第七十四話 マルデ王子が 危ない
王名鵬柳。熊の魔獣と出会ったら、魔獣の方が王名の覇気を感じ取って逃げ出すと言われている。
別名、山の神とも呼ばれている30歳の冒険者だ。志熊荷王国の第5王子だが、血筋で花びら級になれたわけではない。
モコロシ王国にて山竜と呼ばれる巨大な亀を舞台を率いて討伐したことや、山崩れで洪水が起きそうになった時、他の冒険者たちと協力して災害を食い止めるなど様々な功績を残している。
田土歪夫は王家に仕えるお庭衆の一人だ。さらに陰陽師、桔尾円出、刀鍛冶兼侍の炉守都京の4人組でパーティを組んでいる。
「最後に会ったのは一年前のこの国じゃ。あん時はこの国のお家騒動を事前に食い止めた記念の宴じゃったのう!!」
「その通りです。お母様から聞きましたが、王名様たちはかなりの活躍をなさったとか」
「ふははははっ!! 大したことなどしとらんよ!! そもそも司令官派の連中は雑魚ばかりで、王子派の方が手強かったわい!! のう歪夫よ!!」
「然り」
田土は短く答えた。どうも表情が読めない。
「本日はお二人だけでござるか?」
パルホが訊ねると、王名は目を丸くする。
「パルホか。たった一年見ないうちに男前になったのう。ワイトはすっかり女らしくなりよった。下手な男女より、かなりのべっぴんじゃい。神ベッピンじゃな」
王名の言葉にワイトはすっかり気分を良くしている。それを見て王名は外国の習慣に差があると感じた。
「おうおう、パルホの質問がまだじゃな。都京と円出は別行動じゃ。今日はキャコタの東部にある森、ノリアオにて魔獣が発生したとのことじゃ。それもわしらの国由来の魔獣が徘徊しているそうじゃ」
「王名様たちの……。どういう魔獣なのでしょうか?」
「うむ。鬼と天狗じゃ。鬼は猿から、天狗は鴉から魔獣に変化したものじゃよ」
ワイトの問いに王名は苦々しい表情になった。魔獣はその国に住む人間の精神状態によって変化する。他国では犬や猫が魔獣になっても身体が大きくなるだけの場合が多いが、時と場合によっては逸脱した形になる場合もある。
ギルド内に飾られた鵺やヘカトのはく製は滅多に採れるものではないし、それほど数は多くはない。
例えば凶悪な犯罪者が一般人を大量に殺害したとか、嵐などの天災により多くの家屋が流され犠牲者が出たとか、色々な条件で魔獣は変貌する。モンスター娘の場合は男を性的に食べることを目的としており、普通の村や町を襲撃することは少ない。
魔獣の場合はオスに邪気が憑依し、殺意を剥き出しにしていることが多い。
「ノリアオの森では多くの我が国の労働者が働いておった。ところが嵐の夜に作業を中止にしようとしたが、キャコタの主任が納期が遅れると言って、無理やり決行させたのじゃ。おかげで労働者が30人近く亡くなったのじゃよ。主任は首になったが、外国人をこき使って何が悪いと噛みついたんじゃ。まあ、そいつは再就職できず、家族にも見捨てられ、首を吊って死んだがね」
王名はやり切れない表情で説明した。大勢死んだ志熊荷王国の無念が猿やカラスたちに憑依し、魔獣となったのだろう。
「なるほど。王名殿たちはその魔獣討伐のクエストを受注したのでござるな。そしてギルドに来たのは協力者を仰ぐためでござったか」
「そうだ。できれば蕾級が20人ほど欲しいのじゃよ」
「それなら拙者たちに任せるでござる。彼等は全員蕾級でござるよ。拙者たちが鍛えたのでござる!! それに拙者とワイトは花級でござる!!」
パルホが胸を叩いた。それを聞いた王名は驚く。
「花級じゃと? そうかわしらの推薦が効いたのじゃな。それは頼もしい。では受付嬢殿、彼等をわしらのクエストに協力してもらうがよいかの?」
忘れられていた受付嬢のオコボがはっとなると、すぐに頭を下げる。
「はい!! 王名様のクエストの受注、受け溜まりました!!」
こうして話がとんとん拍子で決まった。
だが王名は知らなかった。自分以外に推薦者がいたことに。
それを知った時の彼等は驚愕する羽目になるのだった……。
☆
「おい、あいつらはノリアオの森に行くらしいぞ」
街中にある一室で黒装束の男たちが話をしていた。太陽の光が一切差さず、埃とカビの臭いが充満したじめじめした部屋だ。
「なんのためにいくのだ?」
「花びら級の冒険者の手伝いだそうだ。極東の島国に住む蛮族が受注したらしい。もちろん標的も同行しているぞ」
「標的……。マルデの野郎も一緒なのか」
男たちはマルデという名前に反応した。かなり苛立っている。
「あのバカが失態を犯して退学になればよかったんだ。なのに学園では魔法を百も覚えたらしい。おかげでメナコ王国では、第二王子のトテモ様より、奴を王太子にするべきだと声が上がっているそうだ」
「くっ、あんな馬鹿面よりも、トテモ王子の方が美男子で背が高く、女性にもてているぞ。メナコ王国に不細工な王子など不要。我らが始末してくれるわ」
「ついでにマルデに余計な入れ知恵をしたワイトとパルホもまとめて殺してやろう。我がメナコ王国を侮辱した者は誰であろうと許さん」
「この失態はすべてキャコタが被ってくれる。そもそもこんな小島の国などメナコの手にかかれば、すぐ潰せるのになぁ!!」
「トテモ王子が即位した暁には、キャコタを滅ぼすよう周辺国に訴えるべきだ」
「あっはっは!!」
暗闇の中で男たちは馬鹿笑いをしていた。
だが天井裏には一人の犬耳少年と犬耳少女が潜んでいることを、男たちは知らなかった。
なんとなくだが世の中不細工な賢王より、美男子の暗愚がもてはやされている気がします。
第二王子のトテモは、トテモ・ダ・メナコで、とても駄目な子です。




