第五十三話 バガニルの危惧
「はぁ、何をやっているのかしら、あの子たちは……」
ここはサマドゾ王国の王城にある部屋。窓ひとつない暗い部屋だ。一人の女性が小さな石板を手にしている。滝のように流れる美しい黒髪に前髪を切り揃えてある。すらりとした長身に白い肌、切れ長の目は蛇に睨まれた蛙の如く固まるだろう。
メロンのような乳房に、ミツバチのようにきゅっと引き締まった腰と臀部。さらに長く細い脚。
しかし女性の装いは普通ではなかった。頭には黒いウサギの耳を象ったヘアバンドをつけている。
胸元が開いた黒いレオタードのような衣装に、首には黒い蝶ネクタイ、両手にはカフスをつけていた。股間の部分は切れ目が入っており、尻は丸見えだ。
足は網タイツを履いており、長い脚を引き立てている。使熊荷王国の因幡尼の巫女装束だ。外国ではバニースーツと呼ばれている。
彼女の名前はバガニル・サマドゾ。サマドゾ王国の王妃だ。三十歳だが、二十代前半と言われても信じるほどの美貌である。
「おや、ワイトとパルホは何かしでかしたのかな?」
部屋の真ん中に一人の男が裸で四つん這いになっていた。岩のような筋肉の持ち主で日焼けした肌は大岩のようである。
黒いパンツ一枚身に付けている男は。マヨゾリ・サマドゾ。サマドゾ王国の国王であり、バガニルの夫だ。
バガニルが手にしているのは叡智の石板だ。遠いキャコタ王国から文章を送れる優れものである。バガニルは大使であるサリョドから連絡を受け取ったのだ。サリョドはマヨゾリの弟である。
「……はい。あの子たちは学校を退学して、新たに教師になったそうです」
「教師か!! 一体誰が決めたんだ!?」
「デッパード教頭が推薦したそうです。あの方なら納得ですわ」
バガニルにとってデッパードは懐かしい恩師であった。入学したての頃はやんちゃだった彼女を厳しくも優しく指導してくれた思い出がある。
「むむぅ、デッパード先生は私も学んだことがある。しかしワイトたちを教師にしなければならないほど教師の質は低下しているのかね?」
マヨゾリは不機嫌な顔になった。父親にとってワイトたちは12歳の子供だ。確かに大勢の冒険者に学ばせたが経験が足りない。知識だけあっても経験がなければ生かせないと思っている。
マヨゾリもキャコタ王立学園に留学したことがあったが、素晴らしい3年間だったと回想していた。
「そのようですわね。先生はここ数年教師の質が落ちたと嘆いていたようですわ。もちろんワイトとパルホだけに任せず、補佐は付けるようですけど」
「同年代が教鞭を取るとはな……。他国の子息子女が黙ってはいないだろう……」
「そこも心配しているようです。ですがそれ以上に二人が学生の身分だと問題が大きくなることを危惧しているようですわ」
バガニルはため息をついた。彼女は闇の女神ヤルミに任された魔女の子孫だ。本来なら役目を終えた最後の魔女である。ところが息子のワイトはどうも自分の役目を受け継いでいる傾向があるらしい。
それは生まれつきの邪気中毒者だということだ。赤ん坊の頃から濃い邪気を宿している。邪気は魔法の源、魔力となるものだ。それを幼少時から含んでいるということは魔女の証であった。
もっとも男のサリョドも生まれつき邪気中毒であったが、言動がおかしかった。幼少時からまともな文字の読み書きはおろか、会話も成り立たないことがあった。
バガニルが嫁入りし、彼女に喧嘩を売って金的を潰されて以来、真っ当な人間になれたのだ。
男が先天性邪気中毒になると不幸になる一例である。
だがワイトは12歳になるまで正常に過ごしてきた。12歳の頃に女性のような体形になってきたが、精神は至極真っ当であった。
「我が弟、ベータスも先天性邪気中毒だったそうです。我が先祖ゴロスリ様がスライムの身体で、邪気を吸い取り、調整したからこそ普通の人間になれたと聞きます。ですがワイトは違う。あの子は数々の呪文を綿が水を吸い込むように覚えていきました。それこそ幼少時の私のように……」
バガニルは嘆きながら、マヨゾリの背中に馬乗りになった。むっちりしたお尻が潰れている。マヨゾリは歓喜の声を上げた。
「だからこそ私たちはあの子たちを鍛えたのだろう? 例え国が亡ぼうとも一人で生き述べるすべを叩きこんだのだ。数々の冒険者たちと共にな」
マヨゾリは興奮している。先ほどから下半身を激しく振っていた。口からは涎を垂らしている。
「今更あの子たちの身の安全など考えていません。花級の冒険者でもどうにかなる相手ではありませんから。ですが、最近貴族王族の間で流行っている本が問題なのです」
「そっ、それよりも早く私をいじめてくれぇ!! お前のデカ尻で私をもっと乗り回してくれぇ!!」
マヨゾリは懇願の声を上げた。とても一国の王とは思えない。これはマヨゾリのストレス解消法であった。
「そうですわね。私としても早くあなたを乗り回した後、あなたにいじめてもらいたいですわ」
バガニルは蠱惑的な笑みを浮かべた。部屋の壁には縄や鞭が掛けられている。バガニルがマヨゾリを馬扱いした後、今度は自分のドスケベボディを思う存分、縄で縛ってもらうのだ。
どちらかを痛めつけるのではなく、二人仲良く交互に楽しむのが、国王夫妻のやり方であった。




