第二十七話 ドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズとはどういう本か?
「あひゃひゃひゃひゃ! これは最高じゃわい!!」
マジッサ王国の国王キガチィ40世は玉座に収まりながら、本を読みゲラゲラ笑っていた。
そこに禿げ頭で滝髭の老人が現れる。立派な法衣を着ている彼はドボチョン教団の司教であった。
「これは陛下。随分楽しそうですな」
「おお司教殿!! 実はヒアルドンから面白い本をもらいましてな!! その名もドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズという子供向けの本ですじゃ!!」
キガチィは高々と本を掲げる。しかし司教は顔をしかめた。ドボチョンは女神の名前で、ロックブマータはその息子で英雄だ。さらにコブラツイスターズは勇者たちの名称である。それを題名にするとはなんとも不敬な本であろうか。
「……一体、どういう内容なのでしょうか」
「ほれ、百聞は一見に如かず!! ぜひ読んでみてくだされ!!」
キガチィは司教に本を差し出す。すると司教の顔が険しくなった。
ドボチョン・ロックブマータは特別な力を持つ存在である。幼い頃から超人の如き力を持っているため周囲から疎まれていた。
しかし17歳の頃、彼は自分と同じ人ならざる力を持つ仲間たちと出会った。
植物を自在に操り、鎧のように身を纏う者。炎で剣を作り出す者。雷を矢に宿す者。水を自在に操り濁流を生み出し人間を洗い流す者などいた。ロックブマータは彼等をコブラツイスターズと名付けたのだ。
ロックブマータは自分が特別な人間だと思い込んでいた。そして仲間たちにも自分たちの考えを強要していた。
そして自分に同調しない人間は容赦なく暴力を振るった。力を管理し自分好みの行動を取らないものもその対象となったのだ。
ロックブマータはこの時間を愛していた。永遠に同じ時間を繰り返すためにロックブマータはメビウスの城を作り、仲間たちと楽しく仲良く暮らしたという。
「ひっ、ひどすぎる……。そもそもドボチョン様は博愛の女神。他者に対して自身の考えを押し付けるなどありえない。ロックブマータ様も力は持っているが、敵を倒すより他者の為に家と畑を作る優しい英雄だ。それにコブラツイスターズは何の力にも頼らず毒蛇をひねる意味があるのだ。この本の内容はロックブマータ今日の教えを真逆にしたものですぞ」
司教は怒りに震えていた。それにロックブマータでは肉体は滅んでも魂は永遠と教えてある。生前に罪深い行いをすれば地獄へ堕ちると教えてあるのだ。メビウスの城という永遠に同じ時間を繰り返すなど神の意志をそむく大罪である。
その一方でキガチィの喜びようは異常である。彼はドボチョン教の信者だ。それなのにこの本は教団の教えを反発しているのである。
「はっはっは!! 司教様何をおっしゃいます。この本はとても素晴らしい内容ですぞ。わしは老人ですがここまで面白い本に出会うとは思わなんだ!! はっはっは!!」
キガチィは狂ったように笑っていた。司教は国王を不気味な者を見るように見つめている。
「司教殿はご存じですかな? ドボチョン・ロックブマータは最後ウサギの姿をした魔女を討ち取るのですぞ。魔女は人を堕落させる魔法を広めたため、ロックブマータに首を刎ねられるのです。そして教えた魔法をすべて人々から消去させる魔法を使い、世界は平和を取り戻したのですぞ」
キガチィはゲラゲラ笑い転げている。司教はこれを見てもう国王は終わりだと思った。
そして宰相ヒアルドンを恨んだ。なんでこんな本を国王に勧めたのか理解できなかった。
そもそもこの本は誰の作品なのだろうか。題名の他に著者の名まえを読もうとした。
だが名前は書いてない。しかし相手はドボチョン教を詳しく知る者だろう。そうでなければここまでドボチョンと真逆な内容を書くことはできない。
そこにヒアルドンがやってきた。彼は禿げ頭にちょび髭を生やした貧相な中年親父だが、どこかふてぶてしい笑みを浮かべている。
「これはこれは司教様。ごきげんよう」
「宰相殿も何よりだ。それよりもなぜ陛下にあのような本を勧めた?」
「実は悪書として取り締まるよう進言したのですがね。陛下は思いのほか気に入ったようですね。これは私としても想定外でしたよ」
ヒアルドンはにやにや笑っている。司教は知っていた。目の前の貧弱そうな男は内面は抜け目のない性格だということを見抜いている。
無論司教も正直者ではない。王国が禁酒を勧めても教会の敷地内では酒を売りさばいている。自分も外国、それもキャコタ王国から輸入した蒸留酒を愛飲していた。
この国の国王は50年ごとに王族がごっそりと入れ替わる。歴代の国王は城の中にしか興味がない。政治などヒアルドンの一族にすべて任せている。
それでもドボチョン教の信仰は篤かった。毎週、城にある礼拝堂で礼拝するくらいには。
それなのにドボチョンとまったく真逆の設定の本を楽しんでいる。もうキガチィは文字通りキチガイであった。
「はっはっは!! やはりこの本のように魔女は滅ぼさねばならん!! 魔女と少しでも関わる人間は皆殺しじゃ!! 儂の言うことを聞かない人間は存在してはならんのじゃ!!」
キガチィは足をばたつかせながらゲラゲラ笑っている。それを司教は冷めた目で見つめており、ヒアルドンは唇で薄く笑っていた。




