表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/113

第八十四話 イターリは 火あぶりになったが、すぐ復活した

「さぁこれから悪魔の使いであるイターリ達を処刑する!!」


 ここはマジッサ王国にある城の広場。周囲には大勢の人間が詰めかけていた。全員狂気の色を含んでいる。

 広場の中心にははりつけにされた人間が二人いた。金髪碧眼の美少女に見える元美少年、イターリと、二十代後半の出来る女に見える副官のオッボネである。

 二人の周りには薪がくべられている。いつでも火あぶりにできる体勢になっていた。


 先ほど声を高らかに上げたのはマジッサ王国の宰相ヒアルドンだ。さらに城のバルコニーでは国王キガチィ40世とその家族が見下ろしている。国王は骸骨のように痩せこけており、目はギラギラと光らせていた。王妃や王子王女はまるで幽霊のように青白い表情で立っている。


 ヒアルドンは禿げ頭で丸眼鏡をかけたちょび髭の中年親父である。一見冴えないが中身は国の運営を一人で行うほどの腕を持っていた。


「余所者は殺せ!!」「俺たちを騙していたんだ!!」「悪魔の手先など焼き殺せ!!」


 民衆たちは騒ぎ立てている。まるで酒に酔ったように口汚く叫び、石などをイターリ達に投げつけていた。

 中には毎日教会で顔を合わせた者たちもいた。そんな彼等は鬼のように豹変し、イターリ達を罵っている。楽しくてたまらないようだ。


 イターリの身体はすでにボロボロだ。ここ数日地下牢に入れられ、殴る蹴るの暴行を受けた。さらに眠ろうとすれば冷水を浴びせて無理やり起こし、三日以上も寝ていない。それはオッボネも同じであった。

 さらに排泄するところも兵士たちに見られ、微笑を浴びせられた。二人の人間としての尊厳はありを踏みつぶすように、ボロボロにされたのである。


「……もう、ころひて……。もう、やだ……」


 イターリの顔は踏みつけにされており、顔は醜く腫れていた。髪の毛は無理やり抜かれて、ハゲが出来上がっている。それはオッボネも同じだ。彼女の顔は腫れあがっており、母親でも見分けがつかないだろう。


「はっはっは!! いいだろう、お前らのような穢れた悪霊憑きなど炎によって浄化されるがいい!! さぁお前たち、自らの手で悪魔の手先を焼くのだ!!」


 そう言ってヒアルドンに命じられたのは、ドボチョン教会の司祭であった。彼は醜く顔が歪んでおり、不気味な笑みをこびりつかせていた。

 

「さて、あんたらには焼け死んでもらうよ。お前らさえいなければ俺は司教になれたんだ。邪魔者がいなくなって清々するよ」


「ひょっ、ひょんにゃ……。わらひたちは、うまくやっれ……」


 オッボネが小声でつぶやくと、司祭は足元に落ちていた石をオッボネの顔に投げつけた。石はぐしゃっと彼女の顔に当たり、血の花を咲かせる。


「お前は馬鹿か!! よそ者のお前らをいつ殺すか楽しみにしてたんだよ!! たっぷり苦しめて殺してやるぜ、あひゃひゃひゃひゃ!!」


 そう言って司祭は松明を投げた。炎は見る見るうちに広がっていき、イターリとオッボネを包む。


「ひぃぃぃぃぃぃ!! あじゅいよぉぉぉぉぉ!! ひどおもいに、ごろじでぇぇぇ!!」


「おひゃぁ、いひゃぁ!! ひぇっひぇひぇ……」


 イターリは泣き叫び、オッボネは意味不明な言葉をつぶやくだけだった。

 二人は炎にあぶられるも、即死することは出来ず、じわじわ身体を焼かれていった。玉のような皮膚は炭となり、髪の毛は焼けていった。


「皆の者!! 我が国を蝕む害虫は焼け死ぬ!! そして我らはこれを機会にキャコタ王国を滅ぼす!! そこに魔女の子供がいるからだ!! ついでにキャコタのすべてを蹂躙しよう!! まずは我が息子であるカモネチに命じて軍費と人材を奉仕させる!! マジッサは世界を支配する覇王となるのだ!!」


 キガチィが叫ぶと民衆はそれにこたえて雄たけびを上げる。狂人と狂人が合わさるとまるで獣のような咆哮に見えた。

 イターリとオッボネは炎に焼かれ、惨めな最期を遂げたのだった……。


 ☆


「……というのが顛末だったわけだね」


 ここはキャコタ王立学園にある一室で、イターリと副官オッボネがいた。話を聞いているのはワイトとパルホ、学園長であるスワガラ・ダイザフ侯爵だけであった。


「その、イターリ様……。なぜイターリ様の顔は奇麗なままでしょうか?」


 ワイトが訊ねた。本当は答えを知っているがあえて質問する。


「決まっているでしょ? マジッサ王国の僕らは本物じゃない。オサジン王国製のホムンクルスだったのさ」


 ホムンクルス。それは人の髪の毛と爪で作られた人造人間だ。正確には生物の器を作るだけで、生命は宿っていない。ホムンクルスを動かすには、元となる人間の魂の一部を分ける必要がある。

 魂を分けると言うことは命を削る所業に等しい。イターリは何でもないように答えるが、相当な苦痛を味わっていただろう。


「むぅ、では拷問はどうやって……」


「もちろん、受けましたよ。別にごまかす必要はありませんからね」


 パルホの質問にオッボネが答えた。彼女は50代の女性であった。これが彼女の本当の姿である。


「……痛くないのですか?」


「痛いよ。でも大したことはなかったな。マジッサよりひどいことをされてきた僕としてはね」


「……私もスキスノ聖国の訓練に比べれば、生易しいものでしたね。わざと哀れさを誘うようにするのが難しかったですが」


 ワイトの問いにイターリとオッボネは平気に答えていた。恐らく気の遠くなるような年月を過ごした記憶を持つイターリにとっては大したことがないのだろう。それに同意するオッボネもただものではない。


 そこにノックの音がした。学園長が入れと命じると、兵士の一人が入ってきた。兵士はイターリの前に立つと報告を始める。


「ヤコンマン台下に申し上げます!! 拘束したドイラプ、スゥロス、ヴィーエンの三名は死亡しました。拘束中に突如苦しみだし身体が溶け出しました!! これはトスラとスラーの遺体も同様です!!」


 兵士の報告にワイトたちは驚いたが、イターリは平然としていた。まるで最初から予測していたようである。


「さらにヤコンマン台下の命令で冒険者ギルドに問い合わせました!! 結果ドイラプ達以下四名は一度賢者の水晶サージ クリスタルによって死亡が確認されました。ですが数分後死亡が取り消されたそうです!!」


「ご苦労、下がっていいよ」


 イターリに命じられて兵士は部屋を出ていった。ドイラプ達の死は衝撃的であったが、一度死亡が確認されたとはどういうことだろう。


「……もしかしてイターリ様たちと同じなのですか?」


「イターリ殿と同じ? どういうことでござるか?」


「……イターリ様たちはマジッサ王国で死にました。ですが死んだあと、元の身体に戻ったのです。恐らく本当の身体は最初からキャコタ王国に保存されたのでしょう。だからこそ死んだあと私たちと合流できました」


 ワイトが苦々しい顔になった。ぷるぷると小刻みに震えている。まるで知りたくないものを知ってしまった後悔に悩ませているようだ。

 それを見たパルホはワイトの眼をじっと見る。そして彼女も察してしまったのだ。


「―――ドイラプたちの身体はホムンクルスだった。彼等は転移呪文で姿を隠した後、殺害されて、キャコタにあるホムンクルスの身体に移された―――」


 そう、魂の移動は一瞬である。例え険しい岩山があろうとも、目印がない大海原であろうともしるしを刻んだ肉体があれば魂は瞬時に呼ばれてくる。

 ドイラプたちは誰かに殺されたのだ。その誰かはマジッサ王国の宰相ヒアルドンであろう。

 イターリは目を伏せる。普段は軽い態度を取るが、この時ばかりは空気を読めた。


「その話が本当なら、なぜドイラプたちはこの地に? キャコタを内側から攻めるにしても戦力としてはいささか不足しているとしか言いようがありません」


 獅子のようなたてがみに巨躯の身体を持つ学園長だが、脳筋では務まらない。

 そもそもそのような方法があるなら、わざわざ目立たせずに破壊工作をすればよいのだ。


「学園長の意見は正しい。この場合は破壊活動ではなく実験なんだ。それは見事に成功しているんだよ」


「実験……、ですか? いったいなんの……」


「……それを聞いたら後悔するけど、ワイトとパルホが関わることなんだ。だけど安心して、僕は君たちを守るから。いいやスキスノ聖国とキャコタ王国が全力をかけて支えることを約束する」


 イターリの目は真剣であった。ワイトとパルホにとってイターリは男の娘で悪戯好きな小悪魔であった。

 その彼がまじめな顔になっている。一体どんなことが待ち受けているのだろうか。ワイトはドキドキしてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] イターリが真面目。 事態は深刻でしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ