第二十四話 食文化の豊かさは幸福の証
「貴様ぁぁぁぁ!! 俺をこけにしやがったなぁぁぁぁぁ!!」
脳筋のキウノンは怒った。ワイトとパルホは正論を言っただけなのに激怒したのだ。
常識が全く通じない怪物に思えた。
「皆さん、早くバスに乗りなさい」
突如、すらりと背の高い男が現れた。まるで幽霊のようだ。水色の長髪に白い肌、黒ぶち眼鏡をかけていた。白い服と黒いズボンを履いている。
「失礼しました。私は王立学園教諭、キリョイと申します。皆さんはあのバスに乗っていただきます」
キリョイが指を差す先には四角く細長い鉄の箱があった。見たところ馬が見えない。
「あれは馬を使わない馬車です。魔導力で走行する魔導バスというものです。」
キリョイが説明するとキウノンが叫んだ。
「貴様ぁぁぁ!! 俺がしゃべっているのに、邪魔するんじゃなぁぁぁぁぁぁい!!」
「さっさと乗ってください。時間がないんです」
キリョイはキウノンの額に右手の人差し指を指した。すると彼は素直にバスに乗った。キウノンはきょとんとしている。キリョイが何かをしたようだ。
ワイトとパルホ、ケダンとナイメヌはバスに乗る。大使たちは別のバスに乗った。バスの中には革張りの椅子が並んでいる。ワイトは窓際の席に着き、ナイメヌが隣に乗った。後ろにはパルホとケダンが座った。
バスは動き出す。馬がいないのにかなりの速さだ。ワイトは目を丸くする。これが魔導力なのかと感動した。
道路も奇麗に整地されており、ほとんど揺れずに進んでいる。街並みも石造りの家が並んでいた。
数分経つと小高い丘に止まる。キャコタ王国の王都が一望できる場所のようだ。キャコタ城にブカッタ教の宮殿が見える。
キャコタ城は白銀のような岩山であった。ブカッタ宮殿は屋根が白い雫のような形をしている。
さらに庭はヤシの木が並んでおり、真ん中には円形の噴水が見えた。文明と自然が調和された美しい作りである。
「素敵ね……。これが世界一の国なのね」
ワイトは目の前の光景を見てため息をついた。サマドゾ王国ではありえない技術力を見せつけられた気がした。ハボラテの都も立派だが、あそこは奇麗じゃなかった。もっともあの城は敵と戦うための無骨な作りなので、どちらが優れているわけではない。
「ふん!! あんな小汚い城を見せつけるとは、キャコタはよほど頭が悪いと見えるな!!」
キウノンが叫んでいた。あの美しい城を見てよく罵倒できるものだ。
周囲の人間も顔をしかめているが、注意しない。恐らくバスの中で注意したが怒鳴られたのだろう。
ワイトたちはキウノンに対して憐憫の情が湧いた。現実を理解できない哀れな猿だ。
「えー、皆さんにはここで食事を取ってもらいます」
キリョイは他の職員に指示をしてテーブルと椅子を設置させた。そして紙の箱から何かを取り出した。
まずテーブルには黒く楕円形の塊りを置く。そこに水の入れたやかんを置いた。数分後はお湯が沸いた。どうやら黒い塊は魔道具のようだ。
「これは携帯用のコンロです。火がなくてもお湯を沸かせます。そして沸いたお湯をこう使います」
職員たちはカップを用意しており、中に固形物を入れていく。そしてお湯を注ぐといい匂いがした。
「これは即席スープの元です。お湯を注ぐだけで飲めます」
さらに金属の筒を取り出す。蓋を開くと中には肉や魚、果物が入っていた。その他にも袋に入ったクラッカーを差し出された。
「これはキャコタ王国のクイダ商会が作った保存食です。即席スープの値段は一つ銅貨一枚です。缶詰は高くて銅貨3枚です。クラッカーは銅貨2枚ですね」
キリョイが説明するとキウノンが怒鳴った。他にも抗議する生徒たちが立ち上がる。
「貴様ぁぁぁぁぁ!! 銅貨一枚の価値しかない食べ物をこの俺に口にしろというのか!! ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」
「ふざけてませんよ。そもそもこれらはキャコタでは銅貨一枚ですが、他国では銀貨一枚になりますよ」
キリョイは暖簾に腕押し、糠に釘であった。キウノンだけでなく、他国の生徒たちも文句を言っているが、各国の大使たちが宥めている。
ワイトとパルホ、ケダンとナイメヌは無視してテーブルを囲み食事を取る。
ワイトはカップに入ったポタージュを飲みながら感心していた。
「いい味ですね。お湯を注ぐだけでこれだけおいしいものを飲めるなんて」
「それに缶詰も恐ろしいでござるな!! 肉や魚、果物が新鮮なまま食べられるのでござるから!!」
パルホはクラッカーを食べている。塩味が効いており、とてもおいしい。缶詰は味の濃い魔獣の肉や魚も美味であった。果物も甘いシロップに付けられており、甘味が濃いが普通に食べられた。
「……ああ、この缶詰は一年以上は保存が出来るんだ」
「冒険者の食事には欠かせませんね。昔は塩漬けのキャベツや干し肉が主流だったけど、今は色々な味と食感を楽しめるのですよ」
ケダンたちの説明を聞き、ワイトの顔に陰りが見える。
豊富な食文化は、その国が豊かであり技術力の高さを証明してくれている。
バスという乗り物もかなりのものだが、これらの食品はキャコタの底力を見せつけられた気分になった。
「今は冒険者ギルドだけに卸しているが、キャコタ王国では普通の店に置いてある。それらが先ほどの値段で売られているのさ」
「食料が安いということは、それでも成算が採れるということでござるな!」
ケダンの言葉にパルホが反応していた。他国では小麦ばかりを作ることに夢中だ。とうもろこしやイモなどは家畜の餌として扱われて食べたがらない。様々な野菜や果物を作れることは食糧事情に余裕があることである。
「ふふ、お前たちなら必ず気づくと思っていたぞ」
そこに黒い長髪の美男子が現れた。すっとワイトの隣に椅子を置く。ケダンは思わず立ち上がりそうになった。
「他の奴らは安物を食わされたと怒っている。これらが軍隊に採用されればどうなるかわからないようだ」
「あなたは? 私はサマドゾ王国の第一王子ワイトです」
「ドゴランだ。モコロシ王国の第7王女エスロギの弟だよ」
「エスロギ様の?」
ドゴランの後ろで、女性が笑顔で手を振っていた。背後には三頭のパンダが二本足で立っている。ワイトも釣られて手を振った。ワイトはエスロギから手ほどきを受けたことがあるのだ。
パルホは三頭のパンダから武術を習っていた。
「姉さまからはお前の事は聞いている。あの人が他人を認めることは少ないからな」
ワイトとドゴランが話していると、そこにキウノンが割って入った。
「そこのお前!! 俺と決闘しろ!!」
あまりの唐突な申し出にワイトたちは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。




