第八十三話 イターリが 脈絡もなく 登場しました
「フハハハハハ!! ボクは強いんだ、ボクは偉いんだ!! 誰も僕に逆らうなぁ!!」
キョワナは変わり果てていた。私設軍はキョワナを囲んでいる。そして校門に対して警備を固めていた。
ワイトとパルホはキョワナに対して構える。
「……まるでドボロクに出てくる敵みたいですね。あちらも異形の怪物に変生してましたから」
「そしてワイトがドボロクとして倒すでござるか」
ドボロクこと、ドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズでは、美男美女なら例え殺人や窃盗を繰り返した犯罪者でも笑って見逃すことが多かった。理由は警邏に突き出したら死刑になる可能性があり、間接的に自分たちが人を殺すことになるというクズ過ぎる理由だ。
逆に不細工な相手なら殺していた。まともな論理感などなく欲望の赴くままに行動していたのだ。
ドボロクが人を殺す数少ない事案は、目の前に立つ異形の怪物を討つことだ。それでも元が美男子なら殺した後に後悔し、ふさぎ込むことが多い。不細工な人間ならすぐ次の日に忘れるという最悪な人種であった。
「私はキョワナさんを救います。彼をこのまま殺してしまうなんて、とんでもない!!」
「まあ、ワイトならそういうでござるな。ところでいい案は思いついたでござるか?」
ワイトが真っすぐキョワナを見据えていた。この時点でキョワナを救うことができるのだろうか。
「やることは決まっています。肉体復元呪文と精神交換呪文を使うのです」
肉体復元呪文は対象の相手の髪の毛などを、魔獣に突き刺し、それを元にその人物の肉体を復元する呪文だ。
精神交代呪文は人の精神を別の肉体に移し替える呪文である。どれもワイトが発明したものだ。
「キョワナさんに小細工は通用しません。私はまず肉体の代わりになる魔獣を呼び、キョワナさんの髪の毛をむしります。身体を作ったらパルホはキョワナさんを殺してください」
「それしかないでござるなぁ」
パルホはため息をついた。現在のキョワナは暴走した魔人だ。腹痛呪文も擽り呪文も通用しないだろう。そんな感覚はないはずだ。
「ではわたくしたちがパルホさんのお手伝いをしましょうね」
「ええ、シジョルさんを痛めつけたお礼はたっぷりしませんとね」
シジョフとシジョムが言った。二人とも静かに怒っている。妹のシジョルを傷つけたキョワナに怒りが湧いているのだ。
「お二人がいれば心強いでござるが、やりすぎなぬよう気を付けてほしいでござる」
パルホが言った。シジョフとシジョムは頭を低くすると、そのまま電光石火の如く、キョワナに突進する。
彼女たちセヒキン三姉妹は自らの身体に魔法を纏うことが可能であった。ある時は炎を、ある時は水を、ある時は雷をまとっている。そうでもしないと過酷なセヒキン山で暮らすことが出来なかったからだ。
初代ヨバクリ侯爵はセヒキン一族と対等に交流したが、息子がそれを嫌がった。初代は個人の意見と関係なく、セヒキン一族との交流を法的に整備した。ヨバクリ家でセヒキン一族を皆殺しにしたがるものもいたが、有力者の反対ですべてとん挫している。
現ヨバクリ王国の国王、デルキコの父親アヅホラはセヒキン一族を虐殺したかったのに、認められなかった。その不満が娘のバヤカロをゴマウン帝国の皇妃にすることで鬱憤を晴らした。
皇帝の権力を使って、セヒキン一族を滅ぼす計画を立てていたが、達成されることはなかった。
さて雷を身にまとったシジョフとシジョムは、目で追えないほどの速さだ。雷と同化したのだから人の眼についてこられない。
だが彼女らの仕事はあくまでかく乱だ。本命はパルホである。
「さて拙者の剣で少しおしおきさせてもらうでござるよ」
パルホは剣を構えた。キョワナはうるさいコバエを払い、パルホに突進する。鋭い爪でパルホを八つ裂きにしようとした。
しかしパルホは加速呪文をキョワナにかけた。素早さが上がる補助呪文だ。普通敵に塩を送る行為などありえないが、加速呪文は違う。
キョワナは体勢を崩した。例え補助呪文をかけられても意図せぬ加速呪文をかけられれば、体感が狂ってしまう。
次にパルホは遅速呪文を自分で使う。普通は敵に使うものだが、パルホは自分に掛ける。
視界が水の中に入ったように、ゆったりと見える。もちろん自分の身体も鈍くなっている。
しかし彼女は計算してキョワナの振るう手を目掛けて、剣を振るう。
パルホは美少年に見えるがやはり女だ。腕力は男より劣る。だが相手の急所を的確につけばその弱点は問題ない。
これは志熊荷王国の冒険者であり、侍である炉守都京の技だ。
普通の冒険者が使えば、ろくなことにならないが、弟子であるパルホなら使いこなせる。
パルホの剣はキョワナの腕を切り裂いた。彼女は身体を独楽のように回転させると、次にキョワナの下あごに剣を突き刺す。
剣は頭を貫いた。その隙にワイトはキョワナから毛を抜き取り、呼び寄せたネズミの魔獣に突き刺す。そして魔獣の肉体はキョワナの身体に復元され、次に精神交換呪文を使った。
異形のキョワナは死んで地面に倒れる。そして肉体は溶けて塵と化した。
逆にワイトの足元には奇麗なキョワナが横たわっている。彼を救うことに成功したのだ。
「いや~、お見事だねぇ。ワイトちゃんにパルホちゃん」
パチパチと乾いた拍手がした。誰だろうと振り返るとそこには金髪碧眼の美少女が立っている。
「え? イターリ様ではありませんか?」
「おお、一年ぶりでござるな!!」
二人は美少女を知っていた。実はイターリは男の娘であった。スキスノ聖国ではイターリ・ヤコンマン台下と呼ばれている。次期法皇と名高い人物だ。
「風の噂には聞いていたけど、ワイトちゃんは美しくなったね~。きっと男にモテモテだろうな~。逆にパルホちゃんは女の子に言い寄られているんだろうね~、いや~羨ましい」
イターリはおどけている。だがなぜ彼はここにいるのだろうか。
「おや、ヤコンマン台下、あなたはなぜキャコタに? 確かマジッサ王国の司教になったはずでは?」
傷を回復したシジョルが声をかけた。
「あー、うん。ついさっきまではね」
「さっき……、ですか?」
なんとも含みのある言葉であった。
「実は僕、マジッサ王国で処刑されたんだよね~」
イターリはあっけらかんととんでもないことを口走ったのであった。




