらしい。残された家族は貴族としても収入を三分の一に減らされて生活しているようです。それでも王都の住民よりは遥かに高い収入ですが、当主の妻が亡くなったら収入は無くなるそうですから無駄使いはできないでしょう。まともに子供が育っていたなら働き口を探すことも出来るでしょうが、やたらと相手を見下す連中ですからねぇ。そんな親を見て育つ子供はろくでもない奴になってしまうのが落ちなんですけど……」


 ゆっくりと貴族を潰したことになるな。

 それにしても英断ではある。いなくなった貴族の代わりに能力のある者達を集めて国政に参加させているのだろう。

 貴族としての役を果たさない連中の最後を見ているはずだから、残った貴族達は懸命に役割を果たそうとするに違いない。

 これはちょっと問題だぞ。

 少なくとも、ブリガンディやサドリナスとは違った王国であることは間違いない。

 ある意味、王国らしい王国だ。国王の考え次第で大きく国を動かせるんだからね。

 となると、エルドリア王国の更に西にある王国の動きも考えなくてはなるまい。

 トレムさんにさらに西の王国について聞いてみたんだが、商人の話ではサドリナス王国のような王国だということらしい。

 長く戦をしていない王国ということかな?

 トレムさんの話ではエルドリア王国では魔族との争いがあるらしいから、軍は精鋭揃いだろう。

 魔族の動き次第では、サドリナス王国に食指を伸ばしかねないな。


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