第九十四話 ヤソクウ王国 到着
「ここがヤソクウ王国ですか。地上の楽園ですね」
ワイトは周囲を見回し、感心していた。双子の妹パルホも同様である。
「確かにそうでござるな。こんな美しい国は初めて見るでござるよ」
そう、二人はヤソクウ王国に到着していた。ヤソクウは岩山に囲まれた天然の要塞であった。
だが中央には豊富な雪解け水で出来た湖に、白い石造りの家が立ち並んでいる。
さらに薬草畑が広がっており、遠くにはちらちらと薬草を採取する平民の姿が見えた。
ヤソクウ王国は貧しい国ではあるが、王は国民を愛し、国民は王族を愛する国であった。
国民の数は1万人程度だが、戦いが起きれば平民も槍や弓を取り、戦いに備える。国民すべてが兵士なのだ。居住区の周りには魔獣用のバリスタがあちらこちらに見える。まるで蜃気楼のようにぼやけて見えた。
サマドゾ王国の空飛ぶ城が到着すると、ヤソクウ王国の兵士が迎えに来る。
数十人の兵士たちは木で出来た鎧と兜を身に着けていた。黒鋼じゃないから弱いと思われがちだが、木製もなかなか頑丈なのである。
それにヤソクウ王国は森の中に罠を貼って、相手を翻弄する戦い方を好む。盗賊が百人程度で襲ってきても、平民たちによって皆殺しにすることも可能だ。
「ようこそワイト・サマドゾ様にパルホ・サマドゾ様! 私はヤソクウ王国の将軍でございます!! 今夜はヤソクウ城に泊まっていただきます!!」
一番上質な鎧を着た壮年の男性が答えた。彼はこの国の将軍のようだ。事前に来ることは伝えているので、迎えが来たのだ。
「ふむ。聞きしに勝る国だな……。上質の薬草があちらこちらに実っている。やはりこの国と同盟を組んで当然だったな」
ドゴランが道中、歩きながらつぶやいた。ドゴランはワイトを手に入れるために、ヤソクウ王国の王女ガベリンの婚約を破棄させたわけではない。ヤソクウ王国にしか手に入らない貴重な薬草を輸入することも視野に入れていたのだ。
さらにヤソクウを拠点にドゴラン王国からの商人も来ている。船で大量に運搬するのもいいが、ドゴラン王国で採れた新鮮な野菜や果物もゴスミテ王国やキャコタ王国に持ち込めば高く売れる。船だと足が速いのでドライフルーツにするか、ジャムにするしかないのだ。
「そうデスネ。あなたがヤソクウの薬草を輸入したおかげで、モコロシ王国でも新鮮な薬草が手に入るようになり、大好評デス」
姉のエスロギが嬉しそうに答えた。彼女は冒険者であり、モコロシ王国の大使でもあるのだ。モコロシ王国の利益になることを優先するのは当然である。
「だけどなぁ、モコロシじゃあそれが気に喰わないって話を聞いているぞ」
「モコロシだけじゃなく、サゴンクやスコイデも同じだけどな」
「つーか、ドゴランのやることなす事すべてむかつく奴がいるんだよ。そいつは大抵無能な馬鹿だけど、馬鹿は損得勘定を無視するから嫌いだ」
エスロギの従者である三頭のパンダ、ウシワカ、キントキ、ベンケイはぼやいていた。三頭ともドゴランを認めているし、彼を好んでいる。しかし世間ではドゴランを蛇蝎の如く嫌っている人種も多い。果てはドゴランの知り合いと言うだけで敵視する人間もいるのだ。
だからこそ権力者と繋がりを持ち、利益を得ることの重要さを説いていた。
☆
「よくぞ来たな。ワイト・サマドゾ殿にパルホ・サマドゾ殿。儂がマトヤ・ヤソクウ三世である」
ワイトたちは二階建ての城に連れてこられた。中は緑の鉢や壁掛けが並んでおり、森の中にいる気分になる。
玉座には枯れ木のように痩せこけた中年男性が座っていた。黒髪で髭も伸びている。
赤い王冠に赤いマントを身に着けていた。枯れ木と呼んだが目つきは鷹のように鋭い。歳の数だけ荒波を乗り越えた証を築いているように思えた。
ワイトたちはひざまずく。
「うむ。サリョド殿にエスロギ殿たちも一緒か。今回はかなり危険なクエストであろうな」
「はい」
「我が娘、ガベリンも頭が痛かったが、今回はその比ではないな。なぜこんなことが起きるかさっぱりわからんわい」
マトヤが頭をかく。彼はあらかじめ今回の事は報告を受けている。普通の人間ならあまりの規模に頭を爆発させるだろうが、そこは王様だ。国を守るためなら頭を回転させるのが高貴な義務と思っている。
「まあ、起きたもんはしょうがないわい。儂にできることはドゴラン殿が作ってくれた転移門をお主らに利用してもらうだけじゃ」
ヤソクウ王国としては国が巻き込まれるのは避けたい。今回の件はキャコタやサマドゾ、マジッサやカモネチ王国が絡んでいる。
しかしワイトたちは冒険者だ。キョワナ王子は王位継承をはく奪されている。もちろん王族であることは変わりないが、あくまで冒険者として活動することとなった。
「ここで家臣の方が反対すると思いましたが、まったく来ませんね」
ワイトが不思議そうにつぶやいた。
「キャコタ王国からはマジッサ王国の人間が一番危険だと報告を受けたのでな。マジッサの血を引く者は休養と称して監視しておるよ。案の定、キャコタやドゴランを受け入れるなと吠えておったそうだ」
マトヤが答えた。家臣たちはドゴランの行為に怒っていない。むしろ転移門という規格外の贈り物に喜んでいる。
国民も以前なら真冬だと大勢死ぬことがあったが、今は皆無だ。ドゴラン王国からの暖かい布団が平民でも安く買える。さらに燃える石やストーブも輸入され、冬の寒さを乗り切ることが出来た。
「国にとって国民は力だよ。銅貨一枚でも一万人から集めれば金貨と同じ価値になる。国民が増えるなら王である儂はなんだって受け入れるさ。ナーロッパ諸国の連中は変化を忌み嫌う者が多いがね」
マトヤは皮肉を言った。彼はナーロッパ諸国に若い頃冒険者として活動したことがあるのだ。恐らく当時の閉鎖的なナーロッパに対して嫌悪しているのだろう。
ワイトたちは何事もなく、城に泊まって一夜を過ごした。




