第二十五話 いきなり決闘を申し込まれたけど あっさり終わった
「決闘ですって?」
「そうだ!! この俺様に恥を欠かせた貴様に決闘を申し込む!!」
突然決闘を申し込まれてワイトは困惑している。筋肉モリモリのキウノンはかなり苛ついているようだ。自分がこの世でもっとも偉いと思い込んでいる馬鹿だ。
「嫌です」
ワイトはきっぱりと断った。するとキウノンは一瞬呆気にとられたがすぐに怒鳴り散らす。
「貴様ぁぁぁぁぁ!! この俺をコケにするつもりかぁぁぁぁ!!」
「コケにしてません。安っぽく決闘を申し込むとお里が知れますよ」
ワイトはどこ吹く風だ。キウノンが虎と例えると、ワイトはハシビロコウのように身動きしない。
「むがぁぁぁぁぁ!! 決闘しろぉぉぉぉぉ!! でなければ貴様が弱虫の臆病者だと言いふらしてやるぞぉぉぉぉ!!」
今度は脅しにかけてきた。見た目は偉丈夫なのに心はエビのようにちっぽけだ。
そこに教諭のキリョイが声をかける。
「一体何事ですか。決闘がどうとか言ってましたが」
「はい。こちらの方が私に決闘を申し込んできました。どうしたらいいでしょうか?」
ワイトが言うと、キリョイが顔をしかめる。
「キウノン・バデカス。あなたはどんな理由でワイト・サマドゾに決闘を申し込んだのですか?」
「それはこいつが俺に恥をかかせたからだ!!」
それを聞いたキリョイはやれやれと首を横に振る。
「……いいでしょう。決闘を認めます。審判の女神像に誓ってもらいますがね」
なんとキリョイは決闘を認めてしまう。キウノンは自分の要望が通って満足げだが、ワイトは無表情のままだ。
「では職員の皆さん、審判の女神像を持ってきてください」
☆
数分後、公園の広場でワイトとキウノンは対峙していた。二人の横には白い女神像が立っている。職員が二人がかりで運んできたのだ。
ワイトとキウノンは木刀を持っている。キリョイが渡したものだ。
「では二人とも審判の女神に誓いなさい。自分の名前と自分の持つ力をすべて出し切ること、そして相手の要望も正確に口にしなさい」
キリョイが説明する。
「ふん、くだらないな。正々堂々戦うに決まっているだろう!!」
「いいから、私の言ったとおりにしなさい。でないと決闘は認められません」
「くっ、我が名はキウノン・バデカス!! 自分の持つ力をすべて出し切る! そしてお前は一生俺の奴隷になれ!!」
キウノンのあんまりな言い分にケダンが抗議を出した。
「ふざけるな!! ワイトは王族だぞ、それを奴隷にするだと!!」
「馬鹿かお前は。俺は偉大なバデカス王国の王子だぞ? サマドゾなんて国は知らん。バデカス以外の国はみんなクズで価値などないわ!!」
キウノンは可可大笑いしていた。周囲は笑わず白い目で見ている。自分たちを侮辱されて笑える人間はいない。
「いいですよ。私はワイト・サマドゾ、自分の持つ力を出し切ります。そしてあなたは一生私と私に係わる人たちにちょっかいを出さないでください」
ワイトは冷静なままだ。ケダンはなお噛みつこうとするがドゴランが肩を掴む。万力のような力で身動き取れない。
「離せ! ワイトがあんな無茶な条件を出されるなんてほっとけないんだよ!!」
「静まれ犬よ。お前は自分の主人を信じられないのか? そもそもワイトはこの決闘の本質を理解しておるわ」
ドゴランはワイトを見る。その佇まいは凛としたものだ。
「では決闘を開始します。始め!!」
キリョイが声をかけるとキウノンが雄たけびを上げながら猪のように突進してきた。
「「着替え呪文!!」」
ワイトとキウノンが呪文を唱える。するとワイトはバニースーツに着替え、キウノンは黒い鎧に着替えた。重そうな鎧を着ててもその素早さは驚異的である。
「がはははは!! 植物は操れぬが、踏みつぶしてやるわ!!」
キウノンは自分を侮辱した者は許さない。ほんの些細なことでも認めないのだ。そして決闘を申し込んでは相手を暴力で屈服してきたのである。
目の前のワイトは女に見えるが男だ。そんな奴に負けるわけがない。自分に恥をかかせた奴はたっぷりと痛めつけてやる。
正々堂々と言っているが、それはキウノンにとって都合のいい言葉だ。相手が勝利すればすぐ相手を秘境と罵りインチキ呼ばわりする。そして勝つまで決闘を続けるのだ。今回も同じである。負けるとは思わないが、勝つまで続ける。それがキウノンの悪質な部分であった。
ワイトは右足を上げると、ぽんと地面を踏んだ。すると魔法陣が発動する。ワイトは数歩下がるとキウノンは構わず木刀を振り回しながら走ってきた。
魔法陣を踏むと、キウノンはあっさりと転んだ。キウノンは仰向けに倒れるとワイトはすぐにキウノンの腹部に右手を当てる。
「腹痛呪文」
ワイトの右手が淡く光ると、キウノンの顔が真っ青になる。
「うぉぉぉぉ、もれるもれるもれるぞー、クソがもれるぞー----!! モレチョーン、チッチー!!」
キウノンは腹を押さえながら、その場から逃げ出した。便所を探すためだ。
『この勝負ワイト・サマドゾの勝利です。これよりキウノン・バデカスに盟約の刻印を発動させます!!』
女神像から声が上がった。ワイトは動かない。勝利しても嬉しくないようだ。
先ほど足を踏んで魔法陣を設置したのは、転倒呪文だ。魔法陣を踏むと問答無用で転ぶ単純な魔法である。
そこに腹痛呪文をかける。相手を傷つけずにワイトは鮮やかに勝利したのだ。
「ワイト大丈夫か!!」
「平気ですよケダン。もう心配はありません」
「だがワイトよ、これからどうするつもりだ?」
心配するケダンの横に、ドゴランが声をかけた。
「あの男は蛇のように執念深い。決闘に負けても負けを認めず相手が卑劣だからと言って決闘を無効化させることで有名だ。あの男、しつこく決闘を申し込んでくるぞ?」
ドゴランの言葉にワイトは首を横に振った。
「問題ありませんよ。あの人は審判の女神像で決闘を申し込んだ。もう私と私に関わる人にちょっかいはかけられません」
ワイトは自信満々だ。ドゴランは愚門だったかとつぶやく。理解できないのはケダンだけであった。
「なんだよあいつ、男の癖にバニースーツを着ているぞ」「でも女にしか見えないね、胸はないけど尻がエロいね」「男でもいいかも……」
周囲の人間はバニースーツを着たワイトに見とれていた。男と聞いても尻の造形が素晴らしく見惚れるほどだ。
ワイトは平然としているがケダンはワイトが好奇心の眼にさらされるのが嫌になった。
その様子を後ろでうかがっている者がいた。髪の毛が黒く、肌も黒い。ハムスターのような愛らしい男子生徒であった。
「すごいなぁ」
可愛らしい声でそうつぶやいた。




