第八十二話 ドイラプたちは張り子の虎
さて時間を少しさかのぼると、ワイトとパルホは馬がいない馬車を使って校門に向かった。
すでに因幡尼の衣装に着替えている。
馬がいないのに馬車は快適に進んでいた。入学前に魔導バスに乗ったが、改めてキャコタ王国の技術力に舌を巻いた。
ちなみに運転手はネトブリである。乗っているのは三人だけだ。ドゴランは学園内に待機させる。何が起きるかわからないからだ。
ワイトとパルホの従者である、ナイメヌとケダンも残った。ケダンは渋ったが、ナイメヌが命じたのだ。
「どうしてキョワナさんが……。普段はそんなそぶりは見せなかったのに……」
赤いうさ耳をぴょんぴょん揺らしながらワイトは疑問を口にした。
確かにキョワナは情緒不安定な部分が目立った。些細なことでもよく爆発しており、ワイトたちは抑えるのに苦労した。
それでも聞かん坊の子供をあやすように、最近は落ち着いていたように思えたのだ。
「拙者も同じでござる。いったい何がきっかけで爆発したのでござろうか……」
パルホも首を傾げているが、ネトブリが声をかけた。
「キョワナ君を見た人たちの証言では、彼に対して紫色の霧が包んだそうでしゅ。その霧が彼の口の中に入った途端、豹変したという話でしゅ」
それを聞いてワイトたちは顔を合わせた。何者かがキョワナを操っている。そう見て間違いなさそうだ。問題は誰がキョワナを操っているということだ。さらに言えば敵の目的がさっぱりわからない。
「……この場合、キョワナ殿が暴れたら、キャコタとしてはどうなるでござるか?」
パルホがネトブリに聞きずらそうに尋ねた。ネトブリはため息をつくと、口にした。
「……王立学園では、世界各国の子息子女を預かっているでしゅ。健康はもちろんのこと精神的な補佐もしなくてはならないでしゅ。カモネチ王国としては預けた王子が問題を起こしたのでしゅ。責任問題はダイザフ侯爵、学園長に及ぶでしゅね」
「そうなると学園長が辞任したら次は誰が学園長になるのでしょうか?」
「息子のスーダラ様でしゅね。でもこの方はヒガラナ王国の王立アカデミーに留学中でしゅ。能力や人格も後継者として問題ないでしゅ。学園長を陥れる必要などないのでしゅ」
ネトブリはワイトの疑問に対して返答する。学園長は敵が多いが、露骨に手を出す者は少ない。表面上は友好を装い、裏では舌を出すようなのがほとんどだ。表立って学園長に暴行を加えれば周囲の人間に白い目で見られる。あくまで合法的に法を犯さずに工作した方がいいのだ。
わざわざキョワナを洗脳して暴走させる必要性がない。
「推測をしても意味がないでしゅ。大事なのはキョワナ君を止めることでしゅ。ついでにドイラプ一味も拘束したいでしゅね」
ネトブリはため息をついた。彼としてもこんな不祥事は関わりたくなかった。しかし一度起きてしまえば解決しなくてはならない。
馬車を走らせていると、前方に人影が現れた。それは指名手配書の写真にあった顔だ。
儚げな美少年がドイラプで、血の気盛んそうな青年がスゥロス。最後に熊のような巨漢がヴィーエンだ。
彼等はゾンビのように乱れた足並みで、ふらふらと歩いていた。前方に異質なものがやってきたので、足を止める。
ネトブリは馬車を止めた。そしてワイトとパルホだけ馬車を降りた。
「君たちは、だぁれ?」
ドイラプが口を開いた。何とも言えない不気味な声だ。
「私はワイト・サマドゾ。あなたはドイラプさんですね?」
その瞬間、ドイラプは目を見開いた。そして狂ったように笑いだす。
「あひゃひゃひゃひゃ!! こんなに早く会えるとは思わなかったよ!! まるで小指と小指に赤い糸が繋がった運命の恋人のようだ!!」
それを聞いてワイトの顔は不快に染まる。表現の仕方がねちっこくて気持ち悪いのだ。背中に舐め首が這いまわるような感覚になる。
「へへっ、俺たちに黙って力を悪用する、悪戯妖精どもめ。俺たちが世界を焼き尽くす炎の剣で浄化してやるよ」
「うむ。母なる森の中でお前たちを包んでやろう。なぜなら我々は力を管理する者、我々以外に力を使うことは許さ―――」
スゥロスとヴィーエンがしゃべっている間、パルホは彼等に切りかかった。
パルホの剣は二人の利き腕の筋を切った。彼等はあまりのことに悲鳴を上げるが、次にパルホは二人の喉笛を切り裂く。
口から血が溢れ、げふげふと言葉にならない声が噴き出た。二人は地面に倒れ、芋虫のようにごろごろと転がり回っている。
「なっ、なんだとぉぉぉぉぉぉ!! 僕たちがまだしゃべっているのに、なんで攻撃しゅるん―――」
ドイラプは最後まで言えなかった。なぜなら瞬間移動したワイトがドイラプの鼻を右拳で潰したのだ。
ワイトは腕力はあまりない。だが魔力を込めれば石に殴られるほどの威力はある。
「戦いに前口上などいりませんよ。ここは戦場です。生き残りたければどんな手を使ってでも勝つべきですね」
ワイトは冷めた口調でドイラプを見下した。ドイラプは鼻血を吹き出すと、白目を剥いて地面に倒れた。
あまりにもあっけない最期であった。
「さすがでしゅね。ドイラプ五人組は素行はともかく、実力はあるのでしゅよ」
「確かに特別な力を持っていますね。ですが使いこなせてません。中身が伴っていないんです。張り子の虎ですね」
ネトブリが感心しているとワイトは切って捨てた。確かに生まれつき特別な力を持つ人間はいるだろう。自分たちもそうだった。だがその力を活殺自在に扱えてこそである。彼等は自身が持つ力に滅ぼされたのだ。
ワイトたちはドイラプ達の手足を拘束すると、その場に放置した。ネトブリは無線機でドイラプたちを回収するように報告する。
こうしてワイトたちはキョワナへ向かうのであった。




