第七十九話 セヒキン三姉妹
「まあまあ、彼等がドイラプ一味ですのね。随分みすぼらしい姿ですこと」
キャコタ王立学園は北の雪山のように長く高い塀で囲まれている。壁の素材は魔力を通しやすい材質で出来ており、物理攻撃はおろか、魔法攻撃も弾く代物だ。
そして敷地内に入るにはダイザフ侯爵の私設軍が守っている。兵士たちは最新式の魔導銃を装備しており、特殊な鎧で全身を覆っている。魔導銃は一度に狼の魔獣の群れを一掃することができる。鎧は敵の攻撃を寄せ付けないし、雪山や砂漠などの行動も可能だ。
隊長から命令が下されれば例え女子供でも無表情で始末するように訓練されていた。それが百名ほど門の前に待機している。キャコタ王国軍ですら凌駕する実力を持っていた。なぜなら王立学園は世界中の王侯貴族の子息子女を預かっているのだ。警備は万端でなくてはならない。そのためダイザフ侯爵の私設軍はキャコタ最強でなくてはならないのだ。
その兵士たちを差し置いて三人組の女性が立っていた。
幼女二人に熊のように背が高い女であった。
先ほどしゃべったのはピンク色のツインテールに、白と黒のゴスロリドレスを着た少女であった。どこか幸福感に満ちた夢見がちな少女に見える。
「まったくですわねシジョフお姉さま。というかあの方たちはすでに死んでいたと思っていたですのよ」
こちらはピンク色の三つ編みをした同じく白と黒のゴスロリドレスを着た少女だ。こちらは優しげだが子供っぽい感じがした。シジョフと呼んだ少女とうり二つである。
「シジョフお姉ちゃんも、シジョムお姉ちゃんも油断したらだめだよ。ここの人たちに聞いたら、転移魔法の気配がないのに、いきなり生体反応が五体も出てきたって言ってたもん」
ピンク色のアフロで、右胸は白、左胸は黒のビキニを着ている。筋肉隆々で見事な彫刻に見えた。男っぽいがどこか柔らかい雰囲気がある。
彼女の名前はシジョル。シジョフとシジョムの妹だ。彼女らはキャコタ王国より遥かに北にあるヨバクリ王国の出身であり、セヒキン一族の末裔であった。
「そうですわねぇ。普通は転移呪文を使われてもその痕跡は発見しやすいはずですのにねぇ」
「それにあの人たちの姿は確かにみすぼらしいね。でもドイラプを見てよ、あいつの両目がきちんとあるよ」
シジョムが指を差す。前方にはドイラプ、トスラ、スゥロス、スラー、ヴィーエンの五人がいた。
彼等はぶらぶらと酔っぱらいのように歩いている。まるでゾンビだ。だがシジョフたちは知っている。彼等は傷だらけであると。ドイラプは右目を潰されており、他の面々も人目を避けねばならないほど傷痕がひどかったと冒険者ギルドは把握している。
「まったく傷がないね。生まれたての赤ちゃんみたいだ」
「それにミルク臭いですわね。あの人たちどこから来たのかしらん。きちんと調査しないといけないわねん」
シジョルとシジョフが会話をしていると、シジョムが前に立った。
「あなたたち!! ここから先はキャコタ王立学園の敷地内ですわよ!! というか賞金首のあなたたちがこの国に入る時点で殺されても文句は言えませんわ!! どういうことか説明しなさい、そしたら命までは取りませんことよ!!」
そうシジョムが叫ぶが、ドイラプたちはまったく無反応だ。聞いているのかどうかわからない。視線は虚ろでシジョフたちを認識しているようには見えなかった。
「……、に、来たんだ……」
ドイラプがつぶやいた。何を言っているのかよく聞こえなかった。シジョフたちは耳に集中する。
「僕たちは、ワイトとパルホを粛清に来たんだ」
信じがたい言葉が耳に入ってきた。一瞬、シジョフとシジョムの顔が怒りに染まる。彼女たちは少女に見えるが実は30歳なのだ。シジョルは24歳である。
ワイトとパルホは彼等が赤ちゃんの頃から知っていた。セヒキン一族は代々セヒキン山脈に住んでおり、極端に身体が小さいものと大きなものに分かれていた。
小さいものは山の狭い穴をモグラのように潜り、大きなものはその腕力で大きな岩を砕き、穴を掘る役目があった。
ヨバクリ王国の国王デルキコはセヒキン一族と交流しているが、死んだ父親のアヅホラは彼等を蛇蝎の如く嫌っており、一生出てくるなと命じていた。
「は? あの子たちに何をするって?」
「うふふ。殺すに決まっているわ」
シジョフはトスラのセリフに切れそうになった。シジョフとシジョムはこう見えても経産婦だ。14歳の息子がいる。シジョルは5歳の娘がいた。
セヒキン一族とワイトの故郷であるサマドゾ王国は交流があった。彼女らにとってワイトとパルホは可愛い子供なのだ。
「えへへ、あいつらはボクたちに断りもなく、力を振るったんだ。殺されて当然だよね」
「へへへ、その通りだぜ。力を管理する俺たちを差し置いて、花級になるなんて、あっちゃらならねぇんだ」
スラーとスゥロスがつぶやいた。話を聞いていないように見えて、聴こえているのだろうか。
「うむ。ついでにこの学園も潰しておこう。あいつらの居場所はすべて破壊しないといけないからな」
ヴィーエンがぼそぼそとつぶやいた。それを聞いたシジョフとシジョムの顔は真っ赤であった。
額に血管が浮き出ており、目は血走っていた。
それをシジョルが宥めた。
「お姉ちゃんたち、落ち着いて。私だってむかっ腹が立っているんだから」
「ほほほほほ。わかっておりますわよ。あの者たちは徹底的に潰しますわよ」
「私たちセヒキン三姉妹の恐ろしさをたっぷりと教えてあげませんとね」
そう言ってシジョルはシジョフのツインテールと、シジョムの三つ編みを乱暴に掴んだ。
「今回はあくまで私たち冒険者がたまたま居合わせたことにしないといけないよ」
シジョルが言った。私設軍を動かしてもいいのだが、ドイラプたちはちんけな賞金首として扱われている。虫けら如きに軍費を消化すればダイザフ侯爵を嫌う貴族たちから非難されるだろう。
だがセヒキン三姉妹は冒険者だ。彼女らはたまたまダイザフ領に居合わせたので、急遽ギルドに防衛の依頼を受けた形にしているのである。
「さあ私設軍の方には見学してもらいましょう。私たちセヒキン三姉妹の実力をね」
そう言ってシジョフはにやりと笑うのだった。




