表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/113

第三十九話 ワイトとパルホが生まれた日

 それは12年前の話である。サマドゾ辺境伯のバガニル夫人が出産したのだ。ダブルベッドの上でバガニルは苦しそうであった。出産に立ち会う医者と産婆たちが待機していた。


 彼女はゴマウン帝国の第一皇女で、サマドゾ家の長男マヨゾリと結婚したのである。

 当初、バガニルは領民たちに嫌われていた。今はサマドゾ領ではあるが、昔はハボラテと呼ばれた魔境だった。とても人が住める土地ではなく、何百年も前に開拓したものたちが細々と暮らしていたのだ。


 サマドゾ家は原住民であるハボラテの民と戦い、勝利した。そして敗者と同化したのである。

 ハボラテにはモンスター娘と結ばれて魔族化したものが多い。アラクネにラミア、ケンタウロスにミノタウロスなどの魔族が独特の文化を築いていたのだ。

 サマドゾ領は彼等の力で繁栄していった。


 だがゴマウン帝国の皇帝はサマドゾ領を軽視していた。ろくな人員を寄越さず税金ばかり取っていく。たまに皇族が来たと思ったら、こんなゴミ溜めみたいなところはいたくない、早く潰してしまえなど暴言を吐かれたこともあった。これはクゼント皇帝の実兄アジャックが筆頭でサマドゾ領に罵詈雑言を並べ立てたのである。ついでに北部にあるヨバクリ侯爵領のアヅホラ・ヨバクリもアジャックに協調してサマドゾ領をこき下ろした。


 そのためにサマドゾ領内では皇族を忌み嫌っていた。主に悪いのはアジャックだが民衆は皇族なら誰でも同じと思い込んだのである。

 バガニルは数人の侍女たちとともに輿入れしてきた。彼女はすぐにサマドゾ領に恐れをなして逃げ出すと思っていたのだ。


 しかし彼女は強かった。彼女にあてがわれたゴミ山の部屋を自ら掃除してきれいにした。ろくに調理されない食材を前に出されても、彼女は颯爽と調理してサマドゾ家にふるまったのである。

 さらにマヨゾリの弟であるサリョドは彼女を屈服させようとしていた。当時は女など力で犯せばいいという発想だった。特に尻の大きな女性を狙っているという。男だけが持つ黄金魂おうごんこんの力を使って、バガニルを潰そうとしたが、逆に彼女の蹴りで金的を潰されたのである。


 おかげでサリョドは男としての尊厳を失い、オカマになってしまった。だが黄金獣であるアルジサマと巡り会うことが出来た。そして自身は妊娠しケダンとナイメヌの双子を出産したのである。

 そして今では立派な冒険者であり、魔法使いにもなったのだ。


「おめでとうございますバガニル様。元気な男の子と女の子でございます」


 ふっくらした中年女性の産婆が生まれたばかりの赤子を産湯に付けていた。出産の披露でぼんやりとしていたが、バガニルはふと疑問を抱いた。


「男の子に、女の子……。女の子が先でしょうか……?」


「いいえ、男の子でございます。ですが、もうすでに目を開けておりますわ」


 目を開けている? 普通赤ん坊は生まれた時は目を閉じているものだ。それなのに男の子はすでに目を開けている。どういうことだろうか?


「実は領主様の弟君であるサリョド様も生まれた時は目を開けておりました。ただ昔から女性のお尻に対して攻撃的でありましたね」


 それを聞いてバガニルは思い当たることがあった。自分の弟であるゲディスは6歳の頃母親が邪気収集の儀を実践していた時に、ゲディスはそれを見てしまった。一気に収集された邪気を幼児が触れると、邪気中毒になる可能性が高かった。弟は父親である皇帝の命令で、カホンワ男爵の養子に出された。男爵夫人であるイラバキは魔法使いである。

 邪気は魔法の源でもあり、邪気中毒を中和させるためでもあった。


「サリョド様は邪気中毒になったのでしょうか?」


「いいえ、そのようなことは。辺境伯様はその点は気を付けておりましたけどね」


 バガニルは察した。サリョドは生まれつきの邪気中毒者だったのだ。以前調べたがゴスミテ領では男同士でも子供を産むことがあるという。大抵は幼少時に邪気中毒になったという報告があった。

 そして子供を産んだのはゴスミテ領の人間がほとんどだったという。


 自分の子供が邪気中毒なら性格に問題が出るかもしれない。とてもではないが後継ぎにはできないだろう。これは夫に伝えなければならない。


 いや、それ以前に男が生まれたことが問題だ。そもそもバガニルは魔女の記憶を受け継ぐものである。魔女の第一子は必ず女の子が生まれていた。双子は一切生まれたことはなかった。

 

「魔女の運命が変更された……? 一体何が起こるというのかしら……」


 バガニルは不安になった。あと10年ほどで魔王が誕生する。魔王と言っても物語に出てくる悪役ではない。人間から生み出される世界中に広まった邪気をその時代のとある王国の人間がなるものだ。

 そして勇者は太陽の光を蓄光し、負の力である邪気と正の力である太陽の力で相殺するのだ。その影響で城に住む人間は体内にある邪気が結晶化し、魔石となる。数十年前、ゴマウン帝国の東にあるゴスミテ領はかつてのゴマウン王国だ。ゴマウン王家の人間が魔王と勇者になり、国は滅んだのである。のちにゴマウン王国を攻めようとしたカホンワ王国は、魔王の影響で誕生した大魔獣によって王家は滅んだ。

 ゴマウン帝国初代皇帝であり魔女であるゴロスリは、カホンワ王家の生き残りの少年と結婚して今に至るのだ。

 

 ゴマウン帝国の帝都は地獄と化すだろう。自分の弟ラボンクと皇妃バヤカロは魔王と勇者になり、中和されるのだ。大勢の人間は魔石となって死ぬのである。

 

 バガニルは男の子にワイト、女の子にパルホと名付けた。

 のちに一二歳になったワイトとパルホにはこの事を説明した。ワイトはすぐ納得してくれた。

 だがワイトが女性のような風貌になったのは予想外であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ワイトはオスの三毛猫のようです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ