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第三十四話 マジッサ王国 ヒアルドンの凶事

「うむ。来たようだな」


 暗い部屋の中に一人の老人が立っていた。禿げ頭に滝のようなひげを生やしている。時刻は深夜で、マジッサ王国のロックブマータ教団の教会の中である。

 老人はロックブマータの司教であった。部屋の灯りは三本の蝋燭だけで、石造りの壁にゆらゆらと影が揺れている。

 そこに三人の影が現れた。戸を開けた音もなく、いつの間にかいたのだ。全員黒いローブを身に付けており、顔はわからない。まるで幽霊のようであった。


「司教様。お呼びでございましょうか」


 しゃがれた声であった。どこか幽鬼のような不気味な声であった。


「お前たち影に命じる。これからキャコタ王国へ旅立ち、ワイト・サマドゾとパルホ・サマドゾの護衛をするのだ。よいな?」


「御意」


 影たちはただ命令を聞くだけである。疑問など抱かない。物心つかない子供が親の命令を聞くのと同じである。

 とはいえ影たちは子供ではない。臨機応変に対応できるのだ。


 影たちはすぐに消えた。後には大司教しか残らない。まるで夢を見ていたような出来事であった。


「……頼むぞ。マジッサ王国を救ってくれ……」


 大司教はつぶやいた。そして昼間のマジッサ城での出来事を思い出す。


 ☆


「あっひゃっひゃ!! 司教様、こいつはとても面白いですぞ!!」


 玉座の間でキガチィ40世が玉座に腰を降ろしながら、一冊の本を読んでいた。子供のようにげらげら笑い転げている。


「……国王陛下、どの部分が面白いのかご教授願えますか?」


「うむ!! 水の魔法使いデキシーニの活躍ぢゃよ!! デキシーニが自分の命令を聞かない村人たちに魔法で濁流を呼び出し、村を洗い流す場面ぢゃよ!!」


「どこが面白いのか、この私にはさっぱり理解できませぬ。まったく情けない限りでございます」


 司教は頭をポリポリかきながら頭を下げる。相手の言い分を否定せず、自分を卑下して怒らせないようにしていた。

 

「そうなのか? まったく司教様は耄碌しかけておりますなぁ!! この本を読んでしっかりと脳を活性させた方がよいですぞ!!」


 キガチィは司教に対して無礼な態度を取ったか気づいていない。だが司教はさらっと流した。今の国王は狂人だ。下手に刺激すると爆発しかけない。


「儂は決めましたぞ!! 水の魔法使いを育てるのぢゃ!! そして魔女の住む都を濁流で更地にしていやるのぢゃ!!」


「魔女の住む都、でございますか?」


「そうぢゃ!! 風の噂では遥か西にはキャコタという島国がある!! そこに双子の魔女がおり、魔女の崇拝者どもが住んで居るという!! 儂はなんとしてでもその国を滅ぼしたい!! ドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズのような兵士たちを送り込むのぢゃ!! あっひゃっひゃ!!」


 キガチィは手をばたばたさせてはしゃいでいた。見た目は老人なのに子供っぽい仕草は不気味である。

 横には禿げ頭で丸眼鏡、ちょび髭を生やした中年男が立っている。この国の宰相ヒアルドンだ。彼は国王の暴挙を止めることなく静観している。昼行燈と馬鹿にされている彼だが、司教は信じていなかった。あの男はこの国を陰で支配している実力者だと見抜いている。なぜなら50年ごとに王族が皆殺しにされてもヒアルドンの一族だけは不思議に生き延びていたのだから。


「だが、なぜ陛下は遠いキャコタを知っておるのだ……。外国嫌いの陛下がキャコタを知っているわけがない。一体どういうことなのだ……」


 今日の昼頃、スキスノ聖国から魔導通信機で連絡があった。キャコタ王立学園でワイト、パルホの双子が同級生たちに絡まれたという。絡んだのはバデカス王国の王子と、ズゥコ王国の王女だ。二人ともドボチョン・ロックブマータの本を愛読していたという。


 マジッサ王国からキャコタ王国に行くには、南方にあるカモネチ王国を経由しなければならない。さらに軍艦も必要になるが、カモネチが貸すとは思えなかった。襲撃で軍艦を奪うのも現実的ではない。だがキガチィは兵士の命など軽視している。自分はゲームマスターで、舞台と言う駒を自在に動かす願望と欲求が高いのだ。


 だがキガチィがキャコタ王国に狙いをつけたのは確かだ。そして双子の魔女が狙われているのもわかっている。遠い外国の出来事だが、この双子を護ることがマジッサ王国を守る手段だと確信している。問題は誰がキガチィに吹き込んだかだ。


 司教が首を傾げていると、突如ノックもなしに扉が開いた。何事かと司教が振り向くと、そこには信じられないものがあった。

 それは3つの生首であった。全員禿げ頭で額に星の刺青を施してある。白目を剥き舌を大きく出していた。


「やあ司教様、夜分失礼します」


 部屋に入ってきたのはヒアルドンだった。彼の右手は血で濡れている。影たちを殺したのは見た目がさえない宰相であることは間違いない。


「―――!? ついに動き出しおったか!!」


 司教はヒアルドンの凶事を見ても冷静であった。来るべき時が来たと判断したようである。


「ほう、私があなたの暗器を殺したのに落ち着いたものですね。私の本性を見抜いていたのでしょうか?」


「2000年もマジッサ王家を支えた一族じゃ。油断などせんよ」


 司教は冷や汗をかいている。自分の命は今日で終わると思った。死に怯えていない。大事なのは自分の死をスキスノ聖国に伝えることだ。ごくりとつばを飲み込む。


「あなたには死んでもらいます。私の目的の為にね」


「ふん、私が目障りになったか」


「違います。あなたの死は必然なのですよ。あなたが殺されればキガチィ陛下は魔女の仕業と思い込むでしょう。なぜならドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズにも信仰深く優しい司教様が双子の魔女に殺されたのですからね」


 司教は目を見開いた。自分もあの小説ジュヴナイルは読んだが、さらっとしか見ていない。

 

「この私を簡単に殺せると思ったか?」


「はい、殺せます」


 ヒアルドンは淡々とした口調で答えた。普段はキガチィの無茶ぶりに振り回され、胃を痛めている姿とは別人である。これが本当の姿かもしれない。


「私を殺しても誤魔化せんぞ。スキスノ聖国の法皇様は私がどんな死に方をしたか感知できるでな」


「承知しています。それも含めてあなたには死んでもらうのです」


 ヒアルドンは一瞬で間合いを詰めた。そして右手で司教の胸を貫く。がはっと血を吐く司教。目を見開き、ヒアルドンの右手を両手で掴む。


「貴様……。何が目的だ……。マジッサを、どうしたい、のだ……」


 ヒアルドンは右手を抜くと、血が噴水のように噴き出す。そして司教は仰向けに倒れた。がふっと血を吐き出すと、そのまま息絶える。


「知る必要はないよ。あなたは知らずに死んだほうが幸せなのですよ」


 そう言うとヒアルドンの姿が煙のように消えた。翌日、信者が司教を起こしに行くと、彼の躯を見つけて蜂の巣をつついたように大騒ぎになる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 敵の陰謀も進んでますね。
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