第三十八話 ワイトの秘密
ワイトとドゴランは校舎の屋上に来ていた。屋上には白い柵が腰の高さまで設置されている。
噴水があり芝生が張られている。さらに木が生えており、花壇やベンチも設置されていた。まるで公園である。
周囲は誰もいない。屋上から校庭を見下ろすと複数の生徒たちでにぎわっていた。部活動の勧誘などで新入生の取り合いをしている。
「あなたは私に何をしたいのですか?」
ワイトは柵に手を当ててドゴランに聞いた。この男は自分が女装男子と気づいていないのだろうか。
「先ほども言っただろう。俺と付き合えと。俺の国に来て皇妃となるのだ」
ドゴランはきっぱりと言い切った。微塵も自分の言葉に疑いを持っていない自信たっぷりな口調である。
「残念ですがあなたのご希望には答えられません。なぜなら私は男ですから」
「問題ない。お前が男であることは最初から知っておる」
ワイトが真実を告げてもドゴランは平然と答えた。ドゴランは全く動じていない。自分が男であることを理解している。ワイトはドゴランを得体のしれない怪物に見えた。
「……あなたは正気ですか? 男を皇妃にするなんて、あなたは同性愛者なのですか?」
普通はそれを疑うだろう。なぜなら男同士では子供は作れない。それに小国とはいえ王様が男を皇妃に迎える。国民は納得しないだろう。
だがドゴランは真っすぐワイトを見ている。まるで鋼鉄の意思を持っているようだ。
「俺はお前の秘密を知っている。お前が男の身でありながら子供を宿せる体質であることも調べが付いているぞ」
「そんなわけはございません。どこにそんな証拠があるのですか」
「証拠か? お前の叔父サリョドと、ベータスは男の身でありながら子供を産んだではないか」
サリョドは父方の叔父で、ケダンとナイメヌを男の身で産んでいた。
ベータスは一年前に発覚した母方の叔父で、自分の住むサマドゾ王国の隣国カホンワ王国の貴族との間に子供を産んでいる。
「それはその人たちが特別なだけで、私は関係ありません」
「いいやある。この二人とお前には共通する点がひとつある。それは生まれつきの邪気中毒者だからだ」
ドゴランの口からその言葉が出ると、ワイトの心臓はドクンと太鼓を叩かれたように大きくなった。なんでこの男は自分の秘密を握っているのかと、心臓を鷲掴みにされた気分になる。
「サリョドは昔粗暴が悪かったが、お前の母親バガニルに金的を潰されて以来おとなしくなった。これは男の証を潰されたために黄金魂を使えなくなったのだ。そして叔父のベータスが赤ん坊の頃死んだと見せかけたのは、邪気中毒を誤魔化すためだった。これは俺の暗部が調べたことだがな」
ワイトはこの男が恐ろしくなった。なぜ自分の秘密を知っているのだろうか。
それに叔父のベータスの秘密も知っていることにも、驚きを隠せなかった。
「別に俺はお前の秘密を盾にしたいわけじゃない。俺の力を見せつけたいだけだ。俺が決して酔狂でお前を求めているわけではないと知ってもらいたいのだ」
「……ですが私は王太子です。こんな姿をしても国を捨てることはできません」
「嘘だな。お前は王太子じゃない。表向きはそう名乗っているが、実際は一歳の弟ムスコスが王太子であることは知っているぞ」
普通は長男が王太子になるものだが、両親はすでに決めていた。そこまでこの男は生ドゾ王国の内情を知り尽くしているのか。ここまで来ると嫌悪感より感心を抱いていた。
「さすがですね。ですがあなたはわかっているのですか? 先天性邪気中毒がどういうものかを……」
「まてぇぇぇ!!」
ワイトが話そうとしたら横から声をかけられた。振り向くとそこには男子生徒が3人ほど立っている。先ほどドゴランに絡んできた生徒たちの一部だ。
「ドゴラン!! 我々はお前を王とは認めない!! お前に奪われたものを返してもらうぞ!!」
「奪われたものだと? 俺はお前たちから物を盗んだ覚えはない。すべて向こうから持ってきたものだ」
ドゴランは冷静につぶやくと、男子生徒たちは烈火の如く怒った。
「だまれぇぇぇぇ!! 俺の国サゴンクの美妃と見目麗しい女将軍を攫っただろうが!!」
「そうだぞ!! スコイデでは国一番の女学者と女商人も去っていったんだ!! 国中の男たちがどれほど悔し涙を流したか理解しているのか!!」
しかしドゴランは右の耳穴をほじっていた。彼等の罵声などそよ風と言わんばかりであった。
「お前らは頭が悪いのか? どちらも俺が誘った覚えはない。全員自分の意志で来たのだ。それに彼女たちは母国では女と言う理由で冷遇していたではないか。俺はあいつらが伸び伸びと働ける環境を整えているだけにすぎん」
だが男子生徒たちは目を血走らせ、額に血管を浮かべていた。まるで発情期の猫のような凶暴さだ。
「……あなたたちもドボチョン・ロックブマータに影響された口ですか?」
「はぁ!? てめぇ何わけのわからねぇことを言ってんだ!!」
ワイトが訊ねると男子生徒たちは否定した。実はパルホも先ほど同じ質問をしたのだが、ワイトは知らない。
「このオカマ野郎!! さっきの男女もそうだが、お前らは俺たちの邪魔をして楽しいのかよ!!」
ワイトは彼等に違和感を覚えた。どうも先ほどから話が通じない。さっきから感情を暴走させているようだ。ドゴランが前に出ようとするが、ワイトが遮る。
「パルホをどうしたのですか?」
「あの男女は俺たちが可愛がってやったよ!! ひーひーいい声で泣いて―――」
男子生徒の一人が自慢げに叫んでいると、ワイトはその男子生徒の顎に掌打をかます。男子生徒は顎をゆすぶらされ、ばったりと倒れる。
「あなたたち如きにパルホがどうこうされるわけありません。ですが妹を侮辱した罪は償ってもらいますよ」
ワイトは倒れた男子生徒を見て、冷たく見下ろしている。それを横で見たドゴランは感心した目を向けていた。




