第四十二話 ナイメヌの報告
「ではお父様、報告いたしますわ」
すでに夜で周りはすっかり暗くなっている。ここはキャコタ王立学園の敷地内にある大使たちの家だ。3階建てのマンションと呼ばれるもので、水道や電気、ガスが常備されており、水洗トイレに風呂もあった。
台所に応接間、寝室など部屋が多い。十人ほど住めるほどの広さだ。
ここはサマドゾ王国の大使にあてがわれた部屋だ。三階の一番東側にある。
応接間は窓にカーテンが閉じてあるが、部屋の中は真昼のように明るい。真ん中には革張りのソファーとテーブルが置いてあり、窓側には岩のような筋肉を持つ男と細身で銀色の犬耳で黒ぶち眼鏡をかけた黒服の紳士が一緒に座っていた。
大男はサマドゾ王国の大使、サリョド・サマドゾだ。犬耳紳士はアルジサマで男同士だがサリョドの恋人であった。
反対側には二十代後半の人形のような冷たさを感じさせる美女が座っている。髪の毛をお団子に纏めてあり、薄紫色のすらっとした紫陽花の刺繍を施したドレスを着ていた。
モコロシ王国の大使であり、ドゴランの姉であるエスロギだ。彼女の後ろには三頭のパンダたちが立っている。彼等は黄金獣で知性は人間並みに鋭い。
そして部屋には一人の犬耳メイドが立っていた。サリョドとアルジサマの娘であるナイメヌだ。
「ワイト様はドゴラン様に接近しました。途中でドゴラン様を快く思わない方に絡まれましたが、一蹴しましたね。二人っきりになったところをケダンが早とちりしてドゴラン様に喧嘩を売りましたが、生徒会長のガベリン様によって事なきを得ました」
ナイメヌは背筋をピンと立て、事務的に報告した。パルホは二度絡まれたがそちらは問題なしとなった。それを聞いたエスロギは頭を抱えている。
「ウゥゥ、馬鹿弟メ。よりによって男に愛をささやくナンテ」
「そのドゴラン殿はワイト様を女と勘違いしていませんか?」
アルジサマが黒ぶち眼鏡をくいっと上げる。目が鋭く光った。
「イイエ、それはありまセン。元々ドゴランはワイト殿を自国へ連れていく予定デシタ。ワイト殿の体質も吟味にいれてのことデス。マサカ、あそこまで美しくなるとは、予想外デス」
「とんでもない情報網ね。ドゴラン・モコロシという王様は」
「モコロシは付けなくてよいデス。弟は王様デス、国名はドゴラン王国デス。私が大使になったのは、ドゴラン王の姉というだけデス」
サリョドの言葉をエスロギが否定した。モコロシ王国の王様になるならともかく、自分で国を建て上げるなど規格外にもいいところだ。国内はもちろんの事、隣接しているサゴンク王国やスコイデ王国も問題視しているだろう。ドゴランに絡んだ生徒たちはまさに嫉妬に狂っていたのだ。
「ケダンが関わったときは慌てましたが、ガベリン様のおかげで手を出さずに済みましたね」
ナイメヌが言った。本来彼女はワイトのメイドだ。ワイトの世話役ではあるが、隠れて見守っていたのである。元々ナイメヌとケダンの双子はワイトとパルホを守るのではなく、二人を傷つけようとする者たちを守るためにいるのだ。
「……これは内緒だけど、ドゴラン王国の使節団が半年前にヤソクウ王国に赴き、一つの取引をしたの。それは転移門の設置よ」
サリョドが爆弾発言をした。転移門とは瞬時で移動を可能する魔法具だ。一基ずつ設置すれば時間差も距離も関係なく移動が出来る。
もちろん一山いくらどころか、小国の一年分の国家予算を軽く融かす。
「転移門……。ドゴランがサクッとアイディアを出して完成させた代物デス。そんなものが出回れば、世界中が大混乱に陥りますネ」
「ヤソクウ王国に設置するとはね。これはガベリン王女を側室に迎え入れる材料としてでしょうね」
ヤソクウ王国は岩山に囲まれた天然要塞だ。鉱石は豊富で珍しい薬草が多く生えている。
だが西方にあるゴスミテ王国以外道はないのだ。ドラゴン王国と取引が出来ればそこからモコロシやサゴンク、スコイデと貿易が可能になる。
ヤソクウ王家はサマドゾ王国のワイト王子を婿養子に入れる準備は出来ていた。だが転移門設置はサマドゾ王国より優先されるだろう。もちろんサマドゾ王国にも取引はできる。ゴスミテ王国からカホンワ王国を経由するだけで、ドゴラン王国からの交易品を得られるのだ。船で向かうよりもかなり早くなるし、運送費の関係で安く買える。国王マヨゾリも反対する理由がない。
「ドゴラン殿は天才すぎるわね。ドゴラン王国は彼一人で成り立っている。若いうちに芽を摘めばいいと思っている人は多いでしょうね」
サリョドは不安そうになった。問題はドゴランに危害が加えられるより、彼に巻き込まれる可能性が高いのだ。
「ワイトとパルホがそこら辺の生徒たちに負けるとは思えません。彼等は蕾級程度の冒険者なら軽く追い払えます」
「ですがその他の人が困りますね。だからこそ私とケダンがいるのですが、肝心のあのお馬鹿は……」
アルジサマの言葉にナイメヌが口を挟んだ。ケダンは冒険者としては有能な人材だ。装備もなしに一週間は山にこもることは出来るし、海原に一週間ほど耐えることは出来た。
なのにワイトと絡むと頭に血が上ることが難点だ。
「ガベリン様は先輩ですからね。何度も助けてもらうわけにはいきません。私が何とかして見ます」
「……ワタシとしてはパルホ殿より、ワイト殿が面倒に巻き込まれる可能性が高いデス。これは冒険者の勘デスネ」
エスロギの言葉にこの場にいた全員はため息をついた。
☆
「ところでナイメヌはどうしたでござるか?」
「周囲には気配を感じませんね。用事があるのかもしれません」
「しかしケダンは感心しないでござるな。拙者の護衛をすっぽかしてワイトの逢引きを邪魔したのでござるから」
ここは女子寮の前だ。ワイトとパルホは一緒に帰ってきた。女子寮はワイト、男子寮にはパルホが住む。
「あなたは襲われたのよね。しかもドゴランさんと、ロックブマータ関係で二回も。手ごたえはどうだったの?」
「雑魚すぎるでござるな。あれならハボラテの子供たちの方がましでござる。まったくここは井の中の蛙ばかりでござるな!!」
「本当ね。私としては我慢することを覚えた方がいいと思うね」
二人は仲良く話していた。魔女の子供として人から理不尽な恨みを買っている。だが双子には関係ない。野良犬を相手にするようなものだ。




