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第九十七話 ジグラミたちは とても強い

「ところで主よ。今サゴンクで問題が起きているぞ」


 見目麗しい二十代前半でサゴンクの女将軍、カウンが答えた。長く艶やかな髪をポニーテールに纏め、きりっとした顔立ちは美女というより美男子に見えた。すらりと背が高く、胸はスイカのように大きく、黒鋼の鎧の上でもくっきりと浮き出ている。そういう作りなのだ。


「なんだウカン。お前は俺がいないと何もできないのか?」


 主であるドゴランが訊ねると、カウンは首を横に振った。


「いいや、今さっき問題が起きたんだよ。サゴンクの国境付近でな。サゴンク王国の馬鹿王子、バオカジが兵士を集めて関所を閉鎖しているんだよ」


 カウンの言葉にワイトは首をひねった。バオカジとは誰だろう。


「バオカジはサゴンク王国の第10皇子で、美男子だけど頭が空っぽなんだ。あたしを口説こうとして振ってやったら、夜中にあたしを殺しに来やがった。それで数十人兵士を殺したら、今度はあたしを国事犯として賞金を懸けたんだ。どうしようかと途方に暮れていたところをドゴランが助けてくれたんだよ」


「お前の場合は助けなくてもよかったかもな。なぜならお前は今日泊まる宿はどこにしようか迷っている風だったしな」


 そう言ってドゴランとカウンは笑い合った。しかしワイトは思った以上にバオカジの執念の深さに驚いていた。


「バオカジはことあるごとにあたしを差し出せ、この国も自分に寄越せと訴えているのさ」


「ですが誰も耳を貸しません。寧ろ名将カウンに濡れ衣を着せて追放したバオカジ王子に非難が集まっています。さらにことあるごとにドゴランと比べられるので、バオカジ王子はこの国を滅ぼしたくてたまらないのですよ」


 宰相サーパンが答えた。サゴンク王国はドゴラン王国と交易をしたいのだ。何しろ宿敵であるスコイデ王国やモコロシ王国の三国を繋ぐ唯一の交易路である。

 この国の技術力はすさまじく、スコイデ王国で採れた魔石を奇麗に生成し、他国へ高く売れるのだ。

 それにドゴラン王国が緩和地帯になっており、無駄な戦争を避けられている。三国も国力を減らしたくないのだ。


「じゃあバオカジ王子の集めた兵士は傭兵なのでしょうか?」


「その通りだ。金で山賊や盗賊を雇い、犯罪者を釈放して兵力にしている。そのおかげでサゴンク王国では彼等の略奪がひどいとのことだ。サゴンクの大使もバオカジ王子を殺しても抗議はしないと、わざわざサゴンク王の約定を持ってきたくらいだからな」


 ワイトの質問にカウンが答えた。どうやらバオカジは国から見捨てられたようである。


「くくく……。バオカジ王子は美男子なんだ。いくら不細工な平民を殺しても、当然の権利なんだよ。だって美男子は神に愛された思考の存在なのだから」


 キョワナがぶつぶつとつぶやいた。それを聞いたワイトはキョワナを哀れんだ。彼はすでに狂人である。現実と虚構の区別がつかないのだ。もっともこれこそがマジッサ王国の宰相にして、魔女ドボチョンの記憶を継承するヒアルドンの計略なのかもしれない。


「もっとも、ジグラミたちがすでに行動を起こしているけどね。すでに解決しているかもしれないな」


 カウンはあっけらかんと答えた。


 ☆


「なぜだ!! なんで我々がこんな目に遭うんだ!!」


 美男子だがどこか冷酷な印象を受ける二十代後半の男だ。ごてごての宝石であしらった鎧を着て、装飾を身に着けた白馬に乗っている。

 サゴンク王国の第10王子バオカジだ。周囲から馬鹿王子と揶揄されている。


 彼は国王の許可なくドゴラン王国へ戦争を仕掛けに行った。宣戦布告もなく、無辜の旅人や商人を殺しては金品と食料を強奪していった。

 とてもではないが王族としてあるまじき行為だ。彼が帰国すればただちに死刑にされるだろう。


 だがバオカジは馬鹿だ。自分は何をしても許される、自分の思い通りにならないことなど許されないと本気で信じているのだ。

 父親である国王が口を酸っぱくして説いても、ドゴラン王国への敵意を隠すことはなかった。それどころかドゴランと仲良くする貴族に暴行を加える始末であった。その度に国王から懲罰を受けたが、彼は反省するどころか、ドゴランに逆恨みをする一方である。


「ちくしょう!! なんで私がこんな目に!!」


 バオカジは慌てていた。自分が集めた兵士たちがたった数人の男女に翻弄されているのだ。

 その数は一万。山賊と盗賊たちを金で雇い、犯罪者たちを釈放して兵力にしたのだ。

 彼等には自由に略奪を許可した。ドゴラン王国ではすべての女と金は彼等にやると約束したのだ。

 自分はカウンを捕らえ、牢に繋いで痛めつけて楽しむ予定だった。


 だが目の前の光景は信じられないものだった。


 緑の蔦を生い茂った巨漢は両手を大地に置くと、木々が動き出して兵士たちを拘束していく。

 水死体のような不気味な女は長い黒髪から水を垂らして操り、兵士たちの立っている地面を底なし沼のように変えていった。

 雷のように逆立った髪で、ネズミのような少年は、雷を宿す矢を放つ。大地に突き刺さると電流が走り、兵士たちを感電死させていった。

 運良く生き延びた兵士たちを、赤銅色の丸い大男が手をこすり、炎を生み出す。それらの炎で敵を焼き尽くしているのだ。


「なんなんだあの化け物たちは!! あんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!!」


「ほっほっほ、それはあなたが聞いていないだけでしょうに」


 バオカジの後ろから声がした。それは子ザルの様な老人であった。黒い襦袢を身に着けている。


「我が名は箆血翁へらちおう。ドゴラン様の家来でございます」


「ドゴランの家来だと!! お前らこいつを殺せ!! ドゴランに関わる人間は殺して、その首をあの屑にさらしてやるんだ!!」


 バオカジが醜く嗤うと、箆血翁の額に血管が浮き出た。彼は怒っているのだ。


「お前さんの部下は、始末したぞい」


 バオカジの後ろから声がした。そこには巨大な斧を持った髭もじゃの大男が立っていた。いや、全身毛玉と言うのが正しい。丸いつぶらな瞳に鷲のようにとがった鼻。ナマズのように分厚い唇で

丸く太い腕と足を晒していた。

 彼の名前は泥鎌嵐でいかまらんである。


「弱すぎる。ドゴランを相手にした方が楽しい」「お前失礼。こいつらとドゴラン、一緒にすんな」


 こちらはやたらと細長い男女であった。身体が剣のように長くて細い。両手にはかぎ爪を付けており、両脚にはかぎ爪のような物を履いていた。体つきはまるで三日月のようである。

 二人の全身は血でべっとりであった。彼等は全身が凶器なのだ。

 双子の殺し屋、兄の六と、妹の九の兄妹である。

 

 彼等はすでにバオカジの兵士を皆殺しにしていた。泥鎌嵐の斧で兵士たちの大半は胴から真っ二つにされ、生き延びたものを六九兄妹が片づけたのである。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!! なんなんだお前らは!! お前らみたいな化け物が、美しくて偉大な我の邪魔をするというのか!!」


「うーひょいひょい!!」


 バオカジが吠えていると、箆血翁は両手に持っていた箸をバオカジのこめかみに突き刺した。

 目をひん剥き、口を大きく開けて、バオカジは絶望の表情を浮かべながら死んだ。


「……我が主を侮辱する者は死ななくてはなりません。それが我らの忠誠の証ですからね」


「うんだ。おらたち、どこかの誰かに利用されたもんな」


「カウゲスが使う憑依傀儡だったね」「まさか、私たちの生霊を使うとは、驚きです」


 4人は以前に意識を失ったことがあった。キリョイ・カウゲスによって生霊にされたのだ。

 この件は彼らの矜持を打ち砕いた。ドゴランに手をかけようとした自分たちに怒りを覚えたのだ。

 もちろんドゴランは赦している。自分を殺しにかかっても自分で守ればいいと思っているのだ。


「おーい、お前ら!! 終わったようだな―!!」


 遠くから声がした。手を振っているのは緑の巨人、ジグラミである。

 他にシフオキとチクビリ、ドヤテキも一緒であった。


「うむ、終わりましたよ。あなたたちは後片付けは終わりましたね?」


「もちろんだ。死体はすべて森の中に帰したよ。あとはシフオキが死体を土の中に沈めたね。後はドヤテキが燃やし尽くしたよ」


 ジグラミの報告に箆血翁は満足そうであった。


 ☆


「……というわけで、バオカジは始末しました」


 箆血翁たちはドゴランの前にひざまずく。ドゴランは無表情だ。彼等に感謝などしていない。なぜなら彼等を信頼しているからだ。一万人の犯罪者上がりの兵士など彼等の敵ではないからだ。

 そして箆血翁たちも自分たちの行為は、単なる害虫退治を進んでやっている感覚だ。感謝の言葉も褒美もいらない。ただ主人の役に立てたことに喜びを得ることが嬉しいのである。


 それを聞いたキョワナは目を血走らせ、怒りに震えていた。


「ふざけやがって、ふざけやがって……。そよ風のような美男子のバオカジ王子を、泥水の如き不細工な連中が殺すなんて許されることじゃない……。ジュヴナイルの世界を何だと思っているんだ……。こんな異形の集団がのうのうと生きているなんて胸糞が悪すぎる。ああ、神様。早くこいつらに天罰をお与えください、地獄の苦しみをたっぷり味合わせて、生まれてきたことを後悔するほどの裁きを下してください。そうでないと僕は発狂してしまいそうだ……」


 キョワナは涎を垂らしながらつぶやいていた。

 ワイトはそれを見て、憐憫の情が湧いた。もう彼はドボチョン・ロックブマータというジュブナイルの住人なのだ。彼にとって美男美女は犯罪を行っても無罪だけど、不細工な人間はすべて死刑になればいいと思っている。


「……キョワナさんがマジッサ王国に入国したらどうなるのでしょうか?」


 ワイトは不安で胸が詰まりそうになった。

 ジュヴナイルは少年物の小説のことを言います。

 古くは江戸川乱歩の少年探偵団や、海外のsf小説などがありますね。

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― 新着の感想 ―
[一言] まさに見事な勝ちっぷりでしたね。
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