第四十八話 マジッサ王国 新しい司教
マジッサ王国は静かであった。ドボチョン教団の責任者である司教が死んだのだ。それなのに葬式をやっていない。
マジッサ王国国王キガチィ40世は「死んだものは仕方がない。今はムダ金を使いたくないので葬式はやらないように」と命じたのである。
ドボチョン教を信仰しておきながら、司教が死んでも葬式を無駄呼ばわりする。もう国民は国王を狂人だと信じていた。
でドボチョン教の教会では新しい司教が来ていた。金髪碧眼の美少女に見えるが、実際は男だという。
あんなに目立つ人間が何で気づかなかったのか首をひねっていたが、彼がこの国の人間だとはわかっている。
名前はイターリといった。若いのになぜ司教になったのかわからない。なんでも司教の遺言状に書かれていたそうだ。
「で、お城はどういう様子かな?」
司祭の部屋に法衣を着た美少年が腕を後ろに組んで椅子に座っている。
いたずら小僧のような屈託のない笑みを浮かべていた。他には司祭たちもいる。彼等は真面目な顔で美少年を見ていた。
彼がイターリである。イターリは見た目は若いが、中身は2000年近い知識を宿している。
この世界を生み出した光の神ヒルカの命を受けたのが法皇であった。初代法皇はスキスノ聖国を作り、世界各国に教会を建て、魔女を探して殺すように命じていた。
これは魔女を追い詰めることで新しい魔法を生み出すため、魔女が望んだことである。
イターリは最後の法皇になる男だ。本人は法皇になるつもりはない。すでに法の設備は完了しており、ここ100年は法皇など飾りだ。
「はい。ヤコンマン台下。国王陛下は司教様の死に対して無関心だったそうです。宰相ヒアルドン閣下もお悔やみを申し上げたくらいだそうで」
司祭の一人が報告した。
「ふーん、てっきり司教の死をネタにして戦意を盛り上げると思ってたのにさぁ」
「……しかし、ヒアルドン閣下が司教様を殺したなど信じられません。もちろんヤコンマン台下を疑ってはおりませんが」
「宰相にやられた影たちが目撃していたのさ。あれはカムゲシャ様特製の人形で、最後まで情報を伝えてくれる機能があるのですよ」
ドボチョン教はスキスノ聖国と繋がりがある。最高指導者たちのために人形、自立型ゴーレムを用意しているのだ。犯罪以外はなんでも言うことを聞くし、見聞きしたものはスキスノ聖国の賢者の水晶に転送されるのだ。
「それで新しい司教である僕は挨拶しなくていいのかな?」
「はい。宰相閣下が忙しいだろうからと来なくていいそうです。国王陛下も特に会いたくないとのことでした」
「へぇそうなんだ。普通は国王と言えど宗教を蔑ろにはしないはずなんだけどねぇ」
宗教は国に代わって政治を行う場合が多い。例え国王でも宗教を敵に回せば民衆だけでなく、領主たちも寝返ってしまう。
それにイターリは疑問を抱いている。なぜならヒアルドンが司教を殺した理由がわからないからだ。
もっともヒアルドンの狙いはわかっている。なぜ司教を殺したのか考えるのではなく、司教を殺したら何が起きたのかを考えればよい。
その結果、スキスノ聖国の次期法皇と呼び名が高いイターリが司教として潜り込んだ。
恐らくヒアルドンは自分をおびき寄せて何かをするつもりのはずだ。
それなのに何の行動も起こしていない。国王はともかく宰相すら自分を呼ばないのだからわけがわからない。
「まぁ、いいや。ところでマジッサ王国では何が起きているのかな? まずはそれを知らないとね」
「はい。国内は兵士を集めております。こちらは強制ではなく、任意です。少しずつですがまとまった人数が集まっておりますね」
「さらにいえば南方にある辺境伯はカモネチ王国の貴族と手を結び、軍艦を用意しているとのことです。これはカモネチ王国の商人たちから聞いた話ですが」
「ふぅん、カモネチ王国がねぇ。なんでわざわざマジッサの為に船を用意するのかな?」
イターリは口をとがらせながら、足をぶらぶらさせていた。
「元々カモネチ王国はマジッサ王国から独立した国なのです。なのでマジッサ王国は家族であり、なんでも言うことを聞くべきだという空気が流れているそうです。特に第一王子と第二王子はマジッサと従属同盟を結ぶべきだと騒いでいるそうです」
鎖国しているのに彼等は中々情報通であった。イターリもそれらの情報は知っている。
わからないのは自分はなんでここにいるのかだ。ドボチョン教の司教が殺されたのは大事件だ。
宰相を捕まえようにもよそ者の自分が証拠を出しても無理だろう。むしろ国王が切れて守ろうとするだろう。
「それにしてもなぜ国王は魔女の子孫を殺したがるのかなぁ? ここ1900年以上は自国以外興味がなかったのに」
「ここ2年ですね。さらにここ最近はドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズと言う子供向けの本にはまっているそうです」
「ドボロクねぇ……。僕も読んだことはあるけど、主人公が頭悪いよねぇ……。自分の考えを異常なまでに押し付けるし、仲間が一人でも傷つけば切れて暴れるし、仲間たちも自分たちは力を管理する者として、自分と同じ考えを持たないものは潰して回っているしねぇ」
イターリはつぶやいた。だが目は真剣な眼差しになる。
「特にキャコタ王立学園では多くの生徒がその本を読んでいる。登場人物になり切ろうとするのが多いらしい。厄介なことだよ」
王立学園には最後の魔女バガニルの子供、ワイトとパルホがいる。特にワイトは男でありながら魔女の素質を持っていた。
「ピロッキやサゴンク、カモネチにあるスキスノの教会と連携し、マジッサが暴走しないように見張らないとね」
イターリはそう誓った。
次回は6月3日です。3の倍数で掲載します。




