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第十九話 話合い

「では出発は明日ですわね」


 夜中に屋敷にある応接間で、4人の男女が話をしていた。

 サマドゾ王国国王マヨゾリ一世とその妻バガニル。

 マヨゾリの実弟であるサリョドと、相棒のアルジサマ。アルジサマは常時人間化になっている。

 サリョドはいかつい大男だが女口調だ。彼はサマドゾ王国の大使としてワイトとパルホの両親に報告していたのだ。


「うむ。子供たちはすでに部屋で休んでいる。あとはサリョドとアルジサマの二人に任せよう」


 マヨゾリは岩のようにごつい筋肉で黒肌だ。カイゼルひげを生やしており、腕を組んでいる。

 鋭い目つきは平民なら恐怖で土下座してしまうだろう。

 サリョドは普通に接している。彼も兄と同様だが一回り小さい。それでも常人と比べれば恵まれた体格を持っている。


「ワイト様とパルホ様にはケダンとナイメヌが待機しております」


 執事服を着たアルジサマが答えた。ケダンとナイメヌは二人の寝室の中で待機していた。ケダンたちは眠っているが侵入者が来たらすぐに起きれる。冒険者の時は野営で役に立っていた。


「領地には二人がサマドゾから出ていくことを反対している者が多いです。馬鹿な考えを起こさなければよいのですが……」


 バガニルが心配そうである。ワイトとパルホはバガニルの子供で人気があった。だがキャコタ王国王立学園を卒業しても二人が帰ってくることはない。二人はそのまま他国へ嫁ぐからだ。

 もちろん国民には知らせていない。一部の貴族だけである。王都の住む人間は割と正直なため、二人が戻らないと知れば大騒ぎになるだろう。今は静かなので情報は漏れていないようだ。


「……パルホ様はともかく、ワイト様も他国へ婿にやるのですか?」


「確かヤソクウ王国のお姫様が相手でしたっけ」


 アルジサマが訊ねて、サリョドが相手の国を言った。ワイトはバガニルの長男だ。普通は後継ぎとして扱われる。ワイトは身体や知能に問題はない。むしろ常人より優れている。

 ヤソクウ王国は東にあるゴスミテ王国よりさらに東にある。岩山に囲まれた陸の孤島だが、豊富な鉱石と希少な薬草の宝庫であった。王国と言うより豪族の集まりで、近年キャコタ王国の商人による技術提供のおかげで豊かになったのだ。


「後継ぎの件はムスコスがいます。問題はありません」


 ムスコスはバガニルとマヨゾリの息子だ。まだ一歳で乳飲み子である。 ちょうど2年前にゴマウン帝国が滅ぶ前に生まれたのだ。貴族や王族は自分で子育てはしない。乳母の仕事だ。公式には発表しておらず領内ではあまり知られていない。なので今でもワイトは王太子と思われていた。


「それにアブの子供もいるからな。別にバガニルの子供でなくても問題はない」


 マヨゾリが事も無げに言った。アブはバガニルの侍女頭であり、マヨゾリの側室でもある。

 6歳の息子がおり、王族の教育を受けさせていた。彼女の家系はサマドゾ家の家臣で地位は高い。身分は問題なかった。


「そこまでしてワイトに跡を継がせないとはどういうことかしら?」


 サリョドは疑問を口にした。それをバガニルが暗い顔で答える。


「……あの子は優れすぎているのです。気の弱いところはありますが、あの子は全盛期の私を軽く超えるかもしれません。それがよくないのです」


「……天才に頼ることを恐れているのですね」


 アルジサマがバガニルの本心を察した。マヨゾリも苦い顔になる。どうやら的を得たようだ。


「天才と言ってもまだ12歳よ。そんな理由で後継ぎから外すとは思えない。実際はどうなのかしら?」


 サリョドがバガニルを見た。すべてはお見通しよと言っている気がする。


「……このことは4人だけの秘密ですよ」


 バガニルが小声で話した。するとサリョドとアルジサマの顔が真っ青になる。マヨゾリは最初から知っていたので顔色は変わらない。だが複雑な気持ちを抱いていた。


「……なるほどね。確かにワイトを後継ぎにするどころか、二度と故郷の土を踏ませない気持ちがわかるわ」


「下手をすれば世界が滅びかねません。苦渋の決断でございますね」


「すると私が義姉さんにキャンタマを潰されたのも、怪我の功名というわけね」


 サリョドとアルジサマはバガニルに憐憫の情が湧いた。王立学園に入学すれば二度と我がことは会えない。その喪失感はいかがばかりのものか。


「……ワイトにはこの事を伝えております。あの子は王族として育ててきました。サマドゾ王国のためならその身をささげる覚悟を決めております。ですが……」


 バガニルの瞳から涙が零れ落ちる。王族と言っても人の親だ。我が子との永遠の別れに悲しまない親はいない。

 マヨゾリもそんなバガニルをおもんばかって背中をさすった。


「魔女の宿命は私の代では終わらなかった……。なぜあの子が過酷な運命を背負うのか、私には理解できません」


 バガニルは泣いた。彼女は2000年の記憶を持つ魔女だ。過酷な人生を送った先代の知識を蓄えてきた。自分たちに役目を与えた光の神ヒルカと闇の女神ヤルミはこの地を去った。もうこの世界に神はいない。もう人間は神の束縛から離れ、自由になったはずだった。


「もしかしたら神すら予測がつかなかったのかもしれないな……」


「今思えば、ラボンクとバヤカロ、アヅホラが二人を、いえワイトを後継ぎにしたがったのは、本能で察したのかもしれないわね」


 マヨゾリとサリョドがつぶやいた。ワイトとパルホは今は亡きゴマウン帝国の皇帝と皇妃が後継ぎにと要求していた。二人の間に子供は生まれなかったからだ。最初は姉であるバガニルに対する嫌がらせと思っていた。だがバガニルは気づいていた。ワイトの秘密を理解していたのだ。


「そういえばマジッサ王国の事をご存じでしょうか?」


 アルジサマが口を挟んだ。それをバガニルが答える。


「マジッサ王国ですか? 確かあの国は魔女を蛇蝎の如く嫌っていますね。もっとも三代目の魔女であるドボチョンがそう仕向けたのですが」


「そうでしたか。実はマジッサ王国はここ最近国内で魔女を殺すための兵力を集めているそうです。世界中のみんなと協力して、あなたと仲良しの国をすべて滅ぼすと宣言しているそうですよ」


「……」


 バガニルは答えなかった。それは自分の身内が脅威にさらされることではない。マジッサ王国の妄言に呆れていたのだ。

 そもそもマジッサ王国は鎖国している。周辺国のピロッキ、サゴンク、カモネチ王国とはまったく国交がないのだ。いきなり出兵しても通行を許可するわけがない。

 マジッサ王国の国境付近では各国の商人たちが交易していることは知っている。王族に内緒で国民が外国製品を扱っていることも、ハボラテのハーピーたちを通じて知っていた。


「ちょうど神がこの世界を去った2年前から始まったそうですよ」


 アルジサマの言葉にバガニルは顔を曇らせた。マジッサ王国をタダの馬鹿の集まりと判断するには危険だと察したのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔女の宿命がここに引き継がれているんですね。
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