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第九十話 キョワナは すっかり 狂っていた

「というわけでキョワナさんは私たちと同行してもらいます」


 暗く狭い独房の一室でワイトが言った。ここは犯罪者を収容するための牢獄である。ダイザフ侯爵家が所有しており、キャコタ王国の司法機関に引き渡すまで、犯罪者を閉じ込めておくのだ。

 今この部屋には一人の少年が座っている。カモネチ王国の第一王子キョワナ・カモネチだ。彼は王子としてではなく犯罪者としてここにいる。

 カモネチ王国の大使は抗議をしたが、学園長であるスワガラ・ダイザフ侯爵は一蹴した。

 もっとも大使側もあくまでパフォーマンスとして動いただけであり、キョワナの処遇はキャコタに任せるつもりでいた。


「……なんでぼろきれの様になった僕がそんなことを?」


 キョワナはじろりとワイトをにらみつける。彼は髪の毛と肌が黒く、身体が小さい。それ故に黒いハムスターのような愛らしさがあったが、今は誰でも噛みつくドブネズミのように悪臭を放っていた。


「あなたを放置するのが危険なのですよ。多分敵はあなたを徹底的に利用するでしょう。王立学園、いいえキャコタ王国自体荒らされる可能性が高いです。なので私たちと一緒にマジッサ王国へ向かいましょう」


「……マジッサ王国へ行って何をするのですか? まさか、王国を砂場で作った砂の城のように滅ぼすつもりではないでしょうね?」


「そんなことはしませんよ。マジッサ王国に蔓延する濃厚な邪気を払うだけです」


 ワイトが説明してもキョワナはワイトをにらみつけたままだ。今の彼は狂人である。ドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズに出てくる登場人物だと思い込んでいるのだ。


「あなたは暖かくてふんわりと優しいドボチョン・ロックブマータとその仲間コブラツイスターズを殺したのですよ。世界の事を誰よりも心配して、生きとし生ける人の未来を真剣に考えていた、どこにでもいる普通の人たちの命を源を絶ったのです。僕はあなたの手伝いは一切しません。もうこの世界は終末を迎えようとしています。天使たちを狩り、悪魔たちの手引きをしたあなたたちに神の裁きが下ることを、心の底から祈っていますよ」


 キョワナはわけのわからないことを口走っている。言っていることがやたらと回りくどく、ポエムじみていた。

 ここでいうドボチョン・ロックブマータは犯罪者のドイラプだ。彼の行為こそすべて正しいと信じ切っているのだ。

 以前はワイトの事をロックブマータだと思い込んでいたが、今はワイトを仇と決めつけていた。偉大で素晴らしい英雄を殺した大罪人だと信じ込んでいる。


「残念でござるが、お主の意見は通らぬでござるよ。この件はカモネチ王国の大使殿が、本国を通じて許可を得ているでござる。キョワナ殿は拙者たちの監視付きで、マジッサへ同行してもらうでござるよ」


 ワイトの隣にはパルホがいた。彼女は冷たい目でキョワナを見下ろしている。


「何を勝手なことを。僕は世界中の平和を愛する人々に喧嘩を売ったあなたたちと同行したくありません。なぜあなたたちはロックブマータの優しさを理解できなかったのですか? 自然を愛し、自然を破壊する破落戸ごろつきどもを踏みつぶした勇気ある者たちを、なぜ理解しなかったのですか? 彼等のやっていることはとても単純なことで、三歳の子供でも理解できることです。何の見返りもなく感謝の言葉だけを報酬とした天使たちを殺すなど―――」


「あー、うるさいでござる。お主の意見など聞かないと言ったでござろう。ワイト、さっさと行くでござるよ」


 パルホは両耳を塞ぎ、キョワナに背を向けた。そしてワイトはパルホの後ろをついていく。

 そして地下から上がると、太陽の光が差し込んだ。


「パルホ、キョワナさんを説得しないと厳しいと思うよ。今のあの人はどこかおかしいし、いざとなると何をしでかすかわかりません」


「いいでござるよ。どうせ拙者たち以外の誰かがなんとかしてくれるでござる」


 ワイトは心配そうに尋ねたが、パルホはバッサリと切り捨てた。


「それにキョワナが何をしでかしても、お主がなんとかするでござろう。なぜなら母上ならこういう時どうするでござるかな?」


パルホに言われてワイトははっとなった。確かに母上ならどんな状況でも何とかするに違いないのだ。ワイトは自分の心の狭さに恥じていた。


「そうだねパルホ。私が間違っていたよ。お母様ならキョワナさんをうまく抑え込むに違いないね。うん、自信が出てきたよ!!」


 ワイトは右腕を天高く上げると、そのまま走って行った。その後姿をパルホは見守っていた。


「やれやれ……。世話が焼ける。まあ、ワイトならなんとかできるからね。私と違って」


 パルホの口調がいつもと変わっていた。普段のわざとらしい志熊荷しぐまに王国の侍言葉ではなかった。


「お母様はおっしゃった……。ワイトは思い込みが激しいと。だからどんな魔法も生み出せる、だってお母様ならなんでもできるからと」


 実はパルホは演じていたのだ。母親に憧れ、母親に近くなったワイトを守るためである。

 パルホは別に男勝りではないが、あえて男らしく振る舞っていたのだ。師匠である炉守都京ろしゅ つきょうを真似たのである。


「絶対にワイトを守ってみせるわ。そう、お父様ならそうしていたはず」


 パルホは胸に誓うのだった。実際のパルホはファザコンであった。父親のマヨゾリを深く敬愛しており、父親のような武力を目指していたのだ。そして彼女自身、父親に近づきたいと魔法で筋力を高めていたのである。


 ワイトとパルホはやはり双子であった。鏡のように性格が似ている。

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― 新着の感想 ―
[一言] バルホは立派でしたね。
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