第八十八話 ワイトはやる気を起こした
「そもそも、今回の勝利条件は何か? それを確認しないといけないね」
イターリが言った。勝利条件とは何だろうか?
「単純にヒアルドンを殺せばいいというわけではないのだろう」
口を開いたのは赤いモヒカン頭の日焼けしたいかつい身体つきの男であった。
冒険者レッドモヒカンチームのリーダーであり、カハワギ王国王立アカデミーの教授を務めているフチルンである。
「その通りです!! ヒアルドンはあくまでプロデューサーに過ぎません!! 現在はマジッサ王国の国王は大量の邪気を宿しています!! これは百年ごとに現れる魔王よりも厄介です。恐らく国王が魔王化すればマジッサだけでなく、世界中の人々が魔石化現象を起こすでしょう!!」
魔石化とは、人間の体内にある邪気が反応して結晶化することだ。普通に生活するならまず起きないが、邪気が濃い場所ではたまに起きるという。
魔王が誕生した国では、結晶化した魔石が、体内を食い破られた死体が転がっているそうだ。
「むぅ……。邪気は人間だけでなく、草や木、石にも宿っている……。世界を包む邪気がどんなものか、予想がつかないな……」
フチルンは俯いてしまった。全裸で股間に角ケースを付けた変態に見えるが、キャコタ王国の次に叡智を誇るアカデミーの教授なのだ。邪気の恐ろしさを十二分に理解している。
「いや、儂らのやることはひとつだ。そのマジッサ国王の邪気を浄化すればよいのだ」
山のような大男が答えた。王名鵬柳といい、志熊荷王国の第五王子でもある。冒険者であり、力士でもあるのだ。
「そうです!! 僕らのやることはマジッサ王の邪気を浄化することなのです!! それができるのは世界でふたりだけ!! それがワイトとパルホなのです!!」
イターリが叫んだ。なんでワイトとパルホが邪気を浄化できるのか、その理屈がさっぱりわからない。イターリは考えて発言しているのだろうか。
「いっ、イターリ様! 私とパルホにそんなことはできません!! そもそもお母様さえやったことがないのに!!」
「できるでござるな」
ワイトが慌てて否定しようとしたが、双子の妹はあっさりと肯定した。その表情は済み切っている。なんだか少し腹立たしくなった。
「パルホ、あなたは何を言っているの!! 私たちにそんなことが出来るわけないじゃない!! それができていたらゴマウン帝国は滅ばなかったわ!! お母様は事後処理しかできなかったのよ!!」
ワイトの口調が女性ぽくなってきた。母親のバガニルはワイトにとって憧れであり目標でもあった。そんな彼女でも弟ラボンクの魔王化を止めることが出来ず、事後処理するしかできなかったことをワイトは傍で見ていた。
「そうでござるか? 確かに母上は魔女でござるが万能ではござらぬ。しかし大事なのはお主が母上を越えられるということでござるよ」
パルホは真っすぐにワイトを見据えた。彼女は生まれた時から一緒だった。もちろんトイレは別だが。
「私が、お母様を、超える……?」
「そうでござる!! ワイト、今のお主は母上の代用品でござる!! 母上と同じことが出来て当たり前、母上が出来たことが何でできないのだと責められる立場でござる!! 然り、今回の事件を解決すればお主は母上を超え、何より母上も息子が世界最高の魔女を育てたことになるのでござる!!」
パルホの熱の籠った説得に、ワイトの眼は虚ろになった。それを聞いたフチルン達は首を傾げた。
そもそも彼等はワイトとパルホを、バガニルの代用品など考えていない。そもそも親と子共は別人だ。そりゃあ親の影響を受けてはいるだろうが、世界に同じ人間などいない。双子ですら成長すればまったくの別人と化す。
ちなみにシフンド三兄弟は三人とも見た目は同じだが、あえてそうなるようにしている。同じ顔を三つ揃えることで迫力が生まれるからだ。
「お母様が世界最強……。私が最恐になることで……」
「そうでござる!! お主ならできる!! というかモデルはすでにいるでござるよ。2年前に生まれたラバァを参考にすればよいのでござる!!」
ラバァとは2年前にゴマウン帝国で生まれた存在だ。
ゴマウン帝国皇帝ラボンク。その皇妃バヤカロ。そしてバヤカロの父親、アヅホラ・ヨバクリ侯爵の三人の首であった。魔王化したラボンクは死ぬことなく、妻と義父を取り込んだ。三人はお互いを罵りあいながらぐるぐる回っている。
三つの首は世界中の空を飛び回り、大気中の邪気を吸い取っていくのだ。さすがにマジッサ王国の邪気を吸い取ることはできないようだが。
「そっか!! ヒアルドンが動いたのはラバァのせいなんだ!! ラバァを放置すればマジッサ王国の邪気を吸い取られるから、行動を起こしたと思うわ!!」
「うむ。2年前から行動を起こしたのもラバァが誕生したためでござろう!! 自然の邪気は浄化で来ても、作為的な邪気は無理なのでござろう!!」
ワイトとパルホの話は、ヒアルドンの計画の核心をついていた。
「皆さん! 私はやります!! なので皆さんの力を私に貸してください!!」
ワイトの問いに、講堂の全員は賛成した。
「さすがは俺の正室、見事な啖呵だ」
その様子をドゴランは感心していた。
「そうなると二人には休職手続きをしないといけませんね」
「そうなるな。しかしあの二人がいると胃が痛くなってくるわ。がっはっは!!」
デッパード教頭の問いに、学園長は腹をさすりながら笑っている。




