第六十話 水の確保は 大事です
「さぁ、お前たち!! 次は寝床だ!! 木の皮を使って縄を作れ!! そして木の枝で簡易テントを組み立てるのだ!!」
デマカラは腕を組みながら生徒たちに指示する。森の中でも雷鳴の如く鳴り響いていた。一番の肥満体で目はぎょろりと丸い。それに睨まれると生徒たちは何も言えず、指示通りに動くしかなかった。
「急がないと夜が来る。夜は人間からあっさりとぬくもりを奪う。テントに使うための葉っぱを集め、木の葉で寝床を作れ。そうでないと死ぬ」
尻が大きいケデッカも生徒たちと一緒に木の皮を剥がし、縄を作らせていた。
素手なのに一切傷がついていない。硬質化呪文のおかげだろう。
彼等は反発しそうな生徒を中心に指導している。ワイトたちだと同年代のためか、反発することが多い。
ワイトたちは比較的素直に言うことを聞く生徒たちに指導している。
ワイトが教えているのは吸水呪文であった。これは木や泥水から水分だけを取り出す呪文である。
ワイトが湿った落ち葉の上に手をかざして呪文を唱えた。すると落ち葉から水が浮き出てきた。その水はワイトの手の平に収まり、やがて水の塊りが生まれる。
木の鍋を作るのも大事だが、木がなければ作れない。なので吸水呪文を教えていたのだ。
「これが吸水呪文です。奇麗な水を確保できますし、湿った落ち葉や木の枝が瞬時で乾きますね。この呪文は皆さんに教えます。そして他の人にも教えられるようにしてください」
「人に教える、ですか?」
肌が黒い少年が質問した。キャコタ王国より遥か南方にある大陸、クバンゾにある小国から来た王子だ。非常に貧乏で畑を耕してもろくなものが育たず、鉱石も少ない。なのにキャコタが援助するのはなぜか? 最新技術の実験である。何もない貧しい国で魔法を利用し発展できるかどうかを試すのである。
「そうです。私たちだけ使えても意味はありません。こういった生活に使用できる呪文は誰でも使えるべきなのです。硬質化呪文と吸水呪文はその代表です。鉈がなくても薪を割れるし、腐った水を浄化することも可能ですね。さらに魔獣から水分を奪うことも可能です」
それを聞いた少年は顔が明るくなった。この呪文があれば水に困らない。それに自分たちを襲う魔獣たちから水分を奪うことが出来れば、男たちも戦う気が起きるものだ。
別の国の姫は伐採した木材に吸水呪文を使えば、すぐに木材は乾燥して売りに出すことが出来る。
硬質化呪文でナイフや鉈が売れなくなるのではと思ったが、あくまで非常用として覚えても損はない。
そしてそれらを平民たちに広めることが出来れば、自国での自分たちの地位は格段に上がるだろう。
彼等はすでにワイトから教えてもらっている。それらを使い、自ら手刀で木の枝を切断し、湿った落葉から水分を吸い上げたことに感動していた。
「さてデマカラ様やケデッカ様が指導している方々は、呪文を覚えるのに難儀していますね。なので皆さんが教えてください。物覚えの悪い人にも簡単に教えられるようにしましたからね」
ワイトはにっこりと笑った。それを見てデマカラとケデッカは顔をしかめる。
「ワイトの奴、さっそくしでかしたようだぜ」
「しでかしたな。いけないことだ」
「普通は専門家以外は、魔法なんか生涯に十くらい覚えられたら上出来というものだ」
「ましてや、他人に教えるなど、12歳ではありえない」
「恐らくはワイトはたくさん人に呪文を教えるだろうぜ」
「卒業後は、大魔導士が大量生産されるな」
二人とも野蛮人に見えるが、カハワギ王国のアカデミーに所属する研究員だ。冒険に大切な呪文などを多く知っている。
だがワイトのようにあっさりと人に呪文を教え、さらに他人に教えるようにするなどありえない。
学園の教師はあくまで生徒に呪文を教えるが、他人に教えることなど指導していないのだ。
キャコタ王立学園でも呪文を複数覚えている生徒は少ない。大抵は自分で何かするよりも侍女や執事に任せるからだ。
「カハワギでも文字の読み書きができない大人は多い。ましてや呪文を知っている一般人は少ない方だ。ワイトは彼等から多くの平民たちに呪文を教える土台を作ってしまった。魔法の恐ろしさを知らない平民が呪文を安易に使えるようになればどうなるか、わからんのかねぇ?」
「たぶんわかってない。母親のバガニル・サマドゾ王妃のような偉大な魔女ならこれくらい朝飯前と思っているだろう」
それを察したのかフチルンがワイトに注意していた。呪文を教えるのはいいが、さらに人に呪文を教えられるようにするのはよくないと。ワイトは不満そうだが、フチルンに強く言われて渋々従った。次は髪の毛を使った髪の毛呪文を教えている。これは寝ているときに広範囲に髪の毛で結界を張り、獣が近づいても察知できるようになる魔法だ。
あとは石化呪文と言って数時間石化させる呪文を教えている。これは可能な限り体温と匂いを低くして、周囲に溶け込みやすくするためだ。寝ている最中に獣から見つからないための呪文である。
「……やっぱりわかってないな」
「あれを覚えたら、軍隊の野営がかなり楽になる。ワイトは自分が何を教えているのか理解してない」
デマカラとケデッカは呆れていた。彼等がキャコタ王国の特殊部隊の隊員並に強くなっている。キャコタ軍は世界最強の兵士なので、彼等は一人で百人を相手にできる実力を手に入れたのだ。
一方でパルホは木の枝を片手に指導していた。キョワナはぶつくさ言っていたが、渋々従っていた。




