第九十三話 空飛ぶ城 再び
「それでは空飛ぶ城でまいりましょう」
ワイトが言った。パルホたちは驚いている。
「空飛ぶ城でござるか? あれは勝手に動かすことはできぬでござるよ」
パルホが意見を述べた。空飛ぶ城とはサマドゾ王国が所有する、文字通り空を飛ぶ丸い城だ。
サマドゾ王国に住む大魔獣トリガーの胆石に、魔力を込めることで城を浮遊させることができる。
だが他国から見れば空飛ぶ城は脅威だ。国境を無視して飛び越えることが出来るし、人や物資を大量に運搬することが出来る。しかも短時間でだ。
「確かにそうですね。幸いヤソクウ王国はサマドゾ王国と同盟を結んでいますし、隣国のゴスミテ王国も同じです。ですが今回は緊急事態です、王国まで船を使い、馬車を使っていくよりも、空飛ぶ城で手っ取り早く行けばいい。世界の危機なのです。余計な手続きはこの際無視しましょう」
なんとも大胆な発言であった。ワイトは儚げな美少女に見えるが、中身は胆力があった。
「だがいいのか? 空飛ぶ城にはキョワナも同行するのだぞ? 奴の眼からヒアルドンに情報が洩れるのではないか?」
懸念を示したのはドゴランだ。だがワイトはにやりと笑う。
「その心配はありません。イターリ様から聞きましたが、ヒアルドンはあくまでマジッサ王国王家のキガチィを監視するだけで、特別な兵力を蓄えてはいないそうです」
「それは楽観的ですね。もしかしたらヒアルドンは何か用意しているかもしれませんよ?」
ナイメヌが窘めた。だがワイトは首を横に振るう。
「確かにそれは言えますね。ですが敵が攻めてくるなら私が全部対処します。だって私は最後の魔女バガニルの息子。お母様ならなんでもできるはずですから」
そう言ってワイトは平たい胸を右手で叩いた。根拠のない自信は母親ならなんでもできると思い込んでいるだけであった。
だが不思議に安心が出来る。ワイトならなんとかするかもしれない。根拠はないが、その場にいる全員が不思議とそんな気持ちになれた。
「そうだったな!! バガニル様は置いといてワイトならなんでもできるんだ!! それに何かミスをしても俺たちがフォローすればいいんだから、何の問題もないぜ!!」
声を荒げたのはナイメヌの弟ケダンだ。ケダンはワイトが大好きだ。中身が男でも関係ない。
「うふふ。ワイトったらバガニル義姉さんに似てきているわね。もちろんいい意味でよ」
「そうデスネ。ワイトがポカしてもワタクシたちがしりぬぐいすればよいのデス」
サリョドとエスロギが笑顔で話していた。
「今回は時間がカギです。ヒアルドンが準備をする時間を与えません。むしろ相手を焦らせる必要があります。それができるのは私たちだけです。後は他の皆さんに任せましょう」
ワイトは真剣な目で言った。ワイトは考えなしに発言しているわけではない。バガニルになり切り、バガニルならこうすると考えているのだ。
☆
ワイトたちはキャコタ王国にある港に来ていた。全員冒険者の衣装に着替えている。
ワイトは赤い因幡尼の衣装を、パルホは黒い因幡尼の衣装を着ていた。
ドゴランは紫色の袖の長い衣装を着ている。手には青龍刀を握られていた。
サリョドは黒いジャケットに黒革の短パンを履いている。
アルジサマは銀色の狼の魔獣に戻っている。
ケダンとナイメヌは革の胸当てだけを身に着けていた。
エスロギは紫色の裾の開いたドレスを着ている。
ウシワカ、キントキ、ベンケイは鉄兜に鉄の胸当てを付けていた。
最後にキョワナだ。彼は白と黒の縞々の服を着せられている。さらに両手には鉄の腕輪をはめられていた。これは魔道具でキョワナが悪意を抱けばすぐに腕輪が一瞬でくっつき、拘束される代物だ。
空飛ぶ城は銀色の球体で、普通の一軒家より大きい。城の前ではワイトの生徒達が見送りに来ていた。
そしてキャコタ王立学園の学園長と教師たちも集まっている。他にも冒険者たちが集まっていた。
「それでは皆様。私たちはマジッサ王国へまいります!! ヘダオス様もよろしくお願いしますね!!」
ワイトはアフロヘアのマッチョなオカマに話しかけた。彼の名前はヘダオス・キャコタ。元キャコタ海軍の司令官でもあり、王族でもあった。今は花びら級の冒険者として活躍している。
今回カモネチ王国へ向かうチームのリーダーに任命されたのだ。
「ええ、こちらはあたしたちにまかせてちょうだい。アタシたちの乗る船は特別な鋼鉄船だから、普通の倍より早いわよ」
ヘダオスの右には禿げ頭のマッチョと、左には色白の肥満体の男が立っていた。二人とも黒いパンツ一丁でサンダルを履いている。
一見してヘダオスの愛人に見えるが、二人は元海軍の兵士であった。禿げ頭はトハブゲといい、おならで空を飛べる。実際は風の魔法を全身に身に着けて飛ぶだけだ。
デブの方はウデッブといい、脂肪の弾丸を発射する能力を持っている。さらに脂肪を使って盾にすることが出来た。二人はヘダオスを守る盾であった。
「ゲーハー!! ヘダオス司令官がいれば鬼に金棒であります!!」
「デブッフフフ。自分たちが司令官を守るでありまふ。ぶっふっふ」
二人とも敬礼している。彼等は海軍をやめてもヘダオスを司令官と呼んでいた。ヘダオスはやめろと言ってもやめる気配がない。もっとも彼等はヘダオスをネタにすることはないし、他の冒険者たちがヘダオスを呼び捨てにしても無視している。あくまで自分たちが勝手にヘダオスを慕っているだけと割り切っているのだ。
「それではワイト先生にパルホ先生、いってらっしゃい!!」
「帰ってきたら教師として働いてもらうぞ。まだまだお前たちは未熟なのだからな」
生徒達と学園長に見送られ、ワイトたちは旅立つことになった。




