第六十四話 学園長からお説教されました
「さぁて、ワイト・サマドゾ先生にパルホ・サマドゾ先生。君たちがここに来た理由はわかっちょるよね?」
ここはキャコタ王立学園にある学園長室だ。部屋の主であるスワガラ・ダイザフ学園長が高級ソファーにどっしりと股を開いて座っていた。まるで険しい岩山の瀑布に見える。
そしてその学園長の目の前には波打つ白髪の美少女……、ではなく美少年であるワイト・サマドゾ。
左側には黒髪の日焼けした美少年こと、美少女のパルホ・サマドゾが仲良く座っていた。二人が一緒だと妖精と錯覚してしまうかもしれない。それほど二人の容姿は人の心をとらえているが、百戦錬磨のスワガラにその魔力は通じなかった。
二人が学生の身分から教師になってひと月が過ぎた。今日はそのことで学園長に呼び出されたのである。
スワガラはこめかみに血管を浮かせながら、白い歯を剥き出しにして笑っている。頭には陽炎が浮かんでおり、まるで噴火寸前の火山だ。何がきっかけで爆発するかわからない。
「申し訳ありません。私が学園長先生に呼び出される理由がわかりません」
「いやワイト。拙者たちに自覚がなくとも、知らないうちにやらかしている場合があるでござるよ」
ワイトは空気を読まずに首を傾げた。その様子はそこら辺の女性より様になっている。パルホは慌てて補佐に入っているので、まだマシと言える。
それを見たスワガラはため息をついた。
「ワイトくん。君はこのひと月、木組の生徒たちに何を教えていたのかね?」
「サバイバル授業を教えてましたが。問題があったのですか?」
「大ありだ!! 木組の生徒達がわずかひと月で100種類の呪文を覚えるとはどういうことかね!! うちの学園でもそんな魔法使いは数えるほどしかおらんぞ!!」
スワガラはライオンの如く吠えた。そう木組の生徒達は上級生でもありえないほどの呪文を覚えたのだ。しかも人に教えられるレベルに達している。花びら級や花級の冒険者ですらありえない快挙だ。
しかも教え子たちは魔力が低い凡人たち。それでも短期間で呪文を教えられることが脅威なのである。
「ああ、やっぱりでござるか。拙者が止めてなかったら、もう100ほど教えていたでござるな」
パルホがため息をついた。彼女は体術と武術を教えていた。運動音痴の生徒でもわかりやすく教えており、蕾級でも通じるほどだという。相手の苦手な部分を長所として鍛えたのだ。軍隊の共感も顔負けの指導力だが、こちらは見た目では判断できない。相手に触れなければ中身はわからないものだが、魔法は違う。
「何を言っているんですか。お母様なら簡単に教えられるに決まっています!!」
「母上は学生であって拙者たちのような教師ではなかったでござるぞ!! ワイトのマザコンは直した方がいいでござる!!」
「なんですって!? いくらパルホでもお母様を侮辱するなんて許せません!! 決闘しましょう!!」
ワイトが立ち上がって夜叉の如く激怒した。普段はおっとりした性格だが、ここまで感情を爆発させたのは初めてではなかろうか。さすがのスワガラも颶風に反応せざるを得なかった。
「てい」
パルホは冷めた目でワイトの股間を蹴った。金的に衝撃を与えられてワイトは白目を剥いた。涙目になり、股間を押さえて床に倒れこむ。お尻を突き出しており、第三者が見たら誘っているようにしか見えないだろう。
「あぅ、あぅぅぅ……。これしきのこと……。お母様なら蹴られても平気なはず……」
涙目になって涎を垂らしながら股間を押さえている。
「母上は女だから平気に決まっているでござるよ。まったくワイトは頭のいい馬鹿でござるな」
パルホは呆れていた。こういうところは女のパルホの方が精神的に上である。
「……お前たちの行為は大問題だ。他国の連中は魔女の脅威を訴えて、キャコタ王国に対してお前たちを処刑しろと訴えている。さらには実験動物にしろとも注文を付けとるがね。だがそれ以上に木組と関わる国々はお前たちを擁護しておるのだ。何しろボンクラか落ちこぼれの子供が、国一番の魔法使いに生まれ変わったのだからな。お前たちに恩を売るのが国益になると判断したのだろう。もちろんキャコタ王国はお前たちを全力で守るよ。いや、お前たちから他国を守るためと言ったところか」
スワガラが言った。二人、というよりワイトの方が問題なのだが、やはり女性のパルホも同一に狙われている。体術や武術が得意な彼女だが、呪文の数はワイトと同様である。もちろんワイトが生み出した呪文はパルホも使いこなしていた。
「実を言えばお前たちより厄介事を招いている男がいる。人組のドゴランだ。こいつの仕出かしたことに比べればお前らの行為など子供の悪戯に思えるから不思議だよ」
ドゴラン。かつてワイトたちと同じクラスメイトだった少年だ。モコロシ王国出身の王子であり、新興国ドゴランの王様でもある。
「ワイトより問題を起こすとは、いったいどういうことでござろうか?」
「ドゴランは有能すぎるのだ。座学にしろ武術にしろすべての生徒達を、いいや、世の中の武人たちを軽く超えている。男子生徒が敵視しないわけがない。隣国のモコロシ、スコイデ、サゴンクに関わらずな。さらに女子生徒たちもドゴランの側室になりたいと思っているのだ。それが学園全体に広がっている。これがどういうことかわかるか?」
「もう滅茶苦茶ですね」
苦痛から解放されたワイトが答えた。ドゴランは男子生徒達からやっかみを受けた。物を隠す、無視する、物を投げつけるなどのいじめは日常茶飯事だったという。
だがドゴランがおとなしくいじめられるわけがない。
物を隠されてもすぐ見つけ出し、物を投げつけられても後ろを振り向くことなく躱してしまう。
そもそも凡人に無視されても王者には関係ない。むしろドゴランは周囲の人間を森の木と同様に扱っていたのだ。そうなればドゴランにイラついた生徒たちが本気で彼を殺しにかかる。そしてあっさりとドゴランにぼこぼこにされるのが落ちであった。
「まったく学園創立以来の大不祥事だ。お前らの母親であるバガニルですらかわいく思えるわ」
「ですが愚痴をこぼすために拙者たちを呼んだわけではないのでござろう? もしやドゴラン殿に関わることでなかろうか?」
パルホが訊ねると、スワガラはこくんと首を縦に振った。
「そうだ。今この学園ではドゴランを狙う暗殺者で囲まれている。お前たちに暗殺者たちを捕えてもらいたいのだ」
突然の申し出にワイトとパルホは目を丸くした。




