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第二十六話 キウノンの最後

 キウノンは公園にある公衆便所に飛び込んだ。30分以上踏ん張るとキウノンはげっそりとして出てきた。

 ようやく腹痛が収まると、次に怒りが沸き上がってくる。

 ワイト・サマドゾ。男の癖に女の格好をした軟弱者だ。


「うぉぉぉぉ、許さんぞぉぉぉぉ!! 卑怯な手を使いやがってぇぇぇぇぇ!!」


 キウノンは吠えた。彼は自分が勝って当然だと思っている。決闘で相手が勝っても「卑怯な手を使った!」と言ってうやむやにするのだ。そして勝つまで決闘を申し込む。

 相手が自分を避ければ周囲の人間にそいつの悪評を流す。何事も自分の思い通りにならないと気が済まないのだ。

 外祖父の影響も大きい。他国を見下すよう教育されたのだ。さらに変化を忌み嫌っている。キウノンが王立学園に入学したのは、キャコタは最悪な国であると宣伝するためだ。

 現実を一切認めず、自分の世界だけが最高だと思い込んでいる。今の世界情勢ではそれでは通じないのだが、王家に近い公爵家なので王家も強く出れないのだ。


「どこだぁぁぁぁ!! もう一度勝負しろぉぉぉぉ!!」


 キウノンはワイトを探す。見つけたら人の眼の前で相手を罵り、再び決闘を申し込むのだ。

 そして勝つまで辞めない。自分が勝って当然、相手が勝つなどありえない。


 キウノンは遠くでワイトを見つけた。にやりと笑うとワイトに突進しようとした。


 しかし身体が動かない。ワイトを呼び止めようとするが口が強張ってしゃべれないのだ。

 

「なっ、なんで!!」


 キウノンは焦っていた。なんで自分はワイトに近づけないんだ、声をかけられないのだ。

 早く決闘を申し込まなければならない。あんな卑劣な手段で勝利するなどありえないからだ。

 脂汗がだらだら流れるが、ワイトの事を考えると身体が石像のように全く動かなくなる。


「もう君はワイトとその関係者にちょっかいをかけられないよ」


 後ろから声がした。振り向くとそこにはキリョイが立っている。まるで生霊のように影が薄い。


「なっ、何を言ってる!?」


「君は審判の女神像に誓いを立てたんだ。あれは魔道具の一種で魂に盟約を刻む仕組みがあるのだよ。君は決闘に負けた。なので一生ワイト・サマドゾとその関係者にちょっかいをかけられないよ」


 キウノンはキリョイの言葉が理解できなかった。一生ちょっかいをかけられない? なぜだ?


「もう君はワイトに決闘を申し込むどころか、話しかけることもできない。ましてや他人にワイトの悪口を吹き込むこともできないし、紙で書くことすらできないよ。そして少しでもワイトと関わりを持つ者にもちょっかいはかけられない。ワイトに苛立って他人に暴力を振るおうとしても関係者としてみなされる。女神像を壊しても無駄だよ。あれは制約の言葉を魂に刻むだけの魔道具だからね」


 キリョイの言葉にキウノンは頭を金づちで殴られた気分になった。

 自分に恥をかかせた相手に報復が出来ない。嫌がらせもできない。

 頭に血が上りそうだ。自分の思い通りにならないことなどあってはならない。これは現実ではない、自分が信じていい現実ではないのだ。


「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 キウノンは吠えた。額や身体中に血管が浮き出る。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 殺してやるぅぅぅぅぅ!! ドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズのように自分を否定する者は力づくで踏みつぶしてやるぞぉぉぉぉ!!」


 キウノンはワイトに襲い掛かる。もう猪のようにわき目も降らずワイトを目掛けて突進してきた。

 ワイトの目の前に立つと、キウノンは白目を剥いた。そして口から泡を吹き出す。さらに股間から小便をもらして、水たまりを作った。

 そしてばったりと仰向けに倒れてしまった。職員たちがキウノンに近づき介抱している。

 その顔は醜く歪んでいた。


 ☆


「一体、キウノンさんはどうしたのでしょうか?」


 ワイトが心配そうにつぶやいた。キウノンに対して恨みはない、憐みしか湧かなかった。


「審判の女神像の盟約を破ろうとしたのだ。この男にとって約束を守ることは死ぬほど我慢ならないらしい」


 横にいるドゴランが答える。実はワイトは女神像が魔道具であることを知っていた。だが無理やり盟約を破ろうとするとは思わなかった。魂に刻まれた盟約は想像以上に相手を蝕む。普通は無意識に盟約を守ろうとするが、キウノンのように無理やり破ろうとすれば精神崩壊を起こしてもおかしくないのだ。


「君の責任ではないよ。彼は君に関わらなければ済む話だったのに、無理やり関わろうとしたからこんなことになったのさ」


 そこにキリョイがワイトに優しく声をかける。


「……あの方はそれほど盟約を護るのが嫌だったのでしょうか。私と関わらないくらいどうということはないでしょうに」


「調査以上に愚かな男だったな。プライドを異常なまでに優先し、現実を否定し続けた結果がこれだ。自業自得だ」


 ワイトが心配そうにしているが、ドゴランは斬って捨てた。


「それはそうとあの男、最後に奇妙なことを言っていたな。ドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズとはっきりと言っていたぞ」


「それはマジッサ王国の国教である女神ドボチョンと英雄ロックブマータを組み合わせた子供向ジュヴナイルけの本ですね。コブラツイスターズは毒蛇をひねる勇者として扱われたはずです」


「俺もあの作品は読んだことはある。だがひどいものだな。ドボチョン教団が読んだら頭が痛くなるだろうな」


 そうドゴランはあきれ顔になっていた。

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[一言] 鬱陶しいのを追い払えたでしょうか。
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