第三十話 高慢な女に絡まれるのもお約束だよね
「ふぅ、魔力遮断が一般的でないとは驚きましたね」
「というかなんで魔力ゼロにしようとしたのでござるか? 拙者と離れ離れになりかけたでござるよ!!」
「私たちは双子ですがいつでも一緒にいられるわけではありません。なのでパルホとは別々になろうと思いましたが、うまくいきませんね」
ワイトとパルホは魔力測定を終え、行動の端っこで雑談をしていた。
周りの生徒たちは二人を遠巻きに見ている。その目は好奇と嫌悪で別れていた。
「あれが魔女の双子か……。入学式早々やらかしてくれたな」「なんで魔女の餓鬼が不通に入学しているんだよ。忌々しいったらありゃしないぜ」「今時魔女の子孫を差別するのは流行らないよ。特にキャコタではね」「あいつらなんで女装に男装しているんだよ気持ち悪い……」「けどどちらも美少女美男にしか見えないね」「魔女の子を差別しないなんてキャコタはどれだけ狂ってるんだよ……」
生徒たちはひそひそ話をしていた。話題はすべてワイトとパルホだ。二人が魔女バガニルの子供であることは知られている。魔女の子孫は世間一般では嫌われていた。だがキャコタでは魔女に対する嫌悪感はない。寧ろキャコタ王国の国教、ブカッタ教のアブミラが魔女は驚異的ではないと教えていたのだ。
他国の貴族や王族の子たちは様々な考えを持っている。魔女に好意を抱く者や蛇蝎の如く嫌っている者もいた。さすがに魔女の子を殺したいと願う国の子息は入学させない。下手をすると魔女を殺すために貴族を暗殺者に仕立てて学園内に血の惨劇を繰り広げられる可能性があるからだ。
「……さすがに私たちは目立ちますね。お母様の影響がこれほど強いとは思いませんでした」
「ふん、それほど母上の偉大さが世間で広がっているのでござるよ!!」
「それもそうですね。私もお母様に似ていると言われて嬉しくなりました」
二人は楽しそうに話している。同年代の冷たい視線など気にしていない。二人は人外魔境であるハボラテの民と交流してきたのだ。凡人たちの嫉妬など蚊ほどにも感じないのだろう。
「よろしいかな?」
一人の少年が話しかけた。腰まで滝のように伸びた黒髪に、すらりとした長身にすっきりした顔立ちで、刃物のような鋭い雰囲気があった。ワイトたちと同じ12歳のはずだが、まるで20歳の成人と言われても支障がないと思われる。彼の周りだけ極寒の世界が生み出されているようだ。普通の生徒なら冷気によって背筋が凍る気分になるだろう。
「あら、ドゴランさん。こちらは構いませんよ」
「うむ。先ほどの魔力測定だが見事なものだな。魔力遮断など口では簡単だがやってみるとなかなか難しいものだ。それをあっさりとやってのけたから大したものだよ」
ドゴランはべた褒めした。ドゴランは他の生徒たちとは頭がひとつずば抜けていた。他の生徒たちは彼と話をしたがっているが、ワイトとパルホのせいで話が出来ずにいた。
「ドゴラン殿も見事でござるよ。魔力測定器に魔力を注いで破壊したでござるから」
「あれは魔力を一瞬放出すれば簡単なことだ。パルホもそうであろう?」
ドゴランに言われてパルホは鼻を掻いた。照れ臭そうである。
「まあ、母上から魔力放出は習っていたでござるが、遮断の方は教えてもらってないでござるな」
「あなた邪魔よ!!」
三人が談笑をしていると、横から声をかけられた。
振り向くと一人の少女が立っている。金髪をロールにして頭には孔雀の羽根で飾られている。おしろいを塗り、紫色のアイシャドーと口紅を塗っていた。目つきが鋭く意地悪そうな雰囲気があった。
右手には羽扇子を持っている。有閑なマダムのようであった。
「あなたたち邪魔よ!! わたくしはそちらにおられるドゴラン様に話があるんですのよ!!」
何とも高慢な態度であろうか。ワイトたちを邪魔者扱いし、犬を追い払うようにしっしと手を振っている。横にはデブとのっぽの取り巻きの女子を連れていた。どちらも友好的とは思えず、虎の威を借る狐のようだ。
「あなたはどちら様でしょうか? 私は―――」
「お前の名前なんか知りたくありません!! この偉大なるわたくし、ズゥコ王国の第三王女であるソヘタクが下賤な者の名乗りなど聞きたくありませんわ!!」
ぴしっと、ワイトに羽扇子を突きつけた。デブとのっぽもそうだそうだ、お前みたいなオカマ野郎なんかソヘタク様の前で土下座しろなど囃し立てる。
「そもそもこちらにおられるドゴラン様がどういうお方がご存じですの!! モコロシ王国国王第13王子であらせられるのよ!!」
「おや、モコロシ王国はズゥコ王国より格下ではござらぬか?」
パルホが言った。モコロシ王国は国土は広いが技術力は低い。代わりに暗殺術と人海戦術を得意としている。かつては大国であったが魔王によって王国は滅んだ。そしてスコイデ王国とサゴンク王国の3つに分裂したのである。
反してズゥコは大陸の西方にあるナーロッパ諸国のひとつで、芸術の都として有名だ。キャコタ王国と同盟を組み、貿易をしている。ズゥコ王国の料理や衣服などのデザインを率先して輸入していた。
ズゥコにしてみればモコロシ出身のドゴランを重視する理由がない。パルホは素直な気持ちを伝えた。
するとソヘタクが激高した。
「この愚か者!! お前みたいな男女は知能が低いようですわね!! こちらの方を何も知らないのですの!!」
ワイトとパルホはなぜ彼女がここまで怒るのか、理解できなかった。




