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第六十三話 マジッサ王国のイターリ

「は~い、みなさ~ん♪ おいしいお菓子ですよ~♪」


 マジッサ王国の王都にある、ドボチョン教団の本山である教会の広場で一人の少女が愛想よく振る舞っていた。

 金髪をツインテールしており、水色と白のゴシックドレスを着ている。手首には水色のフリルを巻いており、足は水色と白の縞々のタイツを履いていた。そして水色の靴を履いている。


 実はこの子は男だ。美少女にしか見えない。胸はないが周囲の男たちはひゅーひゅーと囃し立てている。

 女たちも可愛らしい男の娘に熱を上げていた。中身が男なら浮気にならないからだ。


 彼の名前はイターリ・ヤコンマン。ドボチョン教の司教だ。先代の司教は急病で倒れ、急遽もっとも優秀なイターリが選ばれたのである。

 ……そう周囲の人間は信じ込んでいた。イターリは外部の人間だが、自己暗示呪文によりイターリはマジッサ王国の生まれと認識しているのだ。


「さぁさぁ今日のお菓子はカラフルなクッキーですよ~。いろんな色の飴を絡めた特製なんです~。紅茶も用意してますから、遠慮なく食べてくださいね~♪」


 イターリは大皿一杯のクッキーを子供たちの前に差し出した。子供たちは一斉に群がり、クッキーを取っていく。


「他にもケーキやプリンなどお菓子はたっくさん用意してます!! 大人の方はお酒も用意してますのでそちらをどうぞ~♪」


 イターリはいちいち大げさに振る舞いながら、信者たちにごちそうを振るった。ここの支払いは商人ギルドが受け持っている。教会の周りにはバザーが開かれており、こちらは有料だ。財布のひもが緩くなり、商品が飛ぶように売れていく。イターリは客寄せの見世物なのだ。


 そこに巡回の憲兵が近づいてきた。革の鎧にこんを手にしている。だが彼等は何も注意しない。「羽目を外しすぎるなよ」と忠告するだけだ。


 それを見たイターリは冷たい目で見ていた。


 ☆


「ふぅ、今日も何の動きもなかったね~」


 教会にある司教の部屋でイターリは裸になってベッドに大の字になっていた。胸は男だからまっ平だが、下着は水色と白の縞々の女性ものである。股間が女性ではありえないほど盛り上がっていた。


「はしたないですよヤコンマン台下。ここには私しかいないからといって気を緩みすぎです」


 部屋には一人の女性が立っていた。赤髪のおかっぱ頭で厳格そうな二十代の女性だ。名前はオッボネといい、イターリの監視役である。


「ボクとしてはそこを狙ってほしいんだけどね~。宰相ヒアルドンはなんの動きもないわけ?」


「何の動きもございません。憲兵から司教様の行動は筒抜けのはずですが、宰相殿は何も言っておらず、国王キガチィ40世は相変わらず自分の世界に浸っております」


「ふぅ、先代司教を殺しておきながら、新しく来た僕に接触しないなんでおかしいよね~。これは僕が動くのを待っているのかな~?」


 イターリは頭を布団の上に沈めた。ヒアルドンは確かに先代司教を殺害した。そしてこれからマジッサ王国を使って何かをしでかすことも。しかしイターリが来ても何もしない。何もなさすぎるのだ。


「一応、謁見を要望しましたがにべもなく断られました。今は戦争の準備に忙しいとのことです」


 オッボネが言った。それを聞いてイターリは考え込む。敵は自分を、スキスノ聖国の監視役をくぎ付けにするために司教を殺害したのではないか。

 もちろん宰相がイターリの正体を知っているとは限らない。スキスノ聖国の人間なら誰でもいいと思っているかもしれないのだ。


「それはそうとマジッサ王国では兵はかなり集まっております。強制ではなく自主的にですね。一部の貴族も派兵しているそうです」


「ふぅん、物好きな貴族もいたもんだ。そいつらの家系に何かあるわけ?」


「はい。全員宰相ヒアルドンの系列の者でした」


 ヒアルドンの血筋。恐らく娘などを嫁にやり、次男以下は養子にしてばらまいたのだろう。もちろん親戚とはいえ無条件で協力するとは思えないが。


「それとキャコタ王国でも報告があります。ワイト・サマドゾがひと月で最下位の木組ウッドクラスの生徒達に百の呪文を教えたそうです。しかも人に教えられるまでに達したそうですね」


「うぇぇ……。そいつはひどいな。歴代の魔女でもここまでうかつなことはしないよ」


「本人は母親のバガニルと同じになりたいと思っているようです。すでに母親を超えてますね。もちろん悪い意味で」


 オッボネの顔色が暗くなる。魔女がなぜ人から恐れられるのか。それは人間は魔法が使えなかったからだ。

 人は自分が理解できないものを恐れている。魔女はその代表だった。現在はスキスノ聖国が魔法具を作り、魔女が生み出した魔法を比較的使えるように改良していた。それでも生涯に20くらいしか覚えられないのだ。

 

 凡人に百の呪文を教えられる。発展途上国はもとより、キャコタ王国に恨みを持つ国がワイトを確保したがるかもしれない。厄介なものであった。


「それとカハワギ王国のアカデミーからの報告です。ドボチョン・ロックブマータの本を読んで影響を受けた子供には一つの共通点が見つかりました。それは全員両親か祖父母がマジッサ王国の人間だということです」


 その言葉にイターリの眼は細くなる。この事件は2年やそこらで始めたものではない。もっととてつもない準備期間を設けられているのではないかと予測した。


「……アカデミーには本自体を調べてもらうように伝えてほしい。できるなら世界中に散らばっている本も回収してほしいな」


「そうおっしゃると思ったので、すでに指示は完了しております」


 オッボネはきりっとした声で答えた。出来る女とはこういうものであろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] イターリも相当ですが腹心も切れますか。
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