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オリガン家の落ちこぼれ  作者: paiちゃん
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E-099 尾根の指揮所は目立つらしい


 尾根沿いにずらりと並んだ柵、その中に木造ではあるけどひときわ大きな建造物があるなら、確かに攻撃目標なるんだろうな。

 魔族が3つの群れで、指揮所に向かって来るのが良く分かる。

 望遠鏡で見る限り、押し寄せてくるのはゴブリン兵士だからネコ族でも対等に白兵戦が出来る。ゴブリン兵の多くが棍棒を振り上げて向かって来るだけだから、槍や片手剣の稽古に余念がないヴァイスさん達には少々物足りない相手ではあるんだろうが……。

 何せ、数が多い。

 相手が自分達より強くても、数で乗り切るのがゴブリン兵士達だからね。


「後続もいるようですけど?」

「ゴブリン兵士の後ろに、コボルト弓兵がいますよ。1個小隊規模ですけど、どこから来たんでしょうね。尾根から動かない連中はホブゴブリンのようです。数体いますから、彼らが今回の指揮を取っているのでしょう」


 コボルト兵士は、イヌ族の連中より弓の飛距離が劣る。それに谷から山に向かって放つのならそれだけ威力は無くなるし飛距離も短くなるだろう。

 

「ゴブリン達が長い竿を持っていますけど、あれは槍ではないですよね?」

「たぶん斜面や、柵を乗り越えるハシゴ代わりの品でしょう。少しは楽になるでしょうが、両手をそっちに使ったなら武器は持てませんよ」


 少しは考える力があるようだ。もっとも、西の尾根の上でこちらを見ているホブゴブリンの知恵なのかもしれないな。

 考えは理解できるけど、戦で使うのはどうだろう。あのまま上がってきたなら、粗末な木製の盾で身を守ることさえできないんじゃないか?


「射界に入ったならすぐに攻撃!」


 レイニーさんが、両手を口に当てて大声を出す。

 返事は無いけど、頷いているようだから指示は理解してくれたようだ。


「ナナちゃん。柵に取り付いた敵を頼んだよ」

「分かってるにゃ。この影から撃つにゃ!」


 ナナちゃんの返事に、レイニーさんが笑みを浮かべながら自分の弓を手にした。

 レイニーさんも弓兵だからね。あまり練習していなかったようだけど大丈夫かな?


 第1軍が、俺達のいる尾根を登り始めたようだ。

 谷筋にはかなり木々が生い茂っているから、もう少し登ってきたところを撃つしかないな。

 俺も弓を持って、予備の矢を数本地面に突き刺した。

 人間相手にはやりたくないことだが、矢を地面に突き刺すと矢傷が中々治らないらしい。場合によっては壊疽を起こして死んでしまうと聞いたことがある。

 周りを見ると、そんなことをしているのは俺だけのようだから、あまり知られてはいないようだ。


「弓を使うんですか? てっきり槍を使うのかと」

「最初は弓を使いますよ。矢が無くなったらこの槍を使います」


 長剣技能が2級だからねぇ。背中の長剣よりは槍を使った方が間違いない。

 出城時代から使っていた槍だ。少し太めの柄だから、これで殴っても折れることは無い。

 

 ヒューンと音を立てて石が斜面に飛んでいく。

 軽装歩兵の連中は投石具も使えるようだ。

 数十個がまとめて飛んでいくんだが、ちょっと飛距離が足りないようだ。そんな礫をものともせずにゴブリンが昇ってくる。


 数回目の投石が、ゴブリンの群れの中に落ちた。

 たちまち混乱して部隊が散っていく。

 ゴブリンは群れるから恐ろしいのであって、散開したゴブリンなら個別に倒せば良い。

 最初の矢が放たれたのは、散開して再び斜面を登って来た時だった。

 

 矢で倒れた仲間を遮蔽物にして、次々と斜面を登ってくる。

 俺とレイニーさんも弓で応戦するのだが、たちまち矢筒の矢が無くなってしまった。

 矢は弓兵に任せるか。指揮所の壁に立て掛けてあった槍を取って柵に近づく。

 コボルト弓兵の姿は見えないから、谷辺りでこっちの様子を窺っているに違いない。

 敵の矢はしばらく気にせずに済みそうだ。


 ゴブリンの第1軍が尾根の斜面に倒れても、次ぎの群れが上がってくる。

 今度は爆裂矢まで放ったが、ゴブリンはひるむことが無い。統率が取れているというよりは、闘争本能だけになってるんじゃないかな?

 矢が尽きかけてきたのか、まばらに矢が射こまれる。カリン達も数発の銃弾を放ったから、現在はバレルの掃除をしているのだろう。パタリと銃声が途絶えた。


「取り付くぞ!」


 数体のゴブリンが、俺の目の前の柵を登ろうと柵に手を掛けていた。槍で素早く突きさして押し込むようにしてゴブリンを谷に向かって転がす。

 レイニーさんはまだ矢筒に残っているようだな。

 たまにボルトが後ろから飛んでくるのは、矢の尽きたナナちゃんがクロスボウに武器を変えたからだろう。


「やぁ!」

 

 鋭い突きを放つ。

 10体近く突いていると、突然柵に大勢のゴブリンが取り付いてきた。

 敵の3陣ってことかな?

 この後は弓兵だけだから、これを何とかすれば終わりになるはずだ。


「頑張れよ! もう少しだ」

「「オオウ!」」


 俺の大声に周囲のネコ族の連中が応えてくれた。

 俺の傍に誰かがやって来た。

 下を見るとナナちゃんが少し大きなナイフを前に構えている……。


「メルダム!」


 ナナちゃんの言葉と共に、柵から少し先に炎の壁が出現した。

 高さは俺の身長ほどもあるし、左右に5ユーデ近く広がっている。

 これが上級魔法ってやつか!

 思わず動きを止めたところに、柵を乗り越えたゴブリンの棍棒が襲ってきた。


 ガチン!

 とっさに右手の手甲で受ける。

 太い釘を3本仕込んだ手甲だから棍棒を跳ね返しはしたが結構痛かったぞ。

 左手でゴブリンを殴りつけると、倒れたゴブリンの胸を足で踏みつぶす。

 乱戦になってきたな……。


「行け!」


 空に向かってベルトの革ケースに入っていた手裏剣を投げる。

 もう1人の俺の意思機に手裏剣を任せて、再び槍でゴブリンを突きまくった。


 目の前のゴブリンがいなくなった。

 突然にまったく動くゴブリンがいなくなった。


「どうやら凌ぎましたね。逃げ帰るゴブリンの姿もありません」


 レイニーさんの言葉に、どうにか状況を理解する。

 右手を前に伸ばして手を広げると、ポトリと3枚の手裏剣が落ちてきた。これも使えるな。

 周囲を見渡すと、10体を越えるゴブリンが喉を斬られて絶命している。

 望遠鏡で、ホブゴブリンの姿を探すと、攻撃前と同じ場所に数体が立っている。コボルト弓兵の退却を待っているのかな?


「カリン! 部隊の半数を休ませるように伝えてくれ。それとエルドさんとヴァイスさんを指揮所に呼んで欲しい」

「了解!」と返事をしてくれたから、レイニーさん達を連れて指揮所に戻ることにした。


 席に座る前に、ポットからカップにお茶を注いでレイニーさん達に渡す。その間にナナちゃんが俺のカップを席に用意してくれた。


「先ずは勝利ということですな。3個小隊だと思っていましたが、少し多かったですね」

「コボルト弓兵は意外だったが、この尾根では役立たずだったようだ。やはり高い場所に陣を敷くだけで防衛力は上がる」


 真面目なトラ族の元重装歩兵が呟いた。

 それを狙って尾根に防壁を築いたんだが、これほど防衛が容易だとは思わなかった。

 とはいえ反省事項も多い。

 何といっても、指揮所と待機所の連携に難がある。

 状況によっては尾根に3個小隊以上を展開することになるだろうけど、互いの距離が離れすぎている。戦の最中に伝令を送るのは、この地形ではかなり難しそうだ。

 増援要請とその対応が可能か否かの回答ぐらいは簡単な信号で知らせられると良いんだが……。


「やはりこの場所では矢を消費しますね。3会戦分ぐらいは直ぐに使い切ってしまうでしょう」

「矢の雨を降らせますからねぇ……。よく狙って放て! とも言えませんよ」


 矢が尽きれば、短鎗を使うことになる。

 槍の稽古をしているヴァイスさんを見たことも無いからなぁ。だけど片手剣よりは扱いやすいだろう。

 突いた後で、斜面を転がすのにちょっと苦労するぐらいの筈だ。


「やはりこっちにはあまり来なかったにゃ!」


 扉を開けるなりヴァイスさんの不平を聞くことになってしまった。一緒にやって来たエルドさんが苦笑いを浮かべている。


「やはり指揮所は目立つ、ということなんでしょうね。こっちには散開した連中しか来ませんでしたから、これを使うことはありませんでしたよ」


 ベルトのバッグから爆弾を取り出して返そうとしてくれたから、そのまま持っていて欲しいと頼んでおく。

 エルドさんは返そうと思ったらしいけど、ヴァイスさんはそっぽを向いているから、しっかりと自分の物だと思っているに違いない。


「爆裂矢の威力が今一にゃ。全て使い切ったにゃ」

「私も使ってみましたよ。谷に向かって撃ち込みました。敵の姿が見えませんでしたが、爆発すると、慌てて飛び出してきますね」


 脅かすには申し分ないと言うことだろうか?

 とは言っても、ヴァイスさんの今一発言は問題だな。もう少し火薬の量を増やした方が良いのかもしれない。


「次は火薬の量を増やしてみます。そうなると遠くに届きませんが……」

「柵の丸太を利用して、レオン殿が最初に作った弓を縛りつければ何とかなるんじゃないですか? かなり太い矢を遠くに放てましたからここで使うには最適かと」


 バリスタまでは必要ないってことかな? 将来はカタパルトを待機所や指揮所に備えるつもりだから、その補完ということなら問題は無いはずだ。

 案外、バリスタ用のボルトが使えそうだぞ。


「ところで、レオン殿は変わった魔法を使っていましたね?」


 エルドさんが、パイプを取り出しながら俺に問いかけてきた。

 見られたってことかな? まあ、いずれは知られることだから話しておこうか……。


「これの事ですか?」


 そういってテーブルに3枚の手裏剣を取り出した。四角い薄金の各辺を短剣のように削りだした品はガラハウさん特製の品だ。


「キラリと光っていたんですが、これだったんですね。消えたかと思うとまた頭の上の方で輝いていたの見て、皆で驚いていたんです」

「こういうことなんだ……」


 テーブルに置いた手裏剣が、スイッと俺の頭の上に移動する。たぶんゆっくりと3枚が自転しながら俺の頭の上で輪を描いているはずだ。


「魔法なんですか?」


 ちょっと驚いた口調で、レイニーさんが問い掛けてきた。


「前にも言いましたけど、俺は魔法が使えません。でも離れた物を動かすことが出来るんです。結構役立ってくれましたよ。槍で届かないゴブリンの喉を掻き斬ることが出来ましたからね」


 どれぐらいの重さまで動かせるんだとか、どれぐらい離れて攻撃できるのかといろんな質問が飛んでくる。

 レイニーさん達にしてみれば魔法の1つぐらいの感覚なんだろうな。俺が皆と同じような魔法を使えない代わりに神が与えてくれた魔法だと信じているようだ。

 確かに魔法のようなものだから、それで通しても良いのかもしれないな。


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