第二十三話 空飛ぶ船が飛んで来たら驚くよね
ここはキャコタ王国の南方にある港イサカ。数多くの船が停泊していた。中からは身なりの良い12歳の子供たちが大人と同伴で降りてくる。
彼等は世界各国からキャコタ王立学園に入学するためにここに来たのだ。
港は整地されており、レンガで作られた倉庫が何十件も並んでいた。
そして見たこともない鉄の塊が馬や牛もいないのに動いている。船から木の板に積まれた荷物を何度も往復しては倉庫に運んでいった。
「ふん、小汚い田舎だな。こんな猿が住む島に3年も住むなんて我慢ならん」
他の子どもより頭がひとつ大きい男が周囲を見ながら悪態をついた。
短く切り揃えた金髪で、上半身は筋肉で膨れている。だが顔つきは熊のように狂暴そうであった。
「……ここを田舎呼ばわりするとは、見る目がない愚者だな」
その様子をすらりとした長身の少年が吐き捨てるように言った。紫色の襦袢を身に付けている。髪は鴉の羽根のように艶がある黒色で、腰まで伸びていた。まるで女性のように美しいが、目つきは猛禽類のように鋭い。
「彼はバデカス王国の第一王子キウノンですネ。傲慢で脳筋な人だと聞いてますヨ」
後ろから声をかけたのはすらりとした長身で二十代後半の氷のような冷たい美貌を持つ美女だ。髪の毛をお団子に纏めてあり、薄紫色のすらっとした紫陽花の刺繍を施したドレスを着ており、人形のように均整の取れた体つきだ。胸はメロンのようでドレスがキツキツである。
さらに三頭のパンダが二本足で立っていた。
「バデカス王国はスキスノ聖国より北にあるナーロッパ諸国のひとつだな。あそこは小国が多いと聞く。変化を忌み嫌う習性が多いと聞くな」
「ワタシも何度か行ったけど、あまりいい思い出はないネ。まともなのは芸術の都であるズゥコ王国ぐらいなものですネ」
「……エスロギ姉様にそこまで言わせるとはな。あの国との取引は遠慮させてもらおう」
少年は周囲の人間を見回した。立派な身なりをしているがどいつもこいつも中身が伴っていない。
彼は王立学園に入学する身だ。3年間も一緒に過ごすなど耐えられないと思っている。
エスロギはその様子を見てため息をついた。二人はモコロシ王国から来た王族だ。エスロギは冒険者であり大使を務めている。
「ドゴラン、あまり露骨なことは言わない方がヨロシイ。あなたは王となる身なのダカラ」
「わかっているさ。俺が来たのはあいつを迎え入れるためだ」
エスロギは弟のドゴランを心配していた。彼はキャコタ王国の貴族、カシラ男爵の娘を側室に迎える約束をしている。カシラ男爵はモコロシ王国の外交を担当しているからだ。
それに弟は優秀すぎる。自分以外はみんな馬鹿だと思っている傾向が強い。その弟が一人の人間をスカウトするために入学を希望したのだ。
エスロギも相手のことを聞いており、納得している。
「あれ? 空を見ろ!!」
「鳥か?」
「ドラゴンか?」
「いや、丸い銀色の塊だぞ!!」
突然騒ぎが起きた。偶然空を見上げた者が叫んだのだ。そして空には丸い銀色の船が飛んでいたのだ。
そいつは港にある空き地に降り立った。船はすっぽりと収まる。
「なんだあれは!!」
「あれはサマドゾ王国の土地だぞ!! あれはサマドゾの船だ!!」
「空を飛んでくるなんてすごい!!」
サマドゾ王国の大使館がある土地に、銀色の船が降り立ったのだ。何も知らない人間にとって騒ぐなと言うのが無理である。
「おお、あれはサマドゾ王国の船だ。なんと素晴らしい物だろうか!!」
ドゴランはそれを見て感動していた。後ろに立つエスロギはにっこり微笑んでいる。
船から二人の男女が出てきた。
波のかかった白髪にすらりとした体形の美少女に、短い黒髪にがっしりした体つきに日焼けした肌を持つ美少年である。
美少女はワイトで、美少年はパルホだ。
エスロギは二人を見て、感心していた。
「一年前は普通の少年少女でしたガ、すっかり見違えましたネ」
「……」
ドゴランはその横で見惚れていた。魂を抜かれたとしたらこうなるかもしれない。
「……話には聞いていたが、ここまでとは……」
不機嫌そうだった顔がすっかり明るくなっている。美しいものを見ると心が洗われると言うがまさにそうであった。
「おい貴様ら!!」
静寂を破ったのはある男の怒声であった。そいつはワイトとパルホに悪意を向けていた。
「貴様ら! なんで空から飛んできたのだ!! 今すぐ国に帰って出直してまいれ!!」
キウノンであった。額には血管が浮かんでいる。こいつは自分より目立つ登場をしたワイトたちに怒りを覚えたのだ。子供じみた理由である。
「え、嫌ですけど」
「そもそも空を飛んできてはダメと言う法律はないでござる。お主はキャコタ王国の入国管理官でござるか?」
ワイトとパルホはキウノンの罵声などどこ吹く風である。するとキウノンは拳を握りしめ血管が浮いていた。
「貴様らぁぁぁぁぁ、屁理屈を抜かす出ないわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺が出直せと言ったら、おとなしく従えばよいのだぁぁぁぁぁぁぁ!! なぜなら俺はバデカス王国王太子キウノンであるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
まるで雷のような声であった。これを間近で聞いたらウサギのように怯えて縮こまるだろう。
周囲の気の弱そうな少年少女たちは現に身体が小さくなっている。
「あなたも私たちと同じ外国から来たのですね。私たちをどうこうする資格などありません」
「ここはキャコタ王国でござるぞ。自国と同じ振る舞いをすれば恥をかくのは自分でござる」
二人はキウノンを無視して、去った。それをキウノンは口をパクパクしながら茫然と立っていた。
その様子を他の子供たちが見て、笑っている。
「本当にそうだよね。正論だよ」
「それにしてもあいつなんであんなに偉そうなんだか」
「バデカス王国って馬鹿しかいないのかねぇ」
笑い声が響いていると、キウノンは額に血管を浮かばせ、歯を剥き出しにして食いしばった。
背中から熱気があふれ出る。
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! この偉大なる俺様を侮辱するとは、なんたる、なんたる不敬か!! 許さぬ、許さぬぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
キウノンは吠えた。しかし周りの子供たちはうざそうにしている。ドゴランもその様子を後ろから見ていた。
「座敷犬のようだな。まったく耳障りな奴だ」
ドゴランは小声でつぶやいた。その目はゴミを見るようなものであった。




