第九十六話 コブラツイスターズのモデルと出会った
「おお、ドゴラン。ひさしぶりだな!!」
ドゴランの城には女性ばかりではなく、様々な人間がいた。異形な体つきの男女が二十五人もいた。
声をかけたのは身体中コケに覆われた大男だ。目は赤く、鼻は平たい。大きな口に、ずんぐりむっくりした体格である。
「ああ、ジグラミ。久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
ドゴランは気さくに挨拶する。ワイトはジグラミの名前を聞いてふと思い出したことがあった。
「この方がドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズに出てくるミドノリのモデルですか?」
「そうだが?」
ワイトは異形の集団を見回し、色々と尋ねてみる。
水死体のようにふやけた黒髪の女はシフオキでデキシーニのモデルだ。
雷のように逆立った少年はチクビリと言い、チャハのモデルらしい。野性味が溢れており、美少女には見えない。
赤銅色の大男はドヤテキで、レッモーのモデルだ。
他にも箆血翁や泥鎌嵐、六九兄妹もいたが、どれも美形とは程遠い顔だった。だが身にまとった覇気は違う。どれも歴戦の強者であった。
「箆血翁達に尋ねたが、ある日突然意識を失ったそうだ。恐らくキリョイが生霊として魂の一部を持っていったのだろう。俺の不徳でお前らに迷惑をかけたな」
ドゴランがそういうと、ジグラミが笑った。
「お前さんが謝る必要はないよ。むしろ俺たちの方がお前の足を引っ張ったんだ、これでおあいこだな」
ドゴランたちは一斉に笑った。彼等は生まれた場所や時は違うが、ドゴランと言う最高の指導者に出会えた幸福を噛みしめているのだ。
「だけどこの人たちがドボロクのモデルとは思えませんね。あの本に登場するコブラツイスターズたちは全員美男美女でしたし」
ワイトが疑問を口にすると、ドゴランの姉エスロギが答えた。
「ある程度は事実デス。5歳のドゴランは傲慢デシタ。自分の持て余す力を振るい、ジグラミたちのようなはぐれ者を力づくで屈服させマシタ。ドゴランは力を管理し、自分以外の者が力を使うことを忌み嫌ったのデス」
「キョワナさんに似ていますね」
ワイトはキョワナを見た。彼は旅の途中でずっと無言を貫いている。ドボロクのモデルであるジグラミ達を見ても、汚いものを見るように忌々しそうにしていた。
彼にとって美男美女が正義であり、醜いものは悪なのだ。
「モットモ、意味合いは違いマスネ。ドゴランは自分ひとりで国を作ることに固執シマシタ。そうすることでジグラミたちのような異形が目立たなくなるからです。彼等は生まれつき怪物デシタ。そのために家族に捨てられ、社会から見捨てられマシタ。ドゴランは彼等より自分の方が怪物であることを強調させ、彼等を守っているノデス」
エスロギの説明に、ドゴランは赤くなった。図星だからだろう。自分は世界最強である。ならばすべての民は自分が守るという矜持があるのだ。
ワイトは傲慢なドゴランを少しだけ見直した。
「それにしてもコブラツイスターズはどういう意味で名付けたのでござろうか?」
パルホが疑問を口にした。
「それは簡単だよ。俺たちはこの地に伝わるカウゲス族の儀式、龍結びを成功させたんだよ」
ジグラミが説明した。そこに宰相のサーパンが口を挟む。
「この国の住民は全員龍結びの儀式を成功させています。私もそうでした。毒蛇の胴を素手で結びつける成人の儀式を、ドゴラン忠誠の儀式にしたのです。忠誠心の高い者は難なく乗り越えましたが、ドゴランを嫌う者、間者などはすべて失敗して死んでしまいましたが」
それを聞いてワイトはなるほどと思った。コブラツイスターズとは毒蛇をひねる勇気のある者を、外国の言葉で表現したものだ。
それをドボチョン・ロックブマータでは悪意のある表現として書かれている。
サーパンはワイトを見て、何かを察したようであった。
「ドボロクは最悪な話です。ドゴランの行為を悪意に満ちた書き方をしていますね。ドゴランは自然を守りますが、スコイデの馬鹿商人が原住民を追い出して、勝手に森を開拓したのを止めた話です。ダムの崩壊はサゴンクの王族が水を独占して国民を苦しめていたから解放したにすぎません。あのせいで数百万人が飢えで死にかけていたのです」
サーパンは忌々しそうに答えた。よほどスコイデとサゴンクの所業が許せないのだろう。ドゴランは困った人々を助けて回っていただけなのだ。
だが人は善行より悪行を好み。ドゴランが善人として扱うより、悪魔の化身にした方が面白いと思っているのだ。それはスコイデやサゴンクだけでなく、他の国でも同じだ。
ドボロクが児童書として不適切ではあるが、ドゴランの行為を歪んだ形で使えたかったのかもしれない。
「……私がドボロクを嫌う理由がわかりました。ドゴランに対する個人的な悪意が露骨すぎたのです」
「まったくでござるな。あの本には客観性が欠けていたでござるよ。恐らくは有能なドゴラン殿を陥れるためでござろうな」
キャコタ王陸学園に入学したキウノン・バデカスやソヘタク・ズゥコもドボロクにはまっていた。これはマジッサ王国のヒアルドンの血族だけでなく、ドゴランの手先になりドゴランを名を汚したい気持ちが働いていたのかもしれない。人間の悪意は悍ましいと思った。
「ふん……。こんな醜い連中を部下にするなんて、ドゴランは頭がおかしいよね。死ねばいいのに……」
キョワナの顔は邪悪に歪んでいる。彼はすっかりドボロクの持つ魔力に染まってしまったのだ。
今の彼はワイトよりも、ドゴランに対して憎しみを抱いている。自分の思い通りにならないことが許せないのだ。
「……器としては十分でござるな。いつヒアルドンがマジッサ国王を殺すかわからないでござる。早めの講堂が必要でござるな」
パルホはそうつぶやくのであった。




