第五十一話 二人は教師になることを決意する
「というわけで君たち二人は教師になってもらいたい」
ここはサマドゾ王国大使領。王立学園の敷地内にある大使たちが住む家だ。3階建てのマンションと呼ばれるもので、水道や電気、ガスが常備されており、水洗トイレに風呂もあった。
台所に応接間、寝室など部屋が多い。十人ほど住めるほどの広さだ。
今応接間には波打つ白髪の美少女に見える美少年、ワイト・サマドゾと、双子の妹で黒髪の日焼けが眩しい美少年に見える少女パルホ・サマドゾが一緒になってソファーに座っている。美男美女が座っていると絵画に見えた。
その正面には学園の教頭、ハゲティル・デッパードが座っていた。見た目は冴えないが、内には有毒ガスを有しているような雰囲気がある。
背後には大使である筋肉ムキムキのオカマ、サリョド・サマドゾと、犬耳の眼鏡をかけた美青年でサリョドの相棒であるアルジサマ。サリョドは山のように巨大で静かである。逆にアルジサマは冬の凍り付いた滝のような冷たさを感じた。
そしてさらに後ろには犬耳執事少年のケダンと、双子の姉の犬耳メイド少女ナイメヌが控えていた。ケダンは落ち着きのない座敷犬で、ナイメヌは訓練された軍用犬のようであった。
「……失礼ですが、私たちが教師になるのは無理がありませんか?」
「拙者たちはまだ子供でござる。教師になどなれるはずがないでござろう」
ワイトとパルホは反論した。しかしデッパードは首を横に振る。
「そんなことはないだろう。なぜなら君たちはひとに教えるのもうまいではないか。以前、木組の生徒が魔法をうまく扱えないのを君たちがちょっと教えただけで使えるようになったのを知っているよ」
「あれは魔力の流れが悪いので直してあげただけです。大したことはしていません」
「その大したことができるから立派なのだよ。恥ずかしながらうちの教師はそれほど教育熱心とは言えん。他国からの部屋住み貴族が食べるために来ただけだからねぇ」
デッパードは遠い目になった。ワイトは教師たちを無能とは思っていない。ただ熱意のある者は少なかった。まともに生徒と向き合うのはキリョイとネトブリくらいなものである。後は事務的な対応しかしていなかった。
「私はゴスミテ王国から来たのだよ。当時のキャコタ王立学園は素晴らしいものだった。世界各国の知識人が集まり、世界の様々な知識を得ることが出来た。私もゴスミテ王国に伝わる錬金術を生かし、キャコタ王国のゴミを処理する錬金釜を作ったものさ」
「デッパード先生の作ったゴミ処理錬金釜のおかげで王国内のゴミはきれいさっぱり消えたとか。さらにそのゴミを錬成して新たな資源に生み出すなど功績を残していることは知っております」
「だが今は惰性的になってしまった。今は本の量が増えているし、マニュアルも出来上がっている。学園全体がだらけ始めていると言っても過言ではないな」
デッパードはため息をついた。サリョドも後ろで「確かに昔と比べて覇気がなくなったわねぇ……」とぼやいていた。それほど今の王立学園はだらけているのかもしれない。
「まあ、学園の事は置いておこう。そもそも君たちを教師にすることは、他の生徒たちのけん制になるのだよ」
「けん制……。確か王立学園の教師はすべて騎士の称号を受けているのでしたね?」
パルホの質問にデッパードは首を縦に振った。この学園では教師たちは全員騎士の称号を授与されている。
騎士は一代限りの貴族で世襲はできない。それでも貴族は貴族だ。部屋住みの次男以下の人間にはたまらないものがある。
称号の授与は学園長であるスワガラ・ダイザフ侯爵が行う。キャコタ王国国王の代理として認められているのだ。それだけに王立学園が重要視されているかわかる。
ちなみにデッパードは準男爵だ。こちらは世襲ができる。教頭にもなると同じ騎士に命令するわけにはいかないからだ。
「おいおい、騎士の称号をもらったからなんだってんだ? この学園には貴族様や王族様が大勢いるんだぜ? そいつらが騎士如きにビビると思ってんのかよ?」
横からケダンが狂犬のように口を挟んだ。従者にとってあるまじき振る舞いだが、デッパードは気にしていない。
「ケダン。お主はもうちょっと世間を知った方がいいでござるよ。貴族や王族の子息子女より、騎士の方が偉いに決まっているでござる」
「はぁ? なんでだよ!!」
「そもそも拙者たちはサマドゾ王国の国王の子供でござる。しかし何の権限もないのでござるよ」
「そうですよ。例え男爵の息子でも、本人は男爵ではないのです。偉いのは爵位を持つ方であって子供は偉くありません。もちろん蔑ろにしていい理由にはなりませんけどね」
ワイトが優しく子供をあやすように説明した。例えば男爵の息子と騎士がいたとする。立場的には騎士の方が上である。もちろん威圧的に振る舞っていいわけではないが、子供が理不尽な要求をしても突っぱねて構わないのだ。
「お二人が教師になれば、騎士の位を授与される。そうなればお二人を侮辱する生徒達をワイト様たちの権限で処分することが可能になるわけですね?」
アルジサマが氷のように眼を鋭くさせながら、眼鏡を直しながら尋ねると、デッパードははいと答えた。
次にサリョドが口を挟む。
「それは構わないわよ。私たちにとっても二人の身の安全は大事ですからね。ですが学園に縛り付けられるわけにもいきませんよ?」
「もちろんです。これは3年の期限付きですよ。騎士の位はここを出ても残ります」
デッパードの提案に二人は悩んだ。だが授業は面白くないし、生徒たちは自分たちを睨むか、極端に褒めちぎるかのどちらかだ。居心地のいい空間を自分たちで作るのも悪くない。
「決めました。私たちは教師になります」
「拙者も構わんでござるよ。むしろへっぽこどもを鍛えなおしてやりたいでござる」
双子の言葉にデッパードの顔は明るくなった。




