第四十話 ドゴランの告白
「こいつらは私が連れていく」
教師のキリョイが気絶した生徒たちを連れて行った。もちろん他の教師たちが彼等を担いでいる。
ワイトとドゴランは襲ってきた生徒たちを返り討ちにした。そこにキリョイがやってきた。
二人はキリョイに説明すると、彼は納得した。言葉だけで信じていいのかと思ったが、キリョイ曰く、相手が嘘を判別する魔道具があるという。右の耳に何か丸い物が嵌めてあった。それが魔道具だとういう。
「先生、パルホを見ませんでしたか?」
ワイトが訊ねると、キリョイは顔をしかめた。何かやらかしたらしい。
「彼女はモコロシ関係の生徒に絡まれた後返り討ちにしたが、さらに他の男子生徒ともめ事を起こした。ドボチョン・ロックブマータは素晴らしいんだと言いながら、襲ってきたらしい。それを返り討ちにしたそうだ」
最初の方はドゴラン関係で、その後ロックブマータ絡みになったようだ。
もっともパルホはすべて拳一つで解決したらしい。ワイトはまったく動じていなかった。妹なら当たり前だと思っているようだ。
「向こうは複数、パルホは一人だ。二回とも相手をすべて気絶させたが、彼女に処罰は下らないだろう。まったく入学初日から派手なことだ」
そう言ってキリョイはため息をついた。王立学園では恒例行事のようである。
「まったく馬鹿どもは理解できないな。なんでわざわざ処罰を下るような真似をするんだか」
ドゴランは腕を組みながら呆れていた。とはいえ気にした様子もない。あくまで虫がまとわりつく程度でしかないようだ。
「先進国から来たものはそうでもない。だが発展途上国だと自国と同じように振る舞う人間が多いのだ。その上キャコタ王国は島国だからな、広い大地を持つ国だと、キャコタを見下しているのだよ。技術力は圧倒的に上だが、土地の広さと歴史の年数しか自慢できない国には関係のない話なのさ」
つまりお山の大将を気取っているわけだ。キャコタに対して意味もなく見下しており、自分たちが命令されるのは気に喰わないのだろう。
「ですがロックブマータはそんなに有名なのでしょうか。私は一度読みましたが、それほど面白いとは思えませんが」
「俺もだ。というかあんな糞みたいな話にはまる奴の気が知れん」
ドゴランは吐き捨てた。
「私にもわからん。しかし2年前からロックブマータ関係でもめ事を起こすことが多くなった。常に自分だけが犠牲になり、仲間が傷つくことを一切認めない。そして倒した敵は警邏に突き出さない、それを破るとキレて暴れまくるのが正しいと思い込んでいる。まったくあんな話のどこがいいんだか」
キリョイたちは立ち去った。後日ワイトたちに襲い掛かった生徒たちは一か月間のトイレ掃除を命じられたそうだ。貴族である彼等には大変な屈辱であったが、本国では今度問題を起こせば感動だと言われおとなしくなったという。
☆
「それでさっきの話はどうなんだ?」
校舎の外でひと気のない所にワイトとドゴランはいた。ドゴランは改めてひと気のない所に誘ったのである。
「さっきの話ですか? 私を正室にしたいなんて冗談としか思えません」
「冗談ではないぞ。俺はお前を妻にする。これは本気だ」
「そもそも私は男ですよ。胸はないし、骨格も男ですよ」
ワイトは説明したがドゴランは聞く耳持たない。頭が痛くなってきた。
「キウノンと戦った時、お前は因幡尼の衣装を着ていただろう。胸はないが、腰回りや尻の肉付きは女そのものだ。数々の美姫を見てきた俺だが、うっとり見とれてしまったくらいの美しさであったぞ」
「……それはどうも」
男なのに美しいと言われると、どこか微妙な気分になる。しかも相手は真剣だ。自分をからかっている様子はない。どこまでも真摯であった。
「俺は王だ。欲しい物は何でも手に入れる。だが大抵は誰かが俺に持ってくるので、達成感はまるでないのだ」
「国も誰かからもらったのですか?」
「そうだ。あの土地に住む龍が俺に渡したのだ。お前こそ世界を統べる王に相応しいとな。故郷のモコロシはおろか、サゴンクやスコイデの人間が俺を慕って国民になったのだ。正直に言えばほしいと思ったらすぐに手に入る状況だな」
ドゴランは遠い目になった。彼には不思議な魅力がある。実力もあるのだろう。だが他人が欲しがるものはすべて望む前に手に入ってしまう。凡人には理解できない悩みであった。
「今欲しいのはお前だ。お前のあの身体を見てますます欲しくなった。俺のものになれ」
ドゴランはワイトの腰に手を回した。そして間近に顔が迫る。ワイトはそれを見てドキンと心臓が鳴った。すぐに首を横に振るとそれを否定する。対するドゴランはどこまでも真剣であった。
「俺を愛すれば世界を二人で支配できるのだぞ。こんな魅力的な誘いはないだろう」
「あなたには他にも側室がいるのではありませんか? それなのに男の私が正室になるなどありえません」
「あいつらも愛しているよ。だがともに世界を制するのはお前だけだ。俺のものになれ」
ドゴランは顔を近づける。まさか入学初日で男に愛をささやかれるとは思わなかった。なんとかして逃げたいが、力が強すぎて逃げられない。
万事休すであった。
「何やってんだぁぁぁぁぁ!!」
突如空から声がした。何事かと思って上を向くと、そこには犬耳の執事服を着た少年が降ってきたのだ。
二人を間に着地すると、少年はワイトを抱きしめる。パルホの執事、ケダンであった。
「てめぇ、何ワイトにチューしようとしてたんだ!!」
ケダンはドゴランをにらみつけた。まるで狼のように獲物に対して牙を剥いている。
ドゴランは獅子のように落ち着いていた。




