第三十七話 パルホは強いです
「では、本日はこれで解散します。明日から授業が始まるので各自の使用人と共に準備をするように。ではまた明日」
キリョイが挨拶すると生徒たちは立ち上がった。後は学生寮に帰るだけだが、すぐ帰っても面白くない。それに校庭では部活動の勧誘合戦がある。ワイトとパルホはこれからどうするかと相談しているとドゴランが声をかけてきた。
「お前たち。これからどうするつもりだ?」
「そうですね。上級生の方に私たちの知り合いがおりますので、挨拶に参るつもりです」
「なるほどな。それは後日にしておけ。今日は俺と付き合え、異論は認めん」
ドゴランがはっきりと言った。すべてを支配しなくては気が済まないような振る舞いである。
ワイトも横柄な態度に辟易しているが、どこか興味が湧いた。王であるドゴランが自分に関わることに興味を抱いた。危ないと言われる場所に行くなと言われると行きたくなる心理に似ている。
「あなたと付き合って私になんの得があるのですか?」
「俺が得をするからだ。お前の意見など聞いていない。黙って付き合え」
「……それはいいのですが、パルホも一緒でいいですか?」
ワイトはパルホを見た。パルホはドゴランに興味はない。あまり付き合いたいとは思えなかった。
「いらん。双子の妹がいなくてもお前は死なないだろう。この話はお前と二人きりでするものだ。他人は一切いらん」
きっぱりとドゴランは言い切った。ここまで来ると却って気持ちがいい。パルホもドゴランに拒絶されてほっとしている。
「おい!!」
そこに男子生徒たちが声をかけてきた。かなり声を荒げており、ドゴランをにらみつけている。
どうやらドゴランと同じモコロシ王国の貴族のようだ。黒髪に縮れ毛の少年であった。目つきが鋭く意地悪そうな顔をしている。
「おいドゴラン!! 貴様に話があるんだ、ちょいと校舎裏まで来てもらうぜ!!」
脅すような尊大な口調であった。
「断る」
ドゴランは無視して、ワイトと共に教室を出ようとした。その態度に男子生徒は顔をゆでだこのようにして怒った。
「なんだとてめぇ!! 俺はモコロシ王国の大貴族の息子だぞ!! 俺の命令が聞けないのか!!」
「だがお主は貴族の息子でござろう? 貴族ではござらんではないか」
パルホが間に入った。両手を腰に当て、二人の盾になる。
「ここは拙者に任せるで候。二人は早く行くでござる」
「うむ。パルホ殿、このご恩は近いうちに報いるであろう」
ドゴランは軽く礼を言うと、ワイトを連れて教室を出た。それを見て男子生徒は益々激怒する。
「なんだとてめぇ!! 男女の癖に俺の邪魔をするつもりか!!」
「男女であることは否定せんでござるよ。なぜドゴラン殿に絡むのかわからんでござるな」
パルホは平然としている。他の男子生徒たちもパルホをにらみつけている。こちらはサゴンク王国やスコイデ王国の貴族の子息たちだろう。普段は敵対国同士だが、ドゴランという共通の敵に対してはつるんでいるようだ。
「うるせぇ!! あいつは先祖代々の大切な土地を乗っ取った盗人なんだ!! あいつは罪人なんだよ!!」
男子生徒が唾を飛ばして怒鳴った。目を血走らせている。普通の女性なら怯えて逃げ出すかもしれないが、パルホは違った。彼女は魔獣やモンスター娘だけではなく、大魔獣とも渡り合える実力がある。ただ吠えるだけの人間にひるむ彼女ではなかった。
「……お主たち、ドボチョン・ロックブマータにはまった口でござるか?」
「はぁ!! なんだそりゃ!? 知らねーよそんなもの!!」
どうやら彼等はドボチョン・ロックブマータを知らないようだ。パルホはなんとなく安堵したが、男子生徒たちはますます血に頭が上っているようである。
「そもそもドゴラン殿がどうやってその土地を盗んだのでござるか? 拙者はまったくそれを知らないのでご教授願うでござる」
パルホがぺこりと頭を下げると、男子生徒は虚を突かれたのか、口を閉ざした。次に相手の無知に対してマウントを取った気分になったのか、説明してくれた。
ドゴランの乗っ取った国は三国に分かれる前に伝わられていた土地だという。
だが誰一人その土地に入ることが出来なかった。特別な結界が張られていたそうである。
それは千年前にモコロシ王国が一度滅んだときの話だという。その結界を5歳のドゴランが解いてしまったのだ。その土地には龍がいたという。一度暴れればモコロシ王国はおろか、サゴンクやスコイデも滅ぼされるそうだ。
ドゴランはその龍に認められ、体内に宿したという。
「わかったか!! ドゴランが泥棒だとよーく理解できただろう!!」
「いや、ドゴラン殿は悪くないでござるな。そもそもその土地の龍に認められているから、泥棒ではないでござるよ」
男子生徒の話をパルホは一刀両断した。それを聞いて男子生徒はパルホにつかみかかった。
だがパルホは右の正拳で相手の鼻を潰す。
男子生徒は鼻を潰され、大の字に倒れた。
「ふん、弱っちいでござるな。ドゴラン殿の足元にも及ばぬでござるよ」
それを見た他の生徒たちも驚いて蜘蛛の子を散らすように去った。
「まったく歯ごたえがないでござるな。ドゴラン殿の方がはるかに強いでござるよ」
ドゴランとは手を合わせていないが、パルホは彼の実力を感じ取っていた。先ほどの男子生徒よりなど比べ物にならない。
「ワイトとはお似合いでござるな」
パルホはそうつぶやいた。




