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第二話 キャコタ王国の技術力は世界一

「では魔道発電機始動!!」


 野太い大男の声が響いた。全身筋肉の塊でごつい岩がくっついているような迫力がある。髪の毛は黒く刈り上げており、日焼けした肌は真っ黒であった。カイゼルひげを生やしており、猛禽類のように目つきは鋭く、鼻も鷲のくちばしのようにとがっていた。

 身に付けているのは白いマントと毛皮の服であった。ぴっちりと身体に張り付いており、筋肉の凹凸が目立つ。手袋と革靴は黒く光っていた。


 男の前には数万人の人間が立っていた。高い所で見れば絨毯のように見える。高級そうな服を着ている中年男に、平民らしい野暮ったい服を着た若者など様々だ。

 民衆の暴動を抑止するために、こんを手にした兵士たちが民衆の前で壁を作っている。


 その男の後ろには奇妙な建物があった。鉄でできた大きなパイプがいくつも並んでおり、一軒家ほどの大きな黒い筒のようなものだ。

 男が命じると召使らしい老人がボタンを押す。すると巨大な筒は奇怪な音を上げ始めた。まるで巨大な赤ん坊が泣いているように思える。

 傍には鉄でできた細長い棒が立っている。大人の身長よりはるかに高い。その先端には透明度の高い膜があり、中には繭のように丸い薄い陶器が置かれていた。

 しばらくすると陶器が光りだす。それを見て周囲の人間は驚いた。


「すごいや火がないのに明かりが灯っている!!」

「これがキャコタ王国で有名な街灯か、初めて見た!!」

「そしてこの魔導発電所があれば我々の生活は楽になるんだな!!」


 どうやら巨大な筒のおばけは魔導発電所というらしい。男はそれを見て満足している。


「今は特定の場所だけ街灯を設置してあるし、浄水場を動かすためにしか使われていない。まだまだ我がサマドゾ王国の全体をいきわたらせるほどのモノではないのだ。今はこの領都で街頭をいきわたらせ、生活魔道具がどこでも使えるよう工事を進めている。これからは夜の闇に薪を使う必要はないし、洗濯をするのに水を汲みに行くこともない。その空いた時間を別の仕事に費やすことができるのだ。この私サマドゾ王国国王マヨゾリ一世は諸君の生活と雇用を約束しよう!!」


 マヨゾリの演説で周囲の人間たちは沸いた。彼の隣には妻で王妃バガニルと、第一王子のワイトと第一王女のパルホが座っており、拍手をしていた。他にも貴族の当主たちが座っている。彼等もキャコタからもたらされた技術に明るい未来を見出しているようだ。


 ☆


「お父様すごいですね!!」


 パルホが父親に抱きついた。ここはサマドゾ王国の城だ。といっても貴族の家並みの大きさでしかない。周囲は壁で囲まれており、兵士が四六時中見張りをしている。

 一年前はゴマウン帝国の領地に過ぎなかったが、独立して王国になったのだ。


「私ではないよ。キャコタ王国の技術がすごいのさ」


 マヨゾリは興奮する娘の頭を優しくなでた。


「魔導発電とはどういうものなのでしょうか?」


 ワイトが訊ねた。彼は未知の存在に好奇心が抑えられなかった。


「邪気を収集してエネルギーに変えるそうだ。邪気は地面や空気にも含まれている。それらを集めて魔法を発動させるのだよ。その力で生活魔道具を発動させたりできるのさ」


 そう言ってマヨゾリは召使を呼んだ。犬ほどの大きさの鉄の容器に、何やら細長い管が付いている。


「こいつは掃除機と言ってね。空気を生みだしてゴミを吸い取るのさ」


 召使は掃除機のスイッチを押すと、がーがーと音を立てた。すると床の埃がきれいに採れる。ワイトとパルホは驚いた。


「こいつはキャコタでは一番安いものらしい。他にも洗濯機や冷蔵庫などすごい物がたくさんある。だが一番の利点は部屋の灯りだよ。こいつがあれば夜でも昼間のように明るくなる。水を吸い上げる魔導ポンプで重労働だった水汲みが楽になったのだよ。まあお湯の沸かすには薪が必要だけどね。キャコタでは薪ではなくガスを使ってお風呂を沸かすのだよ」


 父親の言葉にワイトとパルホは目を輝かせた。来年その素晴らしい国に行けると思うと心が躍る。


「僕たちはキャコタに行けるんですよね!! 早く行きたいなぁ!!」


「そこの技術をもっと盗み取って、サマドゾをもっと大きくして見せるぜ!!」


「ですがキャコタ王国王立学園は格式がありますわよ。あなたたちは国の代表なのですから、あなたたちの失態はサマドゾの失態に繋がるのですよ」


 そこを母親であるバガニルがやんわりと窘めた。とはいえ自分も幼少時はキャコタ王国の留学を楽しみにしていたし、そこで得られた経験はここで生かされている。子供たちの楽しみを奪う野暮な真似はしたくない。その一方で失敗して落ち込む姿も見たくなかった。


「王立学校は領都にある学校とわけがちがいますからね。自分の名前を書いたり、九九を覚えるだけではついていけませんからね」


 あと一年、自分の生まれ故郷であるゴマウン帝国が滅んで一年が過ぎた。帝国の崩壊で国は分裂している。世界の荒波を乗り越えるためには、必要な知識を与えるべきだとバガニルはそう考えていた。


「楽しみですね。キャコタでは何が待っているのかな」


「そりゃあ他の国の王子王女も来るでしょうね。私たちはそいつらに舐められないよう気を付けないと」


「あなたたちだけではありませんよ。叔父のサリョド様が大使としてあなたたちの面倒を見ますからね」


「もちろんサリョドだけではないぞ。アルジサマ殿も一緒だ。それにケダンとナイメヌもお前たちの従者としてついていくからな」


 子供たちは期待に胸を膨らませている一方で、母親と父親は子供たちのはやる気持ちを抑えた。


「え? ケダンにナイメヌですか?」


「あの二人が来てくれるなら百人力ですね」


 サリョドはマヨゾリの弟である。冒険者として活躍しており、アルジサマはその相棒だ。

 ケダンとナイメヌは二人の子供で、双子の姉弟だ。


「楽しみだなぁ」


 ワイトはそうつぶやいた。

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