第四十四話 ネトブリの授業
「では今日は徒手格闘の授業を行うでしゅ」
王立学園内にある体育館で、ワイトたちは授業に参加していた。全員体操着に着替えている。
男子は紺色の短パンで、女子はブルマを履いていた。お尻の形がくっきり見えるブルマを女子は嫌がっていたが、伝統であると言われて仕方なく履いている。
ちなみにワイトとパルホもブルマを履いていた。ワイトは男子なのにブルマ映えした臀部であった。パルホは筋肉が発達しており女子と言うより男子が履いているように見えた。
授業の担当者はネトブリという男性教師だ。ころんと丸く太っており、天然パーマで愛嬌のある顔であった。
あんな可愛らしい男が徒手格闘などできるのかと生徒たちは疑っている。
「ぼくを見て徒手格闘なんかできないと思っていましゅね。それは正解でしゅ。普通ならぼくのような体格では殴り合いなんて不可能でしゅね。だからこそこれでいいのでしゅ」
ネトブリは紺色のジャージと呼ばれる服を着ていた。ぴっちりとしており、下手をすれば破けてしまいそうである。
その内、生徒の一人を呼びつけた。体格のいい男子生徒だ。金髪で逆立っている。あだ名は稲妻王子だ。
「イナズ・マオウジ君。ぼくに殴り掛かるでしゅ。これは授業だから、教師を殴っても問題にはなりましぇん」
「ぴ~かっかっか、そいつはいいことを聞いたぜ!!」
稲妻王子はにやりと笑った。彼はナーロッパ諸国の最北端にあるマオウジ王国の第3王子だ。母国では貴族の子息や家来たちに威張り散らしていたが、ここでは対等に扱われるので苛立っていた。
「ただ殴るだけでなく、何をしてもいいでしゅよ。ぼくはパンチ一発しか打たないでしゅ」
「その言葉を待っていたぜ!!」
稲妻王子はネトブリに殴り掛かった。彼に恨みがあるわけではないが、教師に暴力を振るいたくてたまらないのだ。学園では教師による生徒の暴力は禁じられているが、生徒の暴力も認められない。
自分に命令する教師たちに対して敵意を抱いていた。
「ぴ~かっかっか!!」
稲妻王子の拳が雷鳴のように降り注ぐ。彼は感電呪文の使い手であった。感電呪文を攻撃に使うだけでなく、拳に乗せたり、自身の身体にかけて短距離だが瞬時に移動できるのだ。
ワイトも横柄な態度を取る稲妻王子には辟易していたが、その実力を認めていた。
しかしネトブリには一発も当たらない。彼は躱してすらいないのだ。さすがの周りも異常と気づき始める。稲妻王子はにやけづらをしていたが、徐々に余裕のない表情になった。
「なんでだよ!! なんで当たらないんだよ!!」
彼は焦っていたが、ワイトは気づいていた。
「ネトブリ先生、身体中に感電呪文を流していますね……」
「うむ、まるで磁石のようでござるよ。おそらくイナズと反発しているでござるな!!」
パルホも同意した。ネトブリは自分の身体に感電呪文を流している。それ故に同じ感電呪文を拳に乗せた稲妻王子と反発してしまい、拳が当たらないのだ。
稲妻王子はやたら滅多にパンチを繰り出したため、息切れを起こし始める。
「終わりでしゅか? ではこちらからいくでしゅよ」
ネトブリが右拳を前に突き出した。すると拳がパチパチと火花を散らしている。感電呪文を拳一点に集中させたのだろう。
稲妻王子は疲労で呪文を解除してしまった。すると稲妻王子の顔が釣られた魚のように引っ張られる。
そのままネトブリの拳にぶつかった。愚者っと音を立てると稲妻王子の顔は歪み、白目を剥いて口から泡を吐いた。恐らく先ほどの磁石の原理と同じだ。巨大な磁石となったネトブリの拳に、稲妻王子が勢いよく引っ張られたのだ。
すぐに学園専属の医者が駆けつける。そして担架で稲妻王子を運んでいった。
「とまあ、今回は感電呪文を利用したものを見せたでしゅよ。他にも氷結呪文や火炎呪文などやり方は色々あるでしゅ。まずは先ほどぼくのやったことを一か月以内にやってもらうでしゅよ。だってみなしゃんは実際にみたのでしゅ。見たものを再現するのは難しくないでしゅよ」
ネトブリが言うと、他の生徒たちは真っ青になった。一番上と思われる人組だが、授業も一番難しかった。魔力の高いものにはそれ相当の厳しい内容である。
「うーん、あれってフチルン様もやってましたよね。私たちも実際習ったし」
「そうでござるな。フチルン殿は精霊魔法だけでなく、股間の蛇以外の武術の使い手でござった。他の呪文も同じように習ったでござるよ」
ワイトとパルホの言葉に、他の生徒たちは目をむいた。フチルンは花びら級の冒険者でキャコタより遥か西方にあるカハワギ王国出身だ。7人組でレッドモヒカンチームと呼ばれていた。
身に付けているの股間を隠す角飾りだけで、それに蛇の精霊を下ろして戦うのだ。
それ以外にも徒手空拳で敵を倒すことも得意としている。
「ふむ。それならワイトとパルホの二人でみんなの相手をしてもらうでしゅ。教師の手伝いをするのも勉強の一種でしゅよ」
「はい、構いません」
「もちろんでござる! 復習にちょうどいいでござるよ!!」
ネトブリに言われて、双子はやる気を出した。結果として二人はネトブリと同じ感電呪文を使いこなしており、みんなを驚かせた。冷静なのは同じクラスのドゴランだけであった。
稲妻王子はなんとなくです。所謂噛ませ犬ですね。読者としては嫌味な人物にした方が、殴られても心が痛まないと思いました。
イナズ・マオウジはぎなた読みで、適当にもほどがある名前です。
こういう言葉遊びも楽しいですね。




