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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-102 サドリナス王国に内乱の兆し


「すると、一時的に海を越えて避難すると?」

「はい。家族共々避難して、私は知り合いの貿易船に便乗して商売を続けようと思っております。つきましては、4期毎にマーベル共和国に足を運んでおりましたが、今後は不定期になるのではないかと」


 命あっての商売だからなぁ。誰もエディンさんを非難することは出来ないだろう。それよりも、不定期ではあっても俺達との交易を続けてくれることに感謝しなければなるまい。


「たぶん、魔法の袋を使った輸送になるかと思います。その辺りはオビール殿に任せたいと思っています」

「魔族の脅威を考えると、火薬と火薬の原料が欲しいところではあるのですが……」


 俺の言葉に笑みを浮かべたエディンさんが頷いている。話を聞くと要求量の3倍を運んできてくれたらしい。その上に硝石が10袋……、これで火薬を量産できるぞ。


「土地が豊かではないからなぁ……。堆肥だけでは足りないってことか」

「色々と撒き方を試しているんですが、直ぐに効果は出ないようです。それでもソバはかなり取れますよ」


 互いに苦笑いを浮かべる。

 ソバを食べて冬越しするのは、開拓村でも極一部らしい。やはり俺達が食料を大量に欲しがる理由を理解したということなんだろう。

 現在の自給率は5割を超えたぐらいだ。最初から比べればかなりマシになったのだが、開墾する速度より難民の流入人口が多いことから自給率が上がらないのが真相だ。


「エディン殿より大型の魔法の袋を新たに5つ借り入れた。荷馬車10台ほどの積み荷なら運んで来れるぞ」

「よろしくお願いします。海を越えての商売ともなれば、此方も何かを売り込みたいところですね」


「そんなものがあるなら、是非とも買い入れたいものです。今ですか? それともこれから?」


 直ぐに食いついてきた。

 さすがに、これからだと答えておく。


「だいぶ住民が増えましたからね。そろそろ分村を考えないといけません。そうなるとやはり雑貨屋が欲しいところですが、分村しても直ぐに村人を増やすことが出来ませんので」

「そういうことですか。それなら行商人の荷車をそのまま使うことで代用が可能でしょう。1台は予備として保管された方が良いかもしれませんよ」


 2台の内の1台を予備と考えてたんだけどね。まあ、多くあるなら、他にも使えそうだ。


「ブリガンディ王国からの避難民は、今まで通りに俺達が案内する。エディ殿との取引もこれまで通りではあるんだが、不定期になることは避けられないな。それで今回食料を多く運んできたのだが」

「今年の収穫物もありますから、来年の夏至近くまでは食いつなげると思います。エディさん達こそ、無理はしないでくださいよ」


「大丈夫ですよ」と言って、2人が腰を上げる。

 皆のところに戻るということだろいう。

 明日はオビールさんから、ゆっくりと王国の内情を聞かせて貰おう。

 

 翌日の昼過ぎに、オビールさんが指揮所を訪ねてきた。

 レイニーさんやナナちゃんだけでなく、伝令の少年達も行商人の荷車を見に出かけたみたいだ。昨夜住民に報酬が支払われたのもあるからだろう。


「よく来てくれました。離れていては話も届きません。俺だけですから、これでも飲みながら話を聞かせてください」

「若いのによく気が回る奴だな。ありがたく頂くよ」


 テーブルの一角にワインのボトルとカップを持っていくと、俺とオビールさんが席を移動する。

 椅子に座りなおしたところでワインの封を切り、2つのカップに並々と注ぐ。

 1つをオビールさんの前に押しやると、笑みを浮かべてカップを持つ。

 カチン! とカップを鳴らして先ずは一口。

 カップを置くと、テーブルの上に置かれた小さな火鉢を引き寄せる。

 皆は魔法でパイプに火を点けるんだけど、俺は使えないからなぁ。ナナちゃんならできるだろうけど、俺の悪癖に協力してもらうというのもねぇ……。

 いつも席を離れて暖炉や焚火で火をつけているのを見たガラハウさんが銅板で作ってくれた代物だ。灰に埋もれた炭に、付け火用の木片を使ってパイプに火を点ける。


「苦労しているな。本当に魔法が使えないんだな」

「防衛ではあまり気にならないんですが、ちょっとしたことに不便さを感じるところです。でも慣れてしまえば何とでもなりますよ」


 そんな俺の言葉を聞きながら、オビールさんもパイプを取り出して小さな炎を作ってパイプに火を点けている。

 うらやましく思えるけど、気にしてもしょうがない。出来ないものはできないんだからね。


「エディンさんの話では、かなり大きな争いになっているようです。王国全体が巻き込まれる可能性はあるのでしょうか?」

「王都から流れてきたレンジャーの話では、内乱に発展するのは時間の問題らしいぞ。まだ近衛兵は動かんが、対立する貴族の両者から手が伸びているらしい。それに王族にも触手を伸ばしているようだ」


 王族は貴族と一線を保つとの姿勢ではあるようだが、有力貴族との婚姻関係が長く続いているようだ。

 王族内での対立が表に現れるのもそれほど先ではないということになるのだろう。


「そうなると王国軍も絡んできますね」

「王国軍を率いる将軍は代々の武官貴族だからなぁ。王族に忠誠を誓ってる頭の固い連中だ。だが、その忠誠の相手が問題になる」


「まさか!」

「そういうことだ。それで内乱が一気に加速するだろう。今の段階であれば国王や神官が対立の調停を計ることも出来るだろう。しかし、神殿の神官達は見て見ぬ振りをしているし、国王は及び腰だ」


 神殿が調停に動かないのは、すでにその時期を過ぎているからだろう。下手に調停に乗り出したなら現在の地位を失いかねないと思ったのかもしれないな。

 国王の態度はちょっと問題だな。事なかれ主義の無能ってことかな?

 だが、調停を行える者達が動かないとなれば、自らの陣営に利すべく貴族が王族に対して動きだす可能性が出てくる。

 その最たる動きが……、国王の暗殺だ。


「そこまでやるでしょうか? 単なる王宮内の政争なら破れても没落で済みますが、それを行えば破れた陣営の貴族は根絶やしになりますよ」

「レオンのように先を見ながら行動するようなら、このような事態にはならなかったかもしれないな。レオンは案外宰相に向いているかもしれんぞ」


「王宮出入りの商人、それに王都に店を持つ商人達にも累が及ぶ可能性もありますね。エディンさんの選択は正しいと思います」

「特定の貴族に関わらなくても、自分の息が掛かっていないということで処断されないとも限らないということだろう。まあ、王国内である程度自由に動けるのは俺達レンジャーだけになってしまったよ」


 とは言っても、街道の北で猟をするのは以前より危険が増したはずだ。ましてやこの国はさらに北だからなあ……。


「国境の川沿いは案外獲物が豊富だし、魔族の姿もほとんど見ることは無い。おかげで川下の町にレンジャーがかなり集まって来たよ」

「上手く立ち回ってくださいよ。オビールさんに万が一のことがあっては、俺達が一番困りますからね」


 俺の言葉に笑みを見せる。

 それぐらい分かっているということだろう。とはいえ、昔から川下の町や村で活動してきたレンジャーだからなぁ。やって来たレンジャー達の面倒もきちんと見ているに違いない。


「ブリガンディ王国の方が先に大事になると思っていたんだが、案外こっちの方が先になってしまった。やはり長く平和が続いていた弊害なのかもしれん」

「北の大山脈が堤防になっていたようですね。でも堤防に穴が開けば一気に濁流が押し寄せます」

「その通りになったということだな。それに一致団結して対応せずに自分の権益を守ろうとすると……、こうなるわけだ」


 苦笑いを浮かべてオビールさんがワインを飲む。

 残り少なくなったカップにワインを注ぐと、俺のカップにも少し注ぐ。

 まだ半分しか飲んでいないんだけど、悪酔いしそうだな。


「内乱ともなれば、町や村の住民にも被害が及ぶ可能性があります。その辺りは大丈夫なんですか?」

「町を囲む丸太塀の補強をしているよ。住民も自衛のための武器を買っているようだ。たまにギルドの訓練場で住民が弓の練習をしていると言ってたぞ」


 略奪に備えているってことのようだ。

 大軍でなければ十分に防衛が可能だろう。とは言っても、それほど先の事とも思えない。戦は大量の物資を必要とするからね。その最たるものが食料だし、不足すれば周辺の村や町から奪い取れると思っているに違いない。


「剣より槍ですよ。その辺りは住民に教えてあげてください」

「棒の先に短剣を結ぶだけでも良いと教えたよ。塀を越えようとするなら一番使えるからな。素人が急に剣を使えるとも思えない。レオンのところはどうなんだ?」


「弓と槍ですね。素人でも3人が槍を持てば兵士と互角に戦えます。敵との距離が空きますから恐怖心も少ないということです」

「考えることは同じということか……。それにしても深い空堀を作っていると感心したよ」

「空堀を深くすることで、見掛けの城壁を高くできます。ハシゴもそれだけ長いものを用意しないといけません。長いハシゴなんて持って押し寄せるなら、動きが取れないだけですから」


 空堀の利点はそれだけではない。だが町や村に導入するならそれほど大きなものを作ることは出来ないだろう。

 防衛に難のある場所だけでも、空堀を作ればそこを目指す敵兵はいないんじゃないだろうか?

 空堀を掘ることで、自分達に有利に敵を動かすことも出来るんだけどねぇ……。


 やはりサドリナス王国は内乱に向かって一直線に進んでいるようだ。

 そんなことをやっている時では無いんだけど、サドリナス王国の貴族は近くだけを見ているってことのようだ。

 内乱に突入して勝ち残った貴族達は領地をどのように分配するのだろう。弱体化した王国を魔族が見逃してくれるとも思えない。

 内乱終息後には魔族との泥沼の戦が待っているんじゃないかな?

 いや、案外魔族との戦で内乱が終息することも考えられる。その場合は王宮内で貴族同士が足を引き合うのだろう。

 どちらにしても王国の没落は確実だ。ブリガンディ王国やさらに西の王国が食指を伸ばさないとも限らないな。

 出来ればブリガンディではなく西の王国に期待しよう。まだ選民思想に染まっていないだろうからね。

 


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