第六十八話 キリョイの暴挙
「キリョイ先生、よろしいでしょうか?」
夕方の学園、校舎裏にワイトはキリョイ・カウゲスを呼び出した。隣にはドゴランとパルホもいる。
キリョイはすらりと背が高いがどこかふらふらしており頼りなさそうに見えた。水色の柳の枝のような長髪に、水死体のように白い肌。黒ぶち眼鏡をかけ、白衣と黒いズボンを履いている。
「何かね、ワイト先生。パルホ先生にドゴラン君もいるじゃないか」
キリョイは見た目に反してはっきりとした口調で質問した。目も鋭く光っている。ワイトと違って何年も教師を続けているのだ。ワイトは若干怖気づいてしまうが気を取り直してキリョイに質問する。
「今日は先生にお聞きしたいことがあります。先生はドゴランさんが関わる一連の事件に関わっていますね?」
「やれやれ、直球だね。もう少しひねった聞き方をしないといけないよ」
キリョイは掌を上に向けてやれられと独白した。
「いきなり物事を聞くのはよくないよ。何気ない話から始めて、言葉尻を捕えないとね。それに君は私の事も知っているのだろう? まどろっこしいかもしれないが、からめ手でいかないと痛い目を見るね。まだまだ君は子供だよ」
キリョイに指摘されてワイトは顔が真っ赤になった。確かにワイトの両親は言葉巧みであった。それに数多くの冒険者たちから騙そうとする商人や冒険者の特徴を聞いており、対処の仕方も実践していた。
だがキリョイのように事件に関しての聞き取りはやったことがなかったのだ。
自分はまだまだだとワイトは泣きたくなる。母バガニルに恥をかかせたと思い込んでいた。
それを見たパルホは察したのか、キリョイに切り込んだ。
「キリョイ先生はこの件に対して認めているでござるな。ワイトの質問に対しても否定はしておらんし、むしろワイトの質問の仕方を注意しているでござる」
「その通りですよ。一連の事件は私が首謀です。すべてはドゴラン様のためなのですよ」
ドゴラン。なぜキリョイが彼のために動くのだろうか。
「確か先生の一族はドゴランの国に先住していたと聞いているでござる。先祖代々の土地を追われて復讐するならともかく、先生の言い方ではドゴランの利益を優先しているように聞こえたでござるよ」
「は? 別に我が一族は追放されておりません。むしろドゴラン様の家臣として仕えておりますが」
「そいつの言う通りだ。カウゲス一族は我が国の土地を管理していたのだ。そこで主である龍に命じられて俺の配下に加わった。以降国の運営に力を貸してもらっている」
ドゴランが口を挟んだ。どうやらキリョイの一族は追い出されたわけではないようだ。むしろ悠久の果てに降臨した新たなる王に対して心酔しているようである。
「それがなぜドゴランを襲わせているでござるか? 意味不明でござる」
するとキリョイはにやりと笑った。口が真っ赤な血で染まった三日月のようである。黒ぶち眼鏡も光り、瞳が見えなくなった。
「決まっているでしょう? 奴らはドゴラン様の国を奪い取ろうとする愚者どもなのですよ!! あいつらにドゴラン様の盾であり矛である箆血翁たちを憑依させ、傀儡にすることで偉大な英雄に手を出した罪の烙印を押すためなのですから!!」
「なっ、それではドゴランさんが怪我をするではありませんか!! 本当はドゴランさんが嫌いだからそんなことをするのでは!?」
惚けていたワイトが正気に戻ると、キリョイに抗議した。本当に大切な人なら不慮の事故も考えるべきだ。
「馬鹿が!! ドゴラン様を凡人と一緒にするな!! この方は王ではなく、神なのだ!! モコロシ、サゴンク、スコイデを統一し、世界を支配するお方なのだ!! その覇業を遮るものは、相手が誰であろうと容赦せん!!」
「呆れるでござるな。まるでドボロクみたいでござるよ」
「あんなパクリ小説と一緒にしないでもらおう。神聖な龍結びの儀式を汚されて苛ついているのです!!」
キリョイが怒鳴った。するとキリョイの周囲から魔力の渦が生まれる。周囲から青白い稲妻がパチパチと光っていた。
「いかんな。奴はこの周辺にいる人間の生霊を集めるつもりだぞ」
ドゴランが答えた。
「すると私たちは全員魂を抜かれるのですか!?」
「そうだ。短時間なら抜かれても元に戻るが、長時間だと相手が死んでしまうな。カウゲス一族は霊を扱うに長けている。姉上の死霊魔術も彼等から教わったものだ」
「というかキリョイ先生の事を知っていたならなんで教えなかったでござるか?」
「聞かれなかったからだ」
なるほどとパルホは思った。キリョイの身体は数倍に膨れ上がっている。生霊を集めて力を増したのだろう。
「フハハハハ!! 真犯人が追い詰められて暴挙に出る!! それをドゴラン様かワイト様があっさりと打ち破るのだ!! これほど相応しい千秋楽はありえません!!」
「なんたることでしょう。それほどまでにキリョイ先生はドゴランさんに心酔しているのですね。ですが!!」
ワイトは着替え呪文でバニー姿になった。赤いうさ耳、赤いバニースーツと燕尾服、そしてすらりと網タイツに包まれた足に赤いハイヒール。
手には杖が握られていた。
「同僚の暴走は私が止めます!!」
「うむ。これくらいのこと、未来の正室であるお前が解決するに決まっているからな」
ドゴランは腕を組みながら答えた。ワイトを信じているようだ。
「擽り呪文!!」
ワイトが呪文を唱えると、キリョイはいきなり脇をかきむしった。すると体内に溜めていた生霊たちが一斉に逃げ出したのである。
「先生は無理やり生霊たちを体内に溜めている。でもあれほどの生霊をため込むには相当の集中力が必要です。ならば相手をくすぐらせることで集中力を途切れさせるのがよいのです!!」
ワイトがきっぱりと言った。戦闘に関してはワイトは一枚上である。攻撃魔法を使う必要もなく、相手を無力化させればよいのだから。
数分後、キリョイは真っ裸でうつぶせになって倒れていた。脅威は去ったのである。
「先ほどの先生のセリフでござるが、ワイトの事も認めているようでござるな」
ぐったりしたキリョイを見てパルホはそうつぶやいた。
最初は気難しそうだけどいい先生と言う設定でした。
ですがそれではつまらないので、今回の役割にしたのです。




